第23話 リアンの気づき
目的は果たしたというのに、帰路はなんとも重苦しい空気で、往路よりも時間が長く感じた。
双子は黙り込んで俯いているし、俺はさっぱりその理由がわからない。
シャムは呆れ返った顔でしばしば俺を見上げては「やれやれ」と言わんばかりに首を振る。
そして翌日の夕方に俺たちはヴェルデの待つ我が家へと帰ってきた。
「戻ったか。目的は果たせたか?」
「あー……ああ、そうなんだが」
「ふむ」
ヴェルデは視線だけで俺たち四人を見渡し、納得した様子で頷いた。
アルクとシエルが嬉々としてヴェルデに成果報告をするだろうと思っていたが、その様子はない。
「アルクにシエルよ。疲れたであろう。小屋で休んでいるといい」
ヴェルデの言葉に二人は素直に頷くと、小屋に入っていった。
俺は居残りだ。なんか、そんな感じだ。
「リアンよ、そこに直れ」
「はい」
謎の威圧感に圧倒された俺は素直にピシッと両手を体の横に揃えてヴェルデの前に立つ。
シャムはひょいひょいとヴェルデの肩に登って上から俺を見下ろしてくる。
「大方、ロックバードの戦闘時にお前が魔法で支援をしたというところであろう」
「なっ、見ていたのか⁉︎」
「やはりか」
ヴェルデは大きな手で顔を覆う。シャムがヴェルデに顔を寄せているので、彼が見たことを報告しているのだろう。
シャムの話を聞いたヴェルデが、深いため息をついた。
「お前は、アルクとシエルが並々ならぬ覚悟で望んでいたことを理解しておるか?」
「ん? ああ、もちろん。初めての実戦だからな。だからこそ直接手を貸さずに二人の手助けを……」
「ふむ、自分で気付いておったら、お主は今ここにはおらぬか」
俺の弁明を受け、ヴェルデは呆れた声で首をゆるゆると左右に振る。
ヴェルデの大きな瞳には、憐憫の色が滲んでいる。
アルクとシエルがどうして気を落としているのか、ヴェルデが何を言わんとしているのか。
さっぱり理解ができない俺を憐れんでいるようだ。
「いいか、アルクとシエルは自分の力でロックバードを倒さんと意気込んでいた。一人で倒すことで、今まで消極的だった自分と決別をし、さらなる高みへと足を踏み出す契機にしようとしておったのだ。して、奴らの戦いは、お前が魔法で援助しなければ命が危うい状況だったのか?」
「いや……そこまででは……まあ、膠着状態ではあったと思うが」
「自分の立場で考えてみることだ。お主は、自分の力だけで倒そうと望み、決意を固めている戦いで、借り物の力で敵を倒して素直に喜べるか?」
「それは──」
──そうか、そういうことか。
俺はヴェルデの言葉を受けてようやく、二人が暗い顔をしていた理由に行きついた。
「お主はなぜここにいる? なぜここに来た? そして、なぜここに留まるに至った? 同じことを繰り返しているようだと、お主は何も変わらぬぞ」
ヴェルデの言葉は深く俺の胸に突き刺さる。
俺は、愛するパーティをやめてくれと請われ、居場所を求めてここにきた。
イカロスたちを追い詰めた理由はきっと、今回双子が思い詰めていたのと同じ理由なのだろう。
「誰かを守りたい、助けになりたいという気持ちは尊ぶべきものだ。だが、善意の押し付けは時に相手を追い詰める。二人が助けを求めたか? 自らの力で窮地を脱する経験を積む。そうして人は成長していくものであろう。お主のやっていることは、ただの自己満足にすぎん。成長機会を奪っているといい加減理解しろ」
ガンと頭を殴られたようだった。
思い返せば、アルクもシエルも、戦いの最中、俺のことを一度も見なかった。
危なくなれば大声を上げろと伝えておいた。
だが、彼らは声を上げず、歯を食いしばり、戦っていた。
それはつまり、俺の助けを求めていなかったということ。
それなのに、俺は勝手に二人の覚悟を踏み躙り、良かれと思って力を貸した。
なんて傲慢な考えなのだろう。
パーティにいた時はどうだった?
確かに俺は、みんなのためを思ってサポートに全力だった。
だが、本当のところはどうだ? みんなの役に立っていると実感して一人満足していたのではないか?
ただ、俺が満たされるために力を行使していたのでは……。
パーティから離れるに至った理由を、自分なりに理解していたつもりだった。
ここでの生活を通して、少しでもそんな自分よがりな考えを改めることができたら、そう思っていた。
なのに、俺は同じことを繰り返していた。本当の意味で、イカロスたちの思いすら理解できていなかった。
「ヴェルデ、ありがとう……二人と話してくるよ」
「それがよかろう」
俺は項垂れながら小屋に向かった。
自分たちの部屋に行っていると思っていたが、アルクとシエルはリビングにちょこんと座ってテーブルの木目をじっと見つめていた。
俺は静かに二人の対面に腰を下ろした。
「アルク、シエル、ごめんな。俺、お前たちの決意を踏み躙ることをした。謝って許される事ではないと思っている」
素直に詫びの言葉を述べ、二人に深く頭を下げた。
すると、二人が慌てた気配がしたのでそろりと顔を上げる。
アルクとシエルは戸惑った様子で顔を見合わせ、ぽつりぽつりと二人の考えを聞かせてくれた。
「ごめんね、リアン。ぼくたちが弱くてたよりないから、たすけてくれたんだよね」
「わたしたち、自分の力だけでロックバードをたおすんだって、もくひょうを立てていたのは本当。でも、あのままたたかっていても勝てたかどうかはわからないの」
「リアンのおかげで勝てたけど、あれはぼくたちの勝利じゃない。それより、リアンに手をださなきゃって思わせたことが……んと、ショックだったんだと思う」
「それが、情けなくて……落ち込んじゃってごめんね」
二人は眉を下げながら、俺の反応を窺っている。
「なんで二人が謝るんだ。頼まれてもいないのに、俺が勝手に補助魔法を使ったんだ。確かに苦戦はしていたが、俺から見ても二人はよく戦えていたと思う。記憶や感覚が新しいうちに、二人さえ良ければ……また特訓をしよう」
俺にできることは、二人をとことん鍛えてやること。
それしかできない俺は、ヴェルデの言葉を借りるならば脳筋なのかもしれない。不服だが。
気まずくて頭を掻く俺を、目をパチパチさせながら見つめてくる二人。
そしてふにゃりと、少し泣きそうな笑みを浮かべた。
「うん、もっと強くなりたい」
「わたしたち、がんばるね」
「ああ、俺はどうやら一般的な感覚と少しズレたところがあるようだから、おかしいと思ったことや辛いことがあったら遠慮なく言って教えてほしい」
「少しどころじゃないと思うがにゃあ」
お互いに照れ笑いを交わしていたところ、気の抜けた声が聞こえてきた。
窓を見やれば、窓枠に肘を突きながらシャムが顔を覗かせていた。
「シャム、聞いていたのか」
情けないところを見られたようで、少し気恥ずかしい。
「無事に和解できるか見守りにきたのにゃあ。その様子だと、大丈夫そうなのにゃ」
「ああ、おかげさまでな」
シャムはそのままするりと室内に滑り込んできた。扉から入れよ。
「せっかく取ってきたんだにゃあ、和解したのなら早く羽毛布団を作りたいのにゃあ!」
シャムは頭の後ろで手を組み、尻尾をゆらゆら揺らしながらそう言った。
「うん、そうだね!」
「早く作りたい!」
アルクとシエルもようやく笑顔を浮かべた。
シャムのおかげでぎこちない雰囲気から一転、和気藹々とした空気に変化した。
シャムの遠慮のないズバズバとしたところや、ゆったりとした気の抜けた態度が成せるものだとありがたい気持ちになる。
「よおし! じゃあ早速作業に移るか!」
「おー!」
「おー!」
「にゃー!」
俺たちは小屋の外に出て、【アイテムボックス】から大量のロックバードの羽毛を取り出した。
大きな水泡を作って洗濯の要領で大量の羽毛を綺麗に洗う。それから飛ばされないように結界で囲いながら風魔法で羽を乾かす。
さらに清浄魔法で羽を清めておく。清浄魔法は生活魔法の一種だが、とても便利で冒険者には必要不可欠な魔法だと自負している。この処置は必要なもの。もう間違えない。
「ふあふあ!」
「ふかふか!」
「にゃっふ〜ん」
しっかりと洗浄と浄化を施した羽をみんなでせっせと布に詰め込み出来上がった羽毛布団は想像以上にふかふかで、すっかり三人を魅了している。
アルクとシエル、それにシャムはそれぞれ羽毛布団を抱えて小屋に入っていった。きっと寝心地を確認しに行ったのだろう。
無邪気で純粋な彼らを見ていると、独り立ちできるまでしっかりと守ってやりたいという思いが込み上げてくる。
だが、いったいどこまで踏み込んでいいのか、どこからが過干渉だと揶揄されるのか。
その境界線を見誤ってはならない。
「難しいな」
俺はポリポリ頭を掻きながら、羽毛布団を抱えて自室へと向かった。




