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プロローグ
人間というのは不思議だ。
ここに来る連中を見ていると、そう思う。
なにがそんなに嬉しくて笑い、悲しくて泣くのだろう。
さらに妙なのが、嬉しくて泣くこともあるらしい。
もっとわかりやすい反応をしてほしい。
条件反射的な倫理観だけが植え込まれている俺にとって、
涙をこぼされてしまうと、なにか悪いことをしてしまったんじゃないかと狼狽えてしまうのだ。
石造りの簡素な一室で、天井まで届きそうな巨大な額縁が、いくつも並んでいる。
そこには世界を切り取ったかのような風景画が描かれている。
客たちは足を止め、思いに耽る。
穏やかな顔。悲痛な顔。怒りを浮かべる者もいる。
そして多くが最後に、涙した。
――そんな中、変な子供に出会った。
そいつは一枚の絵に釘付けになっていた。
他の客が次々と通り過ぎる中、ただ一人だけ動かない。
顔にはなんの感情も見られない。
なんの興味もなさそうに絵を眺めている。
もしかしたら、俺と同じく、感情がほとんど動かないのかもしれない。
興味を引かれ、歩を向けたのだが――
違った。
近付く足音に振り返ったその子供は、
目を大きく見開き、俺の顔を凝視して、
一筋の涙を流した。




