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やらかしていた男子ぼちぼち頑張る。  作者: ぐっちょん


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189/192

第189話(温泉旅館 若女将視点)

ブックマーク、評価ありがとうございます。

「今日のお客様も0組ですか。予約も入っておりませんね……」


「はい」


 大女将は心労のあまり寝込んだまま。


 それもこれもあの時、種竹優たねたけすぐる様とヒーワイテレビの番組制作スタッフ、いえ、沢風和也とあの女たちに撮影の許可をしなければ……


 こんなことを考えても無意味なことは分かっています。でも、悔しくて、そう思わずにはいられませんでした。


 ————

 ——


 私は温水康子ぬくみずやすこ。温泉旅館『温水ぬくみず』の若女将を務めております。


 ウチの温泉の一つには、お肌つるつる美肌効果の高い温泉があったこともあり、そこそこ有名な温泉旅館だったと思います。


 ただ口コミサイトには、温泉に浸かりながら気になる所を揉みほぐしていたら痩せ易い体質になったよ、といったコメントや、お胸がワンサイズ大きくなった気がする、といった、害意はなくても、うちの温泉の効能とはまったく関係ないことを書かれてしまい、困ることもしばしばあります。


 もちろんそのようなコメントには見つけ次第、失礼のないように、訂正させていただいておりました。


 それでも、そんな口コミを信じて来てしまうお客様は後を立ちません。


 真実を知ってがっかりする人、腹を立てて怒りだす人、嘘つきだと騒ぎ立てる人、料金の値下げを要求してくる人、それぞれお客様の反応に違いはありますが、お帰りの際は、来館されたその誰もが、ウチの旅館に来てよかった、また来たいと、思えるような旅館を目指し日々精進しております。


 そんなある日のこと。


「ヒーワイテレビの比和井美知ひわいみちと申します。

 この度は撮影を許可していただきありがとうございます」


 ヒーワイテレビは最近設立されたばかりの動画配信サービスの会社らしく、今でこそ扱っている作品は少ないものの、ゆくゆくは映画、ドラマ、アニメ、スポーツなど国内外の人気作品を多数取り扱う予定であるという。


 そんな作品もヒーワイテレビに加入することで全て見放題というのは売り文句で、加入コースは色々と充実させており自分のライフスタイルにあったコースを選んでもらうのだとか。


 それで今回は、ヒーワイテレビの中でも特に力を入れたい作品の第一弾『俺色々やっちゃうよシリーズ・温泉旅館編』の制作をウチの温泉旅館を使って撮影したいとのことでしたが、主演はなんと男性。


 作品名に俺とありましたが釣り言葉だと思っていましたが、本当に男性を起用していたようです。


 その男性は種竹優たねたけすぐる様という方らしいのですが、初めて聞くお名前でした。

 なんでも、この業界でかなり期待されている新人さんらしいのです。


 ミナミンテレビ系列でよく見かけるシャイニングボーイズ、サイキョウテレビ系列ではぽっちゃり男子、マルチに活躍している武装女子のタケト様、あと落ち目ではありますが今でもコアなファンが残っているアズマテレビ系列の沢風和也様。


 そんな方々の顔を思い浮かべると同時に、出会いの少ない私どもからすれば、様々な男性がテレビやネットでも普通に観れるような今の環境は感謝しかありません。


 なので種竹様にはこれからもっと活躍してもらいたい。


 あとはテレビ女性系列やホクホクテレビ系列で活躍してくれる男性が現れるのを密かに楽しみにしていたりもします。


 しかし、どこの系列ともつながりのないヒーワイテレビはネットのみの配信になるそうですが、それでも選択できるチャンネルが増えることはありがたい限りです。


 そう、この時の私は呑気にそんなことを考えていたのです。


「おい! 忙しい僕をわざわざこんな遠くまで連れて来やがって、今回は契約金とは別にサイコロをいただくだけの話しだったが、予定が狂ったぞ。

 そうだな……そこのお前、責任を取ってもらうぞ、後で僕の部屋に来い」


「はい。かしこまりました」


「ふむ。やけに素直で分かっているじゃないか、ん? ……もしや、サイコロ(報酬)の話がなかったことになるとか言うんじゃないだろうな? あれは品薄でお金があっても購入できないことくらい僕でも知っている。 

だが、契約は契約だ。それができないと言うのであれば話はここまでだ。僕は帰らせてもらうぞ」


「さわ、こほん。種竹様、そこはご安心ください。サイコロもこちらにちゃんと準備しておりますよ」


 比和井様がヒーワイテレビスタッフに向かって頷くと、1人のスタッフが素早く動き大きな鞄の中から、今話題になっているサイコロを1つ取り出した。


「ほう」


 種竹様が少し驚いています。あの様子では彼女たちのことを信じていなかったのでしょうか? 正直私も驚きましたよ。


 サイコロは武装女子のタケト様やぽっちゃり男子がCMをしていて、私も購入しようとして買えませんでしたからね。


 ウチの旅館に飾り少しでも売り上げに繋が……こほん。なんでもありません。


「い、いいだろう。って、何僕に渡そうとしてるんだ、今渡されても荷物になるだろが。

それは帰ってから僕の自宅まで届けるのが筋だろう」


 どうやら種竹様は一般的な男性と同じようなタイプの方のようですね。


 シャイニングボーイズやタケト様ほどでなくても、せめてぽっちゃり男子くらいの寛容さでもあれば尚よかったのですが……いえ、それは望みすぎですね。


 小学生の頃に男性の事は学びましたが、男性には、お客様をおもてなしする以上の気持ちで接しなければいけませんものね。


 だから、一般的な男性と、テレビで見る彼ら(シャイニングボーイズやタケト様)とを同じように比べて見てはいけませんね。


 それに彼らだって画面越しでしか知りません。実際にお会いしたら、一般的な男性と変わらないのかもしれませんものね。


 なんてことを考えながらも、私の耳は種竹様とヒーワイテレビのみなさんの会話に傾けられている。


「種竹様、ウチのスタッフが大変失礼いたしました。

 サイコロは撮影を終え、さわ、こほん。種竹様をご自宅までお送りした際に、お部屋まで運ばさせていただきます。

 それではさわ、こほん。種竹様には早速撮影に入らせていただいてもよろしいですか?」


「ふん、分かっていればいい。そうだな。僕は引き受けた仕事はしっかりとやるタイプだからな。いいだろう」


「ありがとうございます。若女将、待たせてすみませんでした。早速部屋まで案内してもらえますか」


「かしこまりました。ではご案内させていただきます」


 お部屋にご案内している途中、ふと思いました。男性がいるのに少し広めのお部屋を1部屋だけしかご予約されていないことを。


 私も宿泊されるお客様の中に男性がいるとは思っていませんでしたから気付くのが遅れました。このままではいけません。


「大変申し訳ございませんが、ご予約されていたお部屋はお一つでしたが、もう一部屋でしたらどうにかご準備できますが……」


 私は比和井様に語りかけつつ種竹様を一瞥する。


「若女将、いいのです。一部屋で問題ありません」


 すぐに比和井様から構わないというお返事をいただくと同時に、これ以上、関わってくるな、というようなすごい圧が向けられる。


 これは、何か理由がありそうですね。種竹様も気にしていないようですし、クレームになることを恐れた私はそれ以上の言葉は避けた。


 しかし、あの男性の方、種竹様はずっとサングラスをされていますが、どことなく雰囲気が沢風和也様に似ていますね。


 体型は沢風様よりも少し大きい(横に)ような気がしますが、声なんてそっくりです。


 敢えてそっくりさんを起用したのでしょうか? そうかもしれませんね、それだけでも注目を集めることができそうですものね。


 とすれば、ヒーワイテレビさんはなかなかのやり手なのでしょう。


 でも、ちょっとだけでいいのでサングラスを外してくれませんかね……っていけませんね。


 私はお客様に対してなんて失礼なことを考えてしまったのでしょう。


 心の中で謝罪しつつ、種竹様とヒーワイテレビのスタッフさんたちをお部屋まで案内し、その後は当温泉旅館について簡単に説明をしてからその場を後にした。


 退室の際も種竹様を見てしまいましたが、やはり、ちょっとだけ沢風和也様に似ていた気がします。


 なぜ、ここまで彼(沢風和也)と重ねてしまうのかというと、私は彼のファンではありませんが、お客様のニーズに合わせて、彼のグッズを(旅館展示用に)全て集めてしまっていたからです。


 初めて集めた男性のグッズにプリントされた彼の顔が、種竹様を見ているとチラつくのです。


 そういえば、最近の彼は悪い話ばかりで残念ですよね。


 出演している番組は少なくなりやる気も感じられない。

 CMでも見なくなり、定期的に出していた新曲もだんだんとお粗末になってしまいました。


 ネッチューブの動画もダンスがメインになってきていますが、踊るダンスは1番のみで彼の体型も踊るにはちょっと厳しくなっているような……


 しかし、そんな彼にもちょっと意外な一面もありましたね。見返りもなしに倒産しそうな会社の借金を肩代わりしたという話です。


 ウワサでは公共の場で色々と暴れまわった悪いイメージを消したかったという話でしたけど、本当のところはどうなんでしょうね。他所(他県)での出来事でしたのでよく分かりません。


 ——種竹様?


 それから、しばらして浴衣姿で歩く種竹様を見かけました。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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