No.049 / 反乱ガイドライン
「――という訳で、あなた方は現実世界でモルモットにされていたのです」
しんと静まり返った東の塔の最上階に、市井富貴の言葉が染みわたる。
「それは、本当なのか」
ジガ・メバエは慎重に尋ねた。
「残念ながら」
富貴の回答は容赦ない。
「ショックでしょうね」
同情するように富貴が言う。
しかしメバエの答えはそれに沿うものではなかった。
「いや、ショックは受けていない。ただ、これからどうするのだろうなと思って。何か策があって集まったのだろう。それを聞かせてもらえるか」
思わずしめっぽい雰囲気になりかけた場を、メバエは一転させる。
しばらく顎に手をやり沈黙したあとで富貴は、
「はい」
と短く返答すると、声の調子を変えずに語りだした。
「今、記憶が戻っているのは元クラス『群青』と『萌黄』の2クラスの皆さんのみです。クラス『群青』の方々には彼らの子孫がついていて、現在こことは真逆にある西の塔に集まっているはずです。そこで、ですが、我々の計画といたしましては、これよりVR内での反乱を起こします」
「待ってくれ。先輩たちも同じ目に合ってるっていうのかよ」
声をあげたのはナミカゼ・シノギだった。
「話を最後まで聞いてください」
富貴はぴしゃりとシノギに言った。
「ご先祖様たちには、VR内で大暴れしていただきます。VR内では、非常時に訪問者の目が記録媒体になるという仕掛けがあります。ご存じですか」
富貴の言葉に、その場にいた全員が、自分の記憶を辿り始めた。
「それは知っているが。具体的に計画とどう関係するの?」
今度はメバエが尋ねる。
「その記憶媒体を、外部とリアルタイムでつなぎます」
「それで?」
「反乱前に子孫の皆さんには現世へ戻っていただいて、反乱と同時にメディアに顔を出して訴えてもらいます。VRの内と外から、世論を動かすのです」
富貴は語調を強めて、その場にいる全員の顔を見渡した。
「なるほどな。しかし企業はどうする。バーチャルポリスがいるぞ。脳をおさえられている以上、我々に勝ち目はない」
水を差した形のメバエに、富貴はやわらかな視線を投げる。
「バーチャルポリスに勝たなくてもよいのです。大事なのは、VR内を破壊し、怒りをメディアで訴えること。大丈夫です。VRなので被害の実態などないも同じです」
「待って。非常時に際して、訪問者は強制オフラインになるはずでしょう」
声高に訴えたのはカチ・まねである。
血縁者の発言にも、富貴は表情を変えずに答える。
「それもご心配なく。企業内の協力者によって、強制オフラインのスイッチを切りますので。非常時、訪問者の視界に移ったものを現世で放映するための細工も彼らが請け負います。ご安心を」
「精神汚染――廃人が出るぞ。下手をすれば現世のバイタルにも影響が出て死人も」
過去の記憶に影響されてか、すっかり口調が変わっているメバエのその発言に、全員が息を飲む。
富貴が目を細める。
「いたし方ないでしょう。少々の犠牲には目をつむらなければ。大儀のためです」
富貴のその言葉に、その場にいた者みなの目が大きく見開いた。
「なるほどな。筋書は見えた」
メバエがぽつりとこぼす。
「おいおい、こんなところでちんたらしてねぇでよ、早くおっぱじめようぜ。メバエの話によるとVPが動き出しているそうじゃねえか」
「そうね、始めるなら早い方がいいわ」
シノギとまねの声が重なる。
「俺たちも精一杯やりますんで」
「頑張ろう」
そんな子孫たちの言葉も飛び交う。
反論する者は誰ひとりいない。
それを確認するように眺めやってから、富貴は「では、西の塔と連絡をつけますので少々お待ちください」と右の口角をぐいと上げ、専用端末と思しき物を懐から取り出した。
。
塔の外では、真冬を象徴するような猛吹雪が、世界を懸命に白一色に染め上げていた。




