第廿一之巻 邂逅、そして激情
更新しました。読んでくれたら幸いです。再編集のため一部文章を付け足しています。内容には変化はありません。藤波真夏
丹波らは先に屋敷に帰還していた。女たちはその怪我の手当て。いつまで経っても帰ってこない陽を心配してソワソワしている。
「陽は大丈夫だろうか・・・」
一番心配していたのは松風だった。もう夜遅い時間なのにずっと外で丹波と待っている。丹波は自分がいるから先にお眠りください、と言うも松風は強情にも断り月夜の下待ち続けた。
「あの子、人間だよ」
「なにしてるんだろう?」
聞こえてきたのは子供の声。松風が振り返るとそこにいたのは松風よりも年下の子供が二人。森からひょっこり現れたそれを松風は判断できずにその場で硬直した。
すると後ろから鎧姿から普通の小袖姿に着替えた小百合が立っていた。すると小百合は子供の目線にしゃがみ込み声をかけた。
「森へお帰り。きっと母親も心配してる」
子供たちは顔を見合って森の奥へ帰って行った。松風は小百合のほうを向くと小百合は一礼して言った。
「あれはアヤカシ木霊でございます。子供のアヤカシと言われております」
「アヤカシ木霊って、小百合もそうじゃないのか?」
「そうですが、子供の印象ですがアヤカシ木霊も成長すれば大人になります。この銀色の髪は木霊が大人になった証拠です。もっとも、私はアヤカシをやめたので途中で止まってしまったのです」
松風は小百合の応答に対し浮かぶ疑問。でもこれを質問していいものか---?
なんで小百合はアヤカシをやめたのだ?
松風は小百合が悪い気分になったらと考えるとなかなか切り出せない。しかし子供の好奇心ほど行動力を起こすものはない。あっという間に口に出していた。
「なんで小百合はアヤカシをやめたのだ?」
二人の間に沈黙が走る。小百合は表情が固まり、動けない。やってしまった! と松風は後悔する。松風はすぐに弁解する。
「あ! すまぬ! 言いたくないよな! 人だって思い出したくない思い出の一つ二つ・・・!」
顔を赤くしていると小百合は微笑んで松風の顔を覗き込んだ。
「・・・いつか、気が向いたらお話いたします」
小百合の目が一瞬銀色に輝いた。目の錯覚だろうかと松風は目を見張る。しかしもう小百合の目は銀色には見えなかった。
すると馬の鳴き声が聞こえてきた。それに反応した丹波は門を開ける。
「帰ってきたぞ!」
松風が門へ急ぐ。すると馬が一匹こちらへ向かっているのがわかる。だんだんと焦点がはっきりしてきて乗っている人物の顔がはっきりしてくる。
「陽だ!」
丹波が言った。屋敷内の全員が安堵した。陽が門の中に入るとすぐに閉ざされた。陽は馬を止めて降りる。丹波は激励をかける。すると松風も心配させるな、と言った。すると馬の上で寝息を立てている十六夜に視線が集中する。
「彼女・・・、こんな格好していたかしら?」
神として覚醒させられたことを知らない小百合が言う。丹波は後で話すと言ってこれ以上は何も言わなかった。
松風も安心したのかあくびをし始めた。小百合はすぐに床を整えさせます、と言って部屋へ戻っていく。すると陽の肩に乗っていた風神丸がてくてくと松風の前へ行くと見上げた。
「お前も無事でよかった、風神丸」
「ああ。なんとかな・・・。俺、もうくたくたなんや。部屋にお邪魔してもよか?」
「構わない」
風神丸も白い体をススで汚していた。眠気を誘ったのか大きなあくびをした。人間にとってもアヤカシにとっても色々あった一日になったことは確かだった。そして慣れたように松風の肩に登り最終は頭のてっぺんまで登った。松風はバランスをとりながら自分の部屋へ戻っていった。
陽は自分の布団に十六夜を寝かせた。眠っていても陽は十六夜の神気を感じる。これが生きているという何よりの証。
「よかった・・・」
そう呟くと心の中が安堵に満ちていく。まるで千智も安堵しているかのように感じた。そしてそれと同じくして愛しい気持ちも溢れ出てくる。
「いいよな?」
眠る十六夜に近づく陽。清らかに眠る十六夜に唇を近づけた瞬間、陽の理性が働いてそれを阻止する。
「何を・・・」
今のは何も考えずにやったこと。自分自身ではない。
「藤原千智?」
陽は胸に手を当てる。どうやら今までとは何か違う気がする。生きてきて感じたことのないざわざわ感。波が岩に当たって砕けるように荒々しい。まるで恋心にも似た激情が陽の体を駆け抜ける。
自分が藤原千智の生まれ変わりと自覚したからであろうか、それとも藤原千智自身が陽にそうするように仕向けているのか・・・。
顔を熱くして十六夜から目を背ける。顔の熱はなかなか冷めてくれない。明日も戦いが待っているのかと思うと複雑な気分だ。浦波王はいつ暴走行為をするかわからない。不安は残る。そして本来の姿を取り戻した十六夜も未知数。それを知るのは彼女自身。それを受け入れる覚悟を互いに求められていた。
陽は不安を覚えてそのまま眠りについた。
戦いが始まって数日。激しさは増すばかり。怪我人も死者も増える一方。このままでは丹波の軍は不利に陥る。そろそろ決着をつけたいところだ。
また今日も男たちは戦いに出かけていく。
十六夜は屋敷に控えていた。神である彼女が出れば浦波王は何をするかわからないからである。なんとか十六夜自身の自我を取り戻せたものの、浦波王には彼女を操る力を持っているかもしれない。
そこで十六夜を隠すことにしたのだ。幸い、陽が千智の生まれ変わりだとは朝廷軍の誰も知らない。
これが生前の千智が望んだ仇討ちとも知らずに---。
アヤカシたちも加勢して朝廷軍はひるむ。丹波らの必死さが伝わってくる。
夜になって朝廷軍が引くと用心しながら屋敷へ戻る。そして朝廷軍の中心部ではなにやら密会が行われていた。
「よいか? 明日、森に火を放て」
「え? 何故ですか?」
「もちろんアヤカシの殲滅だ。殺戮ということもあるが真の目的は別にある」
「目的・・・でございますか?」
「ああ。あの悪神をおびき寄せるためよ・・・」
浦波王は何か大きな作戦を考えているようだ。その腹黒さは側近でさえわからなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。感想、評価等よろしくお願いします。藤波真夏




