第拾八之巻 決戦の刻
更新しました。最後まで読んでいただければ幸いです。今回、再編集で一部文章を加えました。内容には変化はございません。少し短いものですが、編集したらこうなってしまったので、お察しください…( ; ; )藤波真夏
数週間後。
陽は朝から慌てていた。陽だけではない。屋敷の中が慌てていた。
それは早朝にある知らせが届いたせいだった。
「主人! 申し上げます! 朝廷軍がもうすぐこちらに到着いたします!」
「何?! いよいよか。皆を集めて戦の準備じゃ!」
ついにこの日がきた。いつかは来ると思っていたこの時。
男たちは全員武装して準備する。陽も鎧をつけて備える。松風も覚悟を決めていた。松風は反乱軍の象徴として屋敷を守る役目を自ら買って出た。
一気に村にはピリピリとした空気が流れた。陽の髪を風が揺らした。その隣には十六夜がいる。
「怖いのか?」
「よく分からない」
十六夜は防具を何もつけていない。自らはアヤカシだから簡単にはやられないと自信があるのだろう。そして十六夜の頭に浮かんだのは長の言葉。
陽は若き軍神藤原千智の生まれ変わり---。
そう言おうと口を開いた次の瞬間、
「朝廷軍が目の前に!」
兵の一人の言葉に反応して一気に男たちに殺気が生まれる。そして軍を率いる丹波が馬に跨り、刀を抜く。
「よいか! 決して死ぬな! また戻ってくるのだ!」
丹波の一言で軍の男たちの心は一つになった。そして門が開く。目の前は無法地帯。いつもの心地いい風は砂交じりの風に変わっていた。
陽も馬に跨り、丹波と共に突撃していった。
十六夜は屋敷に取り残された。屋敷内には女子供、そして松風と小百合と雅姫。兵に立ち向かえるのはごくわずか。小百合と十六夜は周囲を殺気で溢れさせる。
小百合は意識を外に集中させる。今、男たちがどうなっているのかを見るためだ。小百合は目をつむった。
小百合の目に見えたのは男たちが戦っている様子。乱戦状態だ。どちらが敵で味方なのか分からないほどに。怪我人もいるようだ。しかし命を落としてしまった人もいる。目を覆いたくなるがこれが現実なのだ。
小百合が見た瞬間、門が開いた。すると数名の兵士が怪我をして帰ってきたのだ。女たちはすぐに傷の手当を始めせわしなく働いた。
「よいか! 追い返すのだ! 無駄な殺しはするな!」
丹波が叫ぶ。丹波の弓は敵の肩を貫通。手傷を負わせた。陽も同じように戦い抜く。刀さばきは誰よりもずば抜けており誰しもが軍神の再来を謳った。
「まだ無事か」
陽はアヤカシの森を見た。すると森の奥から出てきたのはアヤカシの長とアヤカシたち。長が杖を構えるとアヤカシたちが妖術を使い始める。その力により敵兵はどんどん逃げ帰っていく。
人間たちもそれに負けじと踏ん張る。するとその数時間後、
「引けー!」
敵兵の一人が叫んだ。すると敵兵たちはどんどんと逃げていった。息を切らしている合間に誰もいなくなった。
「主人! これは一体?!」
「分からないが、とりあえずは退いたぞ! 皆、よく耐えた!」
丹波が大声で言うとおおーっ! と勇ましい声が聞こえてきた。アヤカシたちは何も言わずに森の中へ戻っていった。それを見た陽は隊列から外れて森の中へ。
するとカルラが姿を現した。
「まさか本当に人間が我らのために力を貸すとは思わなかった」
「こっちもまさかアヤカシが加勢するなんて想定外だった」
「十六夜が我々を説得したのだ。まさかあの十六夜がするとは思わなかったがな」
カルラの目には馬に乗った陽が藤原千智に見えて仕方がない。しかしそれを言わずにフッと笑うと森の奥へ行った。
屋敷に戻ると怪我人がたくさんいた。戦はそう簡単ではないと悟る。陽もかすり傷をたくさん作ってしまった。
一方、朝廷軍では騒ぎが発生していた。
「う、浦波王さま?!」
朝廷を出発した浦波王が到着したのだった。浦波王は雅な姿とは違い、武士と変わりない姿をして立っていた。
「野武士相手に引いた?」
「申し訳ございません。アヤカシたちに邪魔されまして・・・」
「アヤカシを殲滅するのにどうしてそれを打たなかった?」
そ、それは、と言おうとすると浦波王は表情を変えず一言。
「お前に生きる価値はない。死ね」
浦波王は刀を抜き、兵士の心臓を突き通した。兵士は言葉もなくその場に倒れ落ちた。地面には赤い血。刀の血を拭おうともせず静かに嗤う浦波王。
周囲の兵士たちは思った。
この人こそ本物の鬼と言うのだろうと。
「よいか? この世で一番優れた者だけを残し卑しい輩は残らず殺す。お前たちが卑しいのならこの屍のようになるぞ?」
全身に鳥肌がたった。鬼にも匹敵する恐ろしさ冷血漢、そして無慈悲にも人を簡単に殺す男。
「明日は私が指揮をとろう」
浦波王は光の玉をかざした。
「いよいよだ・・・。お前の出番がきたようだぞ?」
不敵な笑みを浮かべて光の玉を見つめる浦波王。その玉はそんな闇の力に気づくこともなく、静かに光を発し続けたのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。感想、評価等よろしくお願いします。藤波真夏




