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第拾一之巻 ヒノモト龍神伝説

更新しました。最後まで読んでくれたら幸いです。藤波真夏

その頃、丹波の命令を受け小百合は馬に乗りミヤコへと進んでいた。小百合一人での任務である。山を抜けていくと小百合の耳には声がどんどん入ってくる。

「見て、女が馬に乗ってるよ」

「人間ね」

「これからどこに行くんだろう? ついて行っちゃおうか」

「森の外に出てみろ。人間にその身を裂かれて八つ裂きにされるぞ」

 アヤカシの声が聞こえてきた。小百合はすでに人間の体。小百合をアヤカシと認知するのは相当気が肥えてないとわからないことだった。

 小百合は雑念を払い、目の前に集中した。小百合は馬に刺激を与え走らせた。

 小百合は無事ミヤコに到着した。小百合は懐かしさを感じて様子を見ていた。

 そういえば森を出て最初はここにいたんだっけ? その時、武術を習って家吉さまに支え・・・、鎌清に恋い焦がれ夫婦になって・・・。

 懐かしい思い出に小百合は頰が緩む。そのまま小百合は大君のいる御所の前へやってくる。本来ならばここに松風がいるはずが今は違う。小百合はそのまま通過した。

 丹波から言われた情報を頼りにミヤコの一番端に位置する別荘の粗末な屋敷へ向かう。屋敷は質素でここに大君が身を隠しているとは思えないほどだった。

「ここに大君が?」

 小百合は屋敷の門を叩いた。すると門が開き武士が出てきた。

「女。何者だ」

「丹波家吉さまの家臣、小百合でございます。知らせを聞いて主人の使者として馳せ参じました」

「聞いていない」

 武士は小百合を馬鹿にして門前払いをしようとする。小百合は待ってくれ、とばかりに門を開けようとする。すると女性の声がかかる。

「お待ちなさい。この方は客人です。お通ししなさい」

 武士はおとなしく門を開き小百合は武士に馬を預けて屋敷内へ入っていった。声の主はすぐに目に付いた。

「丹波さまの使者の方、お待ちしておりました」

「私は丹波家吉さまの家臣、小百合といいます」

「宮中で潮内親王さまに仕えております、女官の五月雨です。中へお入りください」

 五月雨は小百合を促すと小百合は屋敷の中へ入っていった。

 小百合が案内された場所は少し大きな部屋。

「小百合!」

 奥から出てきたのは松風だった。寂しかったとばかりに抱きついてきた。

「ま、松風さま?!」

 小百合は松風の目線に合わせてしゃがみ、頭をさげた。

「お久しぶりでございます。主人の命で参りました。様々なことで大変かと存じます。しかし我ら丹波の者は松風さまの味方でございます。ご安心ください」

 松風は次第に涙を流し始め敬語が取れはじめる。最終的には敬語が完全に取れて小百合にすがって泣き始めた。

「小百合、小百合ィ〜!」

 目の前にいる松風の頭を撫でようと腕が動く。しかし相手は神の一族とも言われる大君の血を引く者。小百合はピタッと止まる。すると、

「松風。泣いてはなりません。客人が困っておいでですよ」

 奥から出てきたのは潮内親王。小百合はこれほどにない美しさを見た。姫というのはこういう者をいうのだと。

「私は潮。松風の姉にあたります。小百合さまですね? 五月雨から聞いています」

「は、はい。いきなりですが一体何があったのか伺ってもよろしいでしょうか?」

 小百合は話を切り替えて事情を伺った。潮内親王と松風の姉弟は座り何があったのかを話した。


 私と松風の父が松風の留守中に戸籍や書簡を管理する役人からある報告を受けたのです。そこには私たちの出生のことも記録されている書簡も存在していて管理されています。

 報告されたのは「松風大君が神の血を引いていない」ということなのです。つまり父と血が繋がっていないということです。

 それを真に受けた父は松風を強制的に退位させてしまったのです。体が弱いため私も追い出されてしまったのです。


「松風さまが浦波王さまと血が繋がっていないということですか?」

「ありえない! 僕は父上の子だ! それなのに・・・どうして・・・」

 松風が否定するなとばかりに言う。潮内親王は落ち着きなさい、と手を前に出した。小百合は黙り込む。小百合の心中を察してか、今度は五月雨が口を開いた。

「小百合さま、ここからは私が。松風さまはまだ幼い故、浦波王さまの教育で政務を行なっておりました。浦波王さまが地位剥奪など造作もないことです」

 五月雨は小百合をじっと見つめた。小百合はその雰囲気に懐かしさを感じる。小百合はそんなことはどうでもいいんだ、と振り払い話に集中する。

「今日は遅い。今日はお休みになったらどうですか?」

 潮内親王は小百合にそう促した。小百合は静かに頷き部屋に通され着用していた鎧や刀を置き身軽になる。しかし小百合はまだ寝ることができない。情報を送らなければならない。

 中庭に出た小百合は結んで隠していた銀色の髪をあらわにする。そして指を二本立て、言葉を飛ばす。小百合の不思議なパワーに蛍が瞬く。

「やはりアヤカシだったのですね」

 背後から声がして驚いて振り返るとそこには五月雨が立っている。小百合はすぐに髪を隠す。

「隠さなくて結構です。我らは種族が違えど同類」

「は?」

「証拠をお見せしましょう」

 五月雨は虚空を仰ぎ、指を動かす。するとこの世のものとは思えない布が現れる。それをつけた五月雨は人間を超えたオーラが出ているのがわかる。

 小百合はすぐにわかった。

「羽衣天女か・・・?」

「そうです。私は天界に住まう女人アヤカシ羽衣天女。どうですか?」

 小百合は驚きで言葉を失った。小百合は言葉を飛ばさずに部屋へそそくさと帰ろうとする。五月雨は小百合を止めてなぜアヤカシを捨てたのか、と聞く。

 五月雨はアヤカシを捨てるのは自分だけで十分と考えていたからだ。小百合は静止する。最初は何もわからないと思っていたが今でははっきりと言える。

「アヤカシを捨てたのはアヤカシとしての生き方に嫌気がさしたからです。私には仕えるべき主君がいて、生涯を共にする夫がいて・・・、アヤカシを捨てて人間になったことを後悔なんかしていません」

 小百合は五月雨の真横を通って部屋へ戻ってしまった。

 はあ・・・。環境が変われば考え方も生き方も違うか・・・。

 五月雨が一人で立ち尽くしていると潮内親王が現れた。五月雨は一礼をし羽衣を消し人間に戻る。

「どうかしたのですか?」

「小百合さまは・・・アヤカシだったのですね。あなたと同じ」

「聞いていたんですか?」

 潮内親王は悪戯っぽく笑った。五月雨は冷えるから中に入るように促した。潮内親王は小百合の後ろ姿を見ていた。

「銀色の髪、綺麗だったわ」

「彼女はおそらくアヤカシ木霊だと思われます」

「木霊? あのやまびこみたいな?」

「はい。アヤカシ木霊は山に住む子供のアヤカシです。大人になれば普通の人間そっくりになります。アヤカシ木霊は数里先の声や音を聞き分ける地獄耳の域を超えた耳と言葉をとばす能力をもっています。銀色の髪がその証拠です」

 五月雨が月を見ながら言う。潮内親王も隣に立って月を見上げる。潮内親王はふいに五月雨に言う。

「五月雨。もし私に何かあったら松風を頼みます」

「内親王さま、何をおっしゃいましか・・・」

「五月雨も知っているでしょう? 私はもう長くない。いつ心臓が止まってもおかしくないわ」

 潮内親王は自重して笑った。五月雨はただ黙って見ることしかできなかった。



 一方陽の住む村では異常事態が発生していた。水不足に悩まされ始めたのだ。飢餓になる可能性は極めて低いが最悪の場合が考えられる。

「雨が降ればありがたいが、もし雨が降らなかったらどうする」

 丹波は頭を抱えた。丹波でもどうすることもできなかった。そしてその影響は陽の畑まで影響を及ぼした。

「このままじゃ餓死だ・・・」

 陽は畑仕事に身が入らず散歩に出かけた。しばらく十六夜に会っていない。陽はため息をついた。おもむろに墓地に入り家族の墓に手をあわせる。

 砂埃を払い家へ戻ろうとすると野生のうさぎが陽の足にまとわりついた。

「どうした?」

 うさぎはつぶらな瞳を陽に向けた。頭を撫でると気持ちよさそうに目を細め、そのまま森の中へ戻っていった。

「陽! おい!」

 声が聞こえた。周囲を見渡しても誰も姿がない。陽は頭をかかえる。

「足元だ! 足元!」

「足元?」

 視線を移すとそこにはイタチが一匹。陽はすぐに何かを感じ取る。

「風神丸? なんでこんなところに?」

「大変なんや! 十六夜が・・・」

風神丸がイタチの姿で陽の肩にチョロチョロと登ってくる。長い尻尾を陽の首に絡ませる。よくよく見ると風神丸の体には傷がチラチラと見受けられた。

「今いつもの姿に戻れんのや」

「なんで?」

「ちょっといろいろあってな。妖力を出す気力がないんや。ちょっと肩を借りんで」

 イタチの体がヒィヒィと小さな喘息音が聞こえる。まるで長距離を走ってきたかのようだった。小さな声で陽に伝えある場所へ連れて行く。

 陽が連れてこられたのはアヤカシが住む森の中。人間の匂いを嗅ぎつけてアヤカシが出てこないか心配する。陽が連れてこられたのは森の中心部。大きな樹木が森の主のようなパワーを醸し出している。陽は目の前の光景に目を見開いた。

「これって・・・」

「ご神木や。あそこをよぉ見てみぃ」

 風神丸が言われて陽が目を凝らして見てみる。枝が張り巡らされ見たことのある白い着物が垣間見える。見たことのある髪飾りーーー。

「十六夜?」

 陽がご神木にすがり枝に爪を立てて十六夜の顔を確認しようとする。十六夜の顔をかろうじて確認できたが、陽がどれだけ名前を呼んでも十六夜の目が開くことがなかった。

「十六夜・・・。なぜこんな・・・」

「封印されてもうた・・・」

「封印?」

 肩に乗っていた風神丸が降りて木の幹へ渡った。そして陽を見上げると申し訳なさそうに首を下に垂れて言う。

「どうしてこうなったか俺にはわからへん。でもアヤカシを封印することができるのは長だけや。きっと十六夜は深入りしすぎたんや。人間と関係を持ちすぎた。それが長の逆鱗に触れたんやろう・・・」

「・・・俺のせいか?」

 陽は十六夜の顔を覗き込むながら言う。息の音も聞こえない。陽の家で夜を明かしたあの時とは違う。あの時聞こえた陽を呼ぶ声は、助けてほしかったからに違いない・・・。

「陽のせいじゃあらへんよ・・・。俺は止められんかった、飛びかかっても無駄やった・・・。結局力を使いすぎてへバッて・・・こんな姿になってしもうた・・・」

 風神丸が申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「この封印を解く方法はないのか?」

「解く方法は長しか知らん。俺にはどうすることも・・・」

 十六夜救出の糸口は簡単になくなった。長の力は絶大で誰も逆らうことができない。陽と風神丸は無情にもご神木の前で立ち尽くしなす術がなかった。

 陽は風神丸を肩に乗せて家へ戻った。

 村の水不足がひどくなる中、風神丸は背中に山菜を乗せて陽の家へ戻った。夕食を済ませ床についた。

「陽。俺、ずっと気になってたことがあんねん」

「なんだ?」

「十六夜は普通のアヤカシが出す力が少し違うんや。なんでかは知らん。陽も感じたことはあるか?」

「よくわからない。だけど風神丸と比べたらその力は並のものじゃないと思う」

 風神丸はやっぱりそうか、と頷いた。どういうことだ、と陽が聞くと風神丸はその理由を答えた。

「十六夜が封印される前、アヤカシの一人が言ったんや。十六夜の過去の記憶は封印されたと。十六夜には生まれたころの記憶がないってことになるんよ」

 陽は十六夜のことを全部知っていた気になっていた。しかし彼女は何も語らず隠している。

「俺は十六夜を助けたい・・・。言いたいことがあるから・・・」

「言いたいこと?」

「いや、なんでもない・・・。でもアヤカシでも人間のほうも大変なことになっているしな」

 陽の言葉に風神丸はとびつく。どういうことだ、とわけを聞かれ陽は答えた。

「松風大君さまが無理やり退位させられた」

「松風大君さま? あれか、人間のところの長か」

「ああ。松風さまはまだ幼い。俺より八歳も年下だ。何もやっていないはずなのに謀反の疑いをかけられ御所から追い出されたらしい・・・」

 風神丸は十六夜の封印されてしまったご神木を見上げる。風で葉がカサカサと音を立てた。

 なんか嫌な予感がする・・・。もし戦とかに発展したら・・・。

 陽の頭に浮かぶ最悪のシナリオ。人間のくせに、と十六夜が軽蔑したあの時を思い出す。その言葉の通りになり、自分の無力さを思い知らされる。

「お前は無力な人間あらへん。まだできること探してみようや。俺も手伝う」

 風神丸が肩に乗ると陽はゆっくりと森の外へ向かって歩き出した。何回も後ろを振り向いて十六夜を見つめながら。悔しさで胸がいっぱいだ。

 森の外にでると空は色を失い、曇っていた。陽の村は飢餓には至っていないが、周囲の村の数カ所は水不足で多くの人が犠牲になっていると聞いた。

「十六夜の過去の記憶がわかれば光が見えるかもしれんのに」

 風神丸の言葉に陽は立ち止まり考えた。

「過去? そうか」

「??」

「丹波様のお屋敷を抜けたところに語り部のおばばがいるんだ。ながーく生きてるから何かわかるかもしれない!」

 陽は急いで語り部のおばばの家へ向かう。丹波の屋敷を抜け多くの茂みを抜け、そこに古びた家がひっそりと建っていた。

 陽は呼吸を整えて扉を叩いた。

「おばば! おばば!」

 陽のノックに扉が開き、そこには白髪の長い髪をまとめた老女が建っていた。老女はじっと見るとそれが陽だと気づく。

「おお。陽の坊やじゃないかの。お入りなさい」

 おばばも陽のことをよく知っている。両親のいない陽は村の全員が親であり兄弟。おばばは陽が幼い頃様々なお話を聞かせてくれた。そしてアヤカシとの交わりが禁忌ということも話している。

 陽は中に入り、藁で編んだむしろに座った。久しぶりの陽との再会におばばは嬉しいようで笑顔がほころんだ。

「陽の坊や。今日はどうしたのじゃ?」

「おばば。おばばは昔のこととか知ってる?」

「それはもう何十年も生きてるからのう。知っているものは知っておる」

「俺が生まれるずっと前のことを教えてもらいたいんだ」

「?」

 おばばは少々首をかしげた。肩に乗っていた風神丸もおばばを見つめた。するとまた扉を叩く音がする。誰じゃ、とおばばはゆっくり立ち上がって扉を開けた。そこに建っていたのはーーー

「奥方様?!」

 立っていたのは雅姫だった。陽は驚いて声を上げた。おばばは雅姫を優しく中へ招き入れる。

「さてと、国司の奥方さまともあろうお方が年寄りの家にやってくるというのはどういう風の吹きまわしじゃのう?」

「大おばさまにお尋ねしたことがあるのです」

 そうして雅姫が聞かせたのは丹波と雅姫が夫婦になってしばらく経ったときに起こった不思議な出来事。それは陽も知っているお話。

 話を聞いたおばばはうーんと考え込んだ。

「聞こえた声は女の声だったかの?」

「ええ」

「奥方さまが倒れていた場所の近くに何があったか覚えているか?」

 雅姫が過去の記憶を頭の中から引き出す。頭の中に浮かぶ水の流れる音---。

「川・・・。川が流れていました!」

「やはりな。その女はアヤカシではない。水神じゃ」

「水神?」

「昔からの伝説にはアヤカシの中には神も存在するとされているのじゃ。おそらく水神がそなたを助けたのであろう。しかし水神は大昔に神滅したはずじゃがの・・・」

 おばばの口から飛び出す、神や神滅という言葉。アヤカシの中に神がいる。陽はおばばに聞いた。

「おばば! その水神はどうして神滅してしまったんだ?」

 雅姫との話に食いつく陽におばばは驚くも優しく陽の頭を撫でた。

「陽の坊や。もしやお前が聞きたかった話は水神の話かえ?」

「うん」

「そうか。好奇心旺盛なのはいいことじゃ。だけど陽の坊や。これを聞くには少しの覚悟が必要じゃ。それでも聞きたいか?」

「うん、俺は聞きたい」

 陽の瞳は揺らがず決心に満ち溢れていた。おばばが陽に最後にあったのはまだ十にも満たない幼い少年だったのにいつのまにか立派な若者に成長していた。

 おばばは陽の覚悟を十分受け止め陽を本当の祖母のような眼差しで見つめる。

「陽の坊や。もう坊やという年齢でもないのに、本当に成長したのじゃな」

 陽は笑った。その様子を隣で見ていた雅姫は思った。

 これが人と人を繋ぎ、親から子へと語り継ぐのか---。その姿のというのは本当に美しいものです。

 陽と雅姫におばばは向き直った。そして静かに語り始めた。


 陽の坊や。よぉくお聞き。これは遥か昔から伝わる水神、又の名を龍神のお話じゃ。

 遥か昔、アヤカシの住む森には木や水、空気や風にさえ神が宿り国を支えておったそうじゃ。人間が現れてもなお、神は人間を支えその信仰を拠り所にして生を謳歌しておった・・・。しかし、人間の中には神を良しとしない者がおったそうじゃ。荒ぶる神たちをことごとく呪術で手にかけ、消滅させたのじゃ。


 消滅?!


 神は人間からの信仰や自然の力を得て生きておる。その拠り所を失えば神とて生きてはいけるまい。神やアヤカシが毛嫌いされだんだんと神の数は減り、最後には龍神だけが残った。

 龍神は人間の間でこそ逆鱗に触れたら怒りを鎮めるのが困難と言われてはおるが、とても慈悲深くまるで母親のような神じゃったそうじゃ。


 その龍神って女の人・・・だった?


 最後に生き残った龍神は女じゃったそうじゃ。龍神は慈しみ魚たちを育て川に流し、ならに人間や龍の姿に変化して人間を静かに見守っていた。このような平穏がすぐに終わりを告げたのじゃ。

 ものすごい豪雨がヒノモトを襲ってな。至る所で川が氾濫を起こし、家や畑が流されたのじゃ。龍神は氾濫した川に流されている母と息子の親子を発見したそうな。母性本能が働いたのか龍神は龍の姿になって親子を安全な場所まで連れて行った。

 しかしその助けたことが理由はわからぬが人間にあらぬ誤解を生んでしまったのじゃ。龍神はただ溺れかけた親子を助けただけなのに。


 嘘だろ・・・。


 伝説として語られているが本当に近い話なのじゃ、陽の坊や。当時の大君は呪術に長けていたと伝えられておっての、龍神の力を奪い挙句の果てには神滅、つまり神を滅してしまったのじゃ・・・。

 大君が神の子と呼ばれているのは荒れ狂いの暴神の龍神を倒したことで多くに人間たちから讃えられた。


「・・・これが龍神のお話じゃ。何かわかったかいの?」

 おばばは陽の顔を見つめる。陽の目にはうっすら涙が溢れ出す。風神丸は陽の顔を見上げた。

(陽、お前・・・)

 風神丸もことの真実を知った。風神丸も結構心に突き刺さっている。

「こんなの・・・人間が勝手なだけじゃないか・・・。勝手に嫌疑をかけて殺しておくなんて!」

 震える肩をおばばが優しく触れた。陽の姿はおばばに幼き頃の陽を思い出させていた。今にもあの頃の陽の声が聞こえてくるかのように---。

「陽の坊や。これは人間の犯した罪の物語なのじゃ。わしらはこれを胸に留めて罪を背負わなくてはならないのじゃ。それが大君であってよの」

 陽の涙は止まることを知らない。おばばは雅姫と目を合わせた。雅姫は全てを理解し、陽に優しく話しかけた。

「陽。もう帰りましょう。外も暗くなってきましたから」

 陽はうなずくと雅姫と一緒に立ち上がった。扉の外へ向かうと風神丸もちょろちょろとついていく。するとおばばが言葉をかける。

「待て。そなた、ただのイタチではあるまいな? アヤカシの坊や?」

 風神丸は振り返った。おばばはアヤカシを毛嫌いする視線を向けていたのではなく、ただ一言伝えた。

「陽を頼んだよ。あの坊やはあれでもかなり繊細な子じゃ。何かと助けてやっておくれ」

「・・・」

 風神丸は声を発さなかった。ただ首だけを縦に振ってスタスタと出て行った。

 陽は雅姫に苦労をかけまいと一人で家へ戻っていた。家へ戻ると陽は崩れ落ちるように床に倒れた。風神丸が陽の近くによって声を出す。

「陽。大丈夫か?」

「俺は・・・人間はアヤカシたちにこんなひどい仕打ちを・・・」

「それは悔いても仕方のないことや。俺やって龍神の伝説聞いただけで人間を恨んでも意味のないことやと思うとる」

 あまりにも残酷で悲しみに満ち溢れた歴史。陽がひどく取り乱している様子を見て風神丸はおばばの言葉がわかった。

 陽は誠実で真面目な青年やけど少し繊細で壊れそうやないか・・・。

「この世界には神はいないのかな?」

「いや、そんなことはあらへんよ。神がいなくなったら世界は成り立たないからな。きっと力を抑えて静かに見守ってるんやろな」

 風神丸は月を見上げて言う。そしてあの月の出ていた夜を思い出す。十六夜と話したあの日を---。


「星が言っている・・・。近いうちに何かが起こるって」

「人間か?」

「わからない」


 あれはきっと自らが封印されてしまうことの暗示だったんだろうと思う。今は何が勃発してもおかしくないのだ。陽は不安に包まれて眠った。

 アヤカシの住む森には長や他のアヤカシの長たちが集結していた。十六夜の封印されたご神木に集まり十六夜の様子を視察しに来たらしい。

「カルラ。どうじゃ」

「何も変化はありません。封印はされております」

 長はうなずくとご神木に背を向ける。カルラは静かにその背中を目で追った。非道にも十六夜を自らの力で封印してしまったことをなんとも思っていないのか。

 カルラは十六夜のいる位置まで飛んだ。そしていきなり忠誠の格好を取ると、静かに呟いた。

「十六夜姫。あなたのなかには計り知れない強大な力がうごめいています。その力はアヤカシをも凌駕する。封印した我らをお許しください」

最後まで読んでくださりありがとうございました。感想、評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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