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神の居ない世界にて  作者: アウラ
1.He interacts with her
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8.

 陽里は今日も起床時間の5分前に目を覚ましては着替える。

 その数十秒後には起床時間のアラームが宿舎全体に響き鳴る。


 そして今日もこのけたたましい音があろうともルームメイトの新が起きる気配はない。


「おい、起きろ」


「がふっ!」


 新が「後5分」などとほざく前に陽里は昨日と同じく手刀を鳩尾に落とす。


「も、もう少し優しい起こし方ってのはないんすかねぇ」


「新がすぐに起きるんだったらね」


 陽里は二段ベッドから下りて部屋を出ようとする。


「名前で呼んでくれた……!」


 新は寝ぼけ眼ではあるが目を見開くと言うよくわからない目をして驚く。


「あ、そう言えば1度も呼んでなかった」


 陽里も今気付いたようでハッとした顔になる。


 思えば彼の苗字である五十嵐とすら呼んでいなかった。


「よろしくな、陽里」


「早く支度しろよ」


 陽里はドアを開けて部屋を出た。


「ちょ、そこは待ってくれるパターンじゃないんかよ!」


 新はベッドから飛び降りて急いで部屋を出たのであった。






「まったく、待ってたっていいじゃんか」


「席を確保してあげたんだからいいじゃないか」


 陽里は新の文句を気にせずコンソメスープを飲む。


「友人思いのない奴だな」


「新に友人思いがあったら朝食に並ばない程度に早く起きて欲しいね」


 これまた昨日と同じく食堂に並ぶ羽目となり6月特有のジメジメした空気の中で待ったのだ。


「だったら起こしてくれてもいいじゃんか」


「友人思いなボクからしたら起床時刻の5分前に起こすのはかわいそうだと思って」


「何を言うんやら」


 陽里の白々しい嘘に新は溜め息をついてパンをかじる。


「で、それより昨日のあれだよ昨日の!」


 新がコップの水でパンを流して言う。


「昨日の?」


「エリザベス教官から3本も取ったんだろ!?」


「と言ってもお互いリミットかけてたし……」


 阿羅機(アルハード)で本気を出したら訓練場が使い物にならなくなるのは必至である。


 それだけ破壊力のある兵器であるために訓練中は制限をかけて被害を出さないようにしているのだ。


 つまり阿羅機の性能が完全に引き出されないために昨日の模擬戦の勝敗は身体能力に左右されるのだ。


「エドベル教官の阿羅機、ダーインスレイヴは身体能力とは関係しない能力が大きいからボクのとは相性が悪いしね」


 ダーインスレイヴはあの赤い触手のような蔓が武器にして防具なのだろう。


 操作はエリザベスの動体視力によるものだが操作性などの蔓における基本的なスペックは阿羅機によるものである。


 一方の陽里の阿羅機、ケラウノスは身体能力を補助・拡張する機能に重点を置くものとなっている。


「もし実戦とかで制限なしでやったらボクの攻撃がエドベル教官に通るかわからないし」


「通るかわかんねぇって言ってる時点でおかしいんよ」


 態々遠くから招くだけの実力者を2年程度の新兵が1本取る事自体がおかしい事に気付かない陽里であった。


「ごちそうさん。今日も今日とて訓練ですかね」


 新はトレイを持って席を立つ。


「早く来ないかな」


「ん? なんか言ったん?」


 陽里の呟きに新は聞き返す。


「何も言ってないよ」


 陽里以外にとっては恐怖と戦慄が走る言葉でしかないのであった。






「よし来たな。走れ!」


 全員揃った瞬間、エリザベスは昨日と同じメニューで走らせる。

 へとへとになるまで走らせる。


 これは他の教官の訓練メニューはないものである。

 しかしエリザベスはこの全力疾走が必要だと考えている。


 戦闘は常に体力が万全な状態な時にあるものなのか?

 寝起きかもしれない。徹夜明けかもしれない。空腹か満腹か。負傷時に敵襲があったっておかしくないのだ。


 体力が万全な時の1%しか能力を発揮できない時に戦闘に巻き込まれたら逃げられるだろうか。逃げられない戦いに勝てるだろうか。


 極限状態であろうとも勝利をもぎ取る。これがエリザベスの考えである。


 もちろん全力疾走だけでは成長しないだろう。

 そこで模擬戦ではエリザベス自身が1人1人と組んで身体に叩き込むのだ。


(昨日はちとはしゃぎ過ぎたな)


 1日5人程度と組むのだが昨日は負けた事に悔しくで陽里にリベンジし過ぎて他のメンバーの面倒を見るのを怠ってしまったエリザベスであった。


 その陽里との模擬戦であるが、見事なものであった。


 確かに制限付きであったためにエリザベスの方が分が悪かったが経験がものを言うのが戦いである。その点でエリザベスは圧倒的に有利だったはずだ。


 確かに最初はエリザベスの方が有利だった。


 陽里の一撃を防いだところで反撃を加えると言うチャンスがあったのだ。


 当然陽里はこれを読んでいたしエリザベスも陽里が次の行動を読んでいた。


 陽里の次の行動――バックステップより速い追撃を加えれば終わり、悪くても牽制になるとエリザベスは思っていた。


 その結果が陽里からカウンターを喰らうオチである。


(あそこまで直角に曲がる機体なんて聞いた事がないのだがな)


 並の人間があの軌道を描いたら強烈な慣性力で間違いなく首の骨を折るか内蔵が潰れるかそれに近い重症を負う。


 エリザベスでさえあの動きをしようとは考えない。


 そんな陽里の予想外の動きにエリザベスが対応出来たのは未知との戦闘の経験が豊富だった故である。


 だが陽里はエリザベスの考え得る未知を上回った。


(とんでもない怪物が来たものだ)


 負けはしたが陽里は自分の手で育てられるだろうと考える。


 圧倒的に経験量が少ない陽里だからこそ成長の余地がまだ残っている。


 エリザベスは集団を大きくっ引き離し続ける陽里を見てほくそ笑むのであった。

誤字脱字等ございましたらご一報ください(定期)

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