9.
そのアラームは陽里達が走り終わった時に鳴った。
『警報、警報。A-17区沿岸に高出力生命体を確認。担当士官は直ちに編成し迎撃を開始せよ。繰り返す、A-17区沿岸に高出力生命体を確認。担当士官は――』
「ちっ……もう少し早くか遅くにしろよな」
エリザベスは舌打ちして悪態をつく。
敵襲がない事に越した事はないのだが、最近のA区は防衛の前線となってしまっているためそのような望みは叶わない。
そのためA区の防衛が務めであるA師団はリーダーを担当制として敵襲警報が鳴った場合、その日のリーダーが隊を編成すると事が暗黙の了解となっている。
そして今日の担当がエリザベスであったために事態の面倒さにイラついていた。
(うちの連中はまだ絶不調でも戦えるだけに出来てない。せめて万全ならまともに戦えるだろうが)
普段の訓練メニューが仇となった事に思わず再度舌打ちをしてしまう。
実力を知っているメンバーで構成された隊ならば安定した戦力になるため、普段あまり関わりのない兵を選びたくない。
(……ん?)
エリザベスは訓練メンバーから選ぶのを諦めて師団内でも実力者として有名な兵士数名を選ぶか、と考えたところで1人だけ候補を見つける。
「結城陽里一等陸士」
「イエスマム」
何故か準備運動をしていた陽里にエリザベスが声を掛ける。
「これからワタシと共に現場に行く。ヘリに乗り込んで待機せよ」
「……イエスマム!」
陽里は敬礼した後すぐに走り出した。
(なんだ今の妙な間は)
エリザベスは疑問に思うがそのような余裕がない事を思い出し、すぐさまこれからの行動順序を組み立てる。
「貴様ら、訓練は中止だ。各自待機して万が一に備えろ!」
「「イエスマム!」」
果たして彼らが恐怖で士気が高いのか、それとも訓練が中止になって嬉しいのかを考えるべきではないだろう。
エリザベスは馴染みが薄いが戦力になるであろう兵士を探しに行くのであった。
一方の陽里は口角が引き上がるのを抑えるのに必死であった。
エリザベスから指令を受けて抑えるのに一瞬ではあったが不自然になる程の時間がかかった程だ。
(戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ戦闘だ)
昨日の模擬戦では味わえないものがそこにある。
特A師団ではなかなかなかったものがすぐそこにある。
陽里の足が速くなるのも当然であった。
ヘリポートに着くと既に未だ鳴り続ける警報より騒がしく音を立ててメインローターが回っていた。
「エリザベス・エドベル中尉より指令を受けて参りました、結城陽里一等陸士であります」
陽里はヘリコプターの前で待つ男に挨拶をする。
「オレは宗田爽司だ。階級は三等陸曹。まぁ歳が26だし下っ端なのは当然だな。おまえらを旧三浦……あぁA-17区まで送り届けるのがオレの役目だ」
「よろしくお願いします」
事実阿羅機の方が移動速度は桁違いに速い。
だが陸戦型の阿羅機は地上を走行するしか手段がなく、その路面は通常の利用を目的として作られているために阿羅機の走行に耐え得るだけの耐久性がない。
従って空でも飛ばない限りヘリで移動するのが経済的にも得策であると言う事だ。
「しっかしおまえも残念だな。あのエドベル中尉の地獄の訓練中に駆り出されるなんてさ」
「いえ、待っていましたから」
同情するように言う爽司であるがこれに対して陽里は淡々と意味のわからない事を答えて首をかしげる。
「何を――すまない、通信だ」
爽司が聞き返そうと思ったところで通信が入り、耳に手を当てる。
「こちらカイト1……イエッサー」
爽司が通信が終わり陽里に向かって告げる。
「結城一等陸士、先に現地に向かって敵の種類、敵数を調べてくれ。流石に単独で討滅しようなんて考えなくていいからな」
「エドベルきょ……中尉はどうしたのですか?」
「予想以上に集まらなくて手こずっているらしい。まぁ出撃なんてしたくないからな。見つかれば強制だし。ま、放送で呼び出し掛けられたら詰みだし無駄なあがきなんだろうけどな」
爽司はやれやれと言った具合で首を振ってヘリに乗り込む。
「結城、行くぞ」
「イエッサー」
陽里も乗り込んですぐさまにヘリは浮上を始めた。
「速いだろ、これでも旧式のものとは言え結構速いからな」
ヘリは浮上を終えた途端に傾いてもいないのに加速し始める。
陽里はその原因を考えてすぐに思い当たる。
「ブースターですか?」
「ご名答! ブースターとかは狭いところでの離着陸には向いてないが速度が出せる。そこでハイブリッドだ!」
以後も爽司がヘリコプター講義をしている間に目的地上空に着いた。
「おっと、着陸はあのビルがいいかな。もう少し待ってろよ」
爽司が後ろを向いて陽里を見た時には既に扉を開いて飛び立たんとするところであった。
「待て、ちゃんと着陸してからにしろ。危険だ」
「心配は無用です」
陽里は下を眺めながら返答する。
「待てと言っている! 単独行動は禁止されている!」
爽司は陽里を引き留めようとするが操縦を手放しする訳にもいかず、遂に陽里は飛び出してしまった。
陽里は既に支えるものがなく後は自由落下するのみ。
高度200mからの落下――生身の人間ならば地面とハグする頃には肉片に変えられているだろう。
「阿羅機ケラウノス……起動」
陽里の呟きに答えて腰に装着した小型機械ーー亜空機から大量の光の粒子が飛び出して彼の体を包む。
即座に粒子は実体化して硬質な金属フレームを作り出していく。
アスファルトとの激突と同時に白銀色に輝くフルメタルボディに青と黄色のラインが特徴の機械甲冑がそこに立っていた。
「さて、討滅を開始する」
出だしは唐突な感じがいくらかしますが不幸にも(幸運にも?)主人公はフラグを立てていました(笑
次回:実戦回(雑魚戦)




