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神の居ない世界にて  作者: アウラ
3.There is nothing in his pocket
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99.Nightmare

視点:ルナリア

 夕食を食べたあたしと父は一緒に居間でテレビを見ていた。


 テレビとソファーにテーブル、そしてあたしの知る限り使っていない暖炉があるこの居間はあたしと父がいつも食後にゆったりしている部屋だ。


 お手伝いの人は夕食を片付けたところで帰ったので今この屋敷には2人だけだ。


 広い屋敷に2人だけと言うのは寂しいものだ。


 それは父も同じようでこうして2人一緒にいるのだ。


 流れる映像はバラエティ番組であたしも父も興味を持たずただ眺めているだけだった。


 無言でテレビから流れる音だけがこの屋敷に響く。


 それでもあたしはこの時間が好きだ。


 理由は実に消極的な理由だ。


(このまま明日が来なければいいのに)


 その願いは思わぬ形で叶う事となる。


 テレビを見ていたあたし達の部屋に突如警報が鳴る。


「なんだ!?」


 父もあたしも驚いて部屋をきょろきょろと見渡す。


 しかし警報以外に異変はなくあたしは不安になって父のよれよれになったシャツを掴む。


 父はあたしに大丈夫だよと言って頭を撫でて安心させてくれる。


 だけど現実には何1つ変わっておらずテレビの音と警報が不気味な和音を作る。


「ルナ」


 その時父があたしを見る。


「どうしたの?」


 何か解決策を思いついたのだろうか。


 あたしは期待と不安が混じった声色で父を見る。


「そこの暖炉の下に取っ手が付いているからそれを開けてそこに入りなさい」


 父のその笑みが固いように見えたもののあたしは言われた通り今まで使った事のない暖炉をくぐって底を探ると金属質な取っ手が付いた床ドアが確かにあった。


 あたしの力を振り絞れば開くくらいに見た目に反して比較的軽く持ち上がった。


 中はあたしが入れるくらいの広さがある穴だった。


 そして父を見る。


(どうするの?)


 言葉には出さなかったもののその意味は伝わったようで父が答える。


「ルナはそこに入っていなさい」


 父はどうするのかと言う目で見れば首を横に振った。


「ルナだけで入りなさい」


 何か、すごく嫌な予感があたしの体を覆う。


 何かはわからない。だけど――


「いいから、入りなさい」


 ここ最近優しかった父が以前のような冷たい声であたしに言う。


(怖いよ……)


 未だ響き鳴る警報に対してではない。目の前の男に対してあたしは恐怖した。


 あたしは逃げるように穴に入ってドアを閉める。


 ――ガチャ


「え?」


 あたしはドアを押そうとするが開かなかった。


 ドアを叩く。


「開けて! 開けてよ!」


 必死になってドアを叩く。


「開けてってば! ねえ!!」


 しかし段々とドアが熱くなっていきドアは叩けなくなっていった。


 不思議な事にドアは熱いがこの狭い空間は暑くはならなかった。


 叫んでもどうにもならなかった。


 それはそうだ。


 泣いても変わらない世界が叫んで変わる訳がない。


 いよいよ叫ぶのを諦めて体育座りで丸まっていた。


 父はどうしたのだろうか。まだ居間にいるのだろうか。


(どこかに逃げたのかもしれない)


 あたしが足手まといになるかもって思ってあたしをここに隠して1人で逃げたのかもしれない。


 あるいは父がこの事態を解決しようと走り出したのかもしれない。


(きっとそうだ)


 (ヒーロー)があたしを守るためにここに入れたに違いない。


 そう信じて静かにあたしはこの天井を開けてくれるのを静かに待った。


 しばらくすると声が聞こえた。


「あれー? ここにいたのかー」


 知らない男の声がした。


「おまえ達は……」


 父の声がした。

 どうやらまだここにいたらしい。


「そーそー、かの有名な――だよー」


 何を言っているかよく聞こえなかったが、歩いた時の音が金属質であたしは以前聞いた阿羅機アルハードの音だと気付く。


「何故……」


 父が呻くような声を出す。


「何故って上からの命令に決まってるでしょー。悪く思わないでねー」


 直後父の悲鳴が聞こえる。


「敵国の人間に同情はしないが悪く思うな」


 もう1人、別の男の声がした。


 一体何人いるのだろうか。


 一瞬その事を考えていたが今はそれどころではない。父は無事だろうかと不安が襲い掛かる。


「君達が何を……思ってこのような事をしているか知らないが……決して神和国の者ではない……!」


 息絶え絶えになりながらも父は答えていた。


 あたしが学校でいつも言われ続けた言葉に父があたしに代わって反論してくれたようでこんな時なのに何故か嬉しくなる。


「では訊くがその髪の色はなんなんだ?」


 ぐちょっと音がする。


 一体何の音かわからないが酷く嫌な音だった。


「た、確かに……私は神和国とのハーフだ。だが、母がこの国に来た当時はまだ戦争はしていない。おかしな要素は何もない筈だ!」


「必死な自己弁護だねー。見てて無様に思えるよー」


 1人目の男が嗤って再度同じような醜い音がする。


 それと同時に、そして今度は父が屋敷全体に響くような絶叫を上げる。


「そう言えば妻は敵国に殺られたのだったな」


 2人目の男が未だ痛みに耐え切れず叫び続ける父に言う。


「つ……妻は……君達の怠慢で……死んだんだ……!」


 息も絶え絶えの様子の父が怒りを剥き出して叫ぶ。


「まぁそれからの行動がマズったよねー。あんた主導の阿羅機開発は目立ったようだしねー。反神和国派の目に留まったのが運の尽きって感じだなー」


「……」


 父は何も言わなかった。


「そう言えばその1人娘ちゃんはどうなってるんだ?」


「やめろ! 娘は関係ない!」


 父が声を張り上げると何かが壁に当たった音がした。


 直後の父の呻き声から壁に当たったのは父のようだ。


「仕留めとかないと上のあいつらがうるさいんだよねー。それに不興買われると出世出来ないしなー。あははは」


 男はゲラゲラと笑ってぐちょぐちょと何度も何かを踏み潰す音が鳴る。


「熱感知は反応なしか。娘はどこにやったんだ?」


「そんなもの……答える訳がないだろう」


 父は声を絞り出すが彼らはそれを嘲笑う。


「あー、うぜーうぜー」


「あ゛ー!!」


 父が何度目かの絶叫を上げる。


「ほらほら足がぺちゃんこになっちゃうよ」


 どうやら父の足を踏み潰そうとしているようだった。


「やめて! やめて!!」


 あたしは耐え切れず叫び出す。


「……絶対に……答えるものか」


 しかしあたしの叫びは彼らには聞こえず父はあたしの居場所を教えようとしない。


 あたしの居場所を教えれば開放してもらえるに違いない。


「あたしはここにいるから!!」


 そう信じてあたしは叫ぶ。


「あっそ」


 だが叫びは届かなかった。


 爆発に似た音が響く。


「あーあ、これじゃ誰かわかんねーや。やっちまったなー」


 男が嘆く。


「人間のタンパク質なら蒸発するに決まってるだろ。魔獣(ホレット)とは違う」


 呆れた様子でもう1人が呟く。


「娘ちゃんの方はどうするー?」


「探す……と言いたいところだが時間だ。撤収する」


「おいおいあいつらに嫌われるのは勘弁だぜー?」


「おまえが撃ったその銃が娘を焼き消したとでも言え」


「うわー他人事だー」


 特に嘆いている様子もなく笑い声が遠ざかる。


「……恨みたいならを恨むといい」


 最後に聞いたその声はまるであたしに向かって言ったようだった。

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