シスター
少し短めです
昼食の後は幼い子供たちがお昼寝する時間だ。
小さな子ばかりが一つの部屋に集まればぐずる子というのはやはりいるもので、一人が泣けばつられるようにして周りも泣き始める恐怖の連鎖が起こる。
その空間はまさに地獄絵図、阿鼻叫喚。あちこちで上がる子供たちの泣き声に、途方に暮れていたのはいつまでだっただろうか。
それは今や滅多に見られない光景となった。
部屋の真ん中辺りで子供たちに挟まれて寝転がっている彼女は、先ほどまで見事なオルガンを奏でていたその手で優しく幼子をあやしている。
ぽん、ぽんと一定のリズムで子供の体を優しくたたきながら小さな声で口遊むのは、定番の子守唄。
『抱かれて眠れ』
女神に、両親に、自然に。母なる美しき世界に抱かれて、安心して眠りなさい。メルディナの国歌の作曲者、レイモン・バルドー晩年の名作である。
彼女がその歌詞をなぞる声は大きくはないのにしっかりと響き渡り、部屋はどこか神聖な空気に満ちていた。
「本当、ああしているとまるで聖女様のようね」
隣でぽつりとつぶやいた先輩のシスターの言葉に深く頷く。穏やかな、慈愛に満ちた表情で子守唄を歌うその姿は、まさに神が使わした天使のようだ。
……まあ、中身を知っているとそんな神聖なお方ではないと分かるのだけれど。
悪い意味ではなく、なんというか気さくな方なのだ。高くないとはいえ貴族の身分であられるのに、少しも偉ぶったところがない。というか、貴族らしくない。まるで近所の世話好きな主婦のような…失礼、口が過ぎました。
とにかく、彼女は子供たちに好かれている。生来の彼女の人好きのする性格とは別に、その奏でる音楽が周囲を惹き付けてやまない。
教会の警備をする騎士は当番の日を楽しみにしているというし、日曜の礼拝には近隣の町のほとんどの人が教会に足を運ぶ。子供たちはぐずることなく穏やかに眠りにつき、教会に勤めるものたちは彼女の奏でる音を糧に一日を乗り切っている。
決してプロも驚くテクニックを習得しているとか、そういうことではない。だけど彼女の音楽は、ひどく暖かく心に沁み入るのだ。疲れた精神を癒すように、心の隙間に優しく入り込んで満たしてくれる。すべて受け入れて抱きしめてくれるような、大きな安心感があった。ずっと聞いていたいと思うと同時に、目を閉じると安心のあまり眠ってしまいそうな。
彼女の音は、そういう音だ。