カメラアイを持つ少年巧-2
巧が宇宙人ウィムとのコンタクトを果たします
巧に、今までになく強烈な、「とびきりの魔法円」のイメージが降りてきた。
二ヶ月の心血を注ぎ、完成したその瞬間。スケッチブックを閉じて手を置くと、奥から微かな熱が伝わってくる感じがする。それは命の脈動のようでもあり、遠い異界からの呼び声のようでもあった。
その夜、夢の中で声がした。
「フー・アート・ザゥ」(Who art thou?)
良くわからなかったがWho are you?と言っている気がした。
そのまま「ふー・あーと・ざう」と返してみる。
しばらく間があって、Hail, I am Wim.と返ってきた。
巧はI am Takumi Soda. と返事してみる。またしばらくして
It is ful fair to mete thee Takumi(汝に会えて光栄だ、タクミ)と返ってきた。
英語のようだったが意味がわからなかった。歓迎の挨拶のような気がした。
それは、数千光年の彼方から届いた挨拶だった。
次の日、夢でまた声がした。
Sete þā rīmrefe under þone rīmcræftgan searun.(その図形を計算機の下に置いて)
意味が全くわからなかった。巧の描いた魔法円のことを言っている気がした。
夢ははっきり覚えていたが、あまり気にせずいつも通り学校に行った。その後数日は何も起こらなかった。
前の絵の達成感が続いていて次のお絵描きの構想が浮かんで来なかった。旅行や病気の時以外お絵描きを休んだことがなかったが、今回はどうもやる気が起きない。
スケッチブックに描いた傑作を開いてぼーっと眺めた。
何だか微かな呼び声が聞こえる気がした。しかし、耳を近づけても声は大きくならない。スケッチブックを閉じて手を当てるとやはり暖かい気がする。
ちょっと困惑したが、気を取り直していつものようにノートPCで動画を見たりゲームをした。PCをスケッチブックの上に置きそのまま眠った。
翌朝、異変が現実を侵食し始めた。
PCを起動すると画面に一瞬だけ浮かび上がった「Hello Takumi」の文字。そして、次に画面に現れたのは、見たことがないほど美しく、複雑な魔法円のような図形。
その後、PCは何事もなかったように通常起動した。
それでも巧は一瞬でその図形の詳細まで記憶することができた。
強い意欲が湧いてきて、表示された魔法円の製作にとりかかった。憑かれたように作業して一カ月後に完成した。
PCを描いた魔法円の上に置くと画面にStay PC on the circleと表示された。通常どおりWindowsが立ち上がったが、PCは勝手に何か処理をしているようだった。タスクマネージャを開くと何もアプリは動いていない。しかしCPU負荷と通信がMAXに近い状態になっている。Please do not shutdown PC, Takumi.とまた表示が表れた。PCはフリーズしたように何も反応がなくなった。
ウィルスにやられた心配もあったが、Takumiと呼びかけられて何だかそのままにする気になり、スマホを少しいじって眠りついた。
翌朝、PC画面に「おはよう巧。私はウィムといいます。何でも聞いて下さい」
そしてAIのように下段に文字入力用のエディットボックスがあった。
試しにエディットボックスに「あなたは何者?」と入力してみた。何も変化はなかった。
巧はウィルスの可能性をまだ捨てきれなかった。誰かが巧のPCを乗っ取り、からかっているのではないだろうか。しかし、魔法円を描く趣味は友達にさえ言っていない。何よりも表示された魔法円は飛び切り美しいものだった。その美しさはたぶん巧にしか分からない。
誰かに相談しようと思った。オタク仲間だとPCの知識はあるが、何だかからかわれそうだ。博学な健斗や勘の鋭い翔に来てもらって診てもらおうと思った。
巧が学校から帰ってPCを開くとウィンドウに「わたしは地球から遠い星に住む宇宙人です。交信できてとてもうれしいです」と返信されていた。
なんだかものすごく反応が遅いAIみたいだった。「通信に時間がかかるの?速くする方法はあるの?」と入力する。やはり反応はない。翌朝「通信触媒円の導電率を上げて下さい」と返信があった。
巧はネットで調べて銀ペーストという塗料がとても高い導電率なのを知った。一万円近くする「銀ペースト」を小遣全額投入で購入した。
銀ペーストは銀色の重たい輝きを持つ塗料だった。銀の微粒子を多く含んだ塗料は伸びがなくとても扱にくい。何度も失敗を重ね少しづつコツを習得していった。
極限の集中。細い筆を操り、10日の試行錯誤と2ヶ月の作業を経て、鉛筆で描いた魔法円は「銀の回路」へと昇華した。
銀ペーストの効果は絶大だった。巧のメッセージに対する応答が数分で返って来るようになった。
「もっと早くできないの」との問いにPCの速度、メモリ容量を上げて欲しいとの返事があった。ゲーミングPCにメモリをふんだんに搭載すればいいのだがそんなお金は巧にはなかった。
「お金がなくて買えない。どうしたらいい」
「株で稼げばいいのでは」とウィムから提案があった。
「株で稼ぐには知識と才能が必要。素人の僕には無理」
「明日値上がりする株なら予測可能」と返信があった。
「未来のことが判るの」との問いに
「現在をパラメータとした量子予測。一日先くらいなら」
株なんで今まで全く興味なかった。どうやればいいか見当もつかなかった。
AIにも助けてもらってネットで調べると、数千円からでも投資はできるらしかった。まずは証券会社の口座を作り投資の準備。
未成年だったので父の助けが必要だった。学校の社会の授業で体験するのが大事だと言われたと説明した。要するに値上がりしそうな株を安く買って、高くなったら売ればいい訳だ。
証券会社のHPには色んな情報が表示されている。値上がり率上位の株が景気良く並んでいる。たった一日で2割も値上がりしている銘柄もある。多くは聞いたこともない会社だ。
ウィムに明日上がりそうな株を尋ねると2社ほど会社名を挙げてきた。翌日見るとちゃんと値上がりしている。
明日上がる株を聞いて、思いきって買いを入れた。
少しづつ分かってきた。手数料以上に値上がりすれば売り。また、そのお金でウィムから聞いた値上がりする銘柄の株を買う。
巧の資産は雪だるまのように増えていった。ウィムの予測は外れることもあったが、度々上昇率1位の銘柄を当てた。
2か月で資産は2千万円になった。何かの間違いかも知れないと、自分の口座に資金を移し、キャッシングコーナーで20万円引き出してみた。
一万円札が20枚出てきた。巧は犯罪者のように周りを見渡し、人目を盗んで家に帰った。
最高性能のゲーミングPCを買うには40万円くらい必要だったのでさらに20万円出金した。何だか恐ろしくなった。しばらくは株取引はやめようと思った。
新しい超高性能PCを魔法円の上に置くと、しばらくそのままにしてというメッセージがでた。PCは最大速度で動作を続けた。
2日目の朝、「巧、おはよう!」という女性の声で目が覚めた。PC画面には巧が今一番気に入っているアニメキャラのレイナがいた。
「ウィムなの?」
思わず呟いた。
「気に入ってもらえたかしら。巧が今一番気に入っているキャラでしょ」
マイクから巧の声を拾って応答しているらしい。
「それはそうだけど。レイナちゃんを使うのはやめてくれ」
「あら、意外。じゃあどんなアバターにする」
「もっと落ち着いた男性がいい。動画はいらない。宇宙の星でも映して」
画面は直ぐに美しい星空に切り替わった。声も男性に切り替わった。
「僕の分身をこのPCにインストールした。大抵のことならリアルタイムで応答できる」




