5.バスと自転車
―麻琴Side
バス停に向かっていると、先に着いていた結月が私に気づいて手を振る。
「ゆづ、おはよ~」
「おはよ 昨日は大変だったね~ 今日も大変かもしれないけど」
「あはは~ まあ、慣れてるっちゃ慣れているから」
そう、昨日の入学式のあと教室でHRをして帰るという流れだったのだが…
昨日のHR終了後…
―「ねぇ、プラカード持ってた先輩と話してたけど知り合い?」「リボン着けてもらってなかった?」「隣のクラスの男子がプラカードの先輩の弟って聞こえたんだけどホント?」「始まる前、外で話してたよね?」と質問攻めにされた。
まあ、結月が声をかけてくれたおかげで早めに解放されたが、帰り際…
まだまだ聞き足りないといった様子で「また明日いろいろ聞かせてね」と言われてしまったのだ…
バスに乗ると、同じ学校の人や通勤の人で席が埋まっていたので立つことに。
「えっと今日は、校舎の案内と委員会決め、午後は全体オリエンテーションか~」
今日一日、一年生は授業がなく、学級長や委員会を決めたり、校内を巡り教室を覚えたり、部活動紹介などを聞いたりすることになっている。
”委員会”という言葉を聞いて、朝のことを思い出す。
「あのさ、ゆづにお願いがあるんだけど…」
「いいよ~ 私にできることなら」
「実は…」
今朝、家を出る前…
「いいか 昨日も言ったけど麻琴も体育祭実行委員なってよ!俺がいるから! それに、体育祭で同じチームだから一緒に仕事することになるし…って聞いてる!? 絶対だからね! わかっ…」
「聞いてる…わかったから。 じゃあ、いってきまーす」
と、昨日からしつこく言ってくる兄を振り切って家を出てきたのだ。
「ってことがあって… それで、ゆづにも体育祭実行委員やってほしいんだけど…」
「なるほどね~ いいよ。(それにしても、お兄さんが言い出したってことは多分…)」
「ありがとう!助かる!」
嫌がられたり、やりたいことがあって断られたらどうしようと思っていたが、あっさりと了承してくれて安心した。
「どういたしまして。 まあ、お互いなれるか確定じゃないけどね… って、あれ柊斗くんじゃない?」
結月が指さす方向を見ると、颯爽と自転車を漕いでいる柊斗がいた。
「本当だ」
「手振ってみたら?」
「え?なんで?」
「ん~面白いから? いいじゃん、どうせ気づかないって! ほら~私お願い聞いたじゃん?」
結月は、いたずらな笑顔を浮かべながら言ってくる。
「そうだけど…(たまに、こういうことさせるんだよなー) 一回だけ、一瞬しかやらないからね」
うんうんと満足そうに頷く結月。
頼みを聞いてくれたし、まぁこれくらいなら…と結月からのリクエストを受けることに。
(どうせ見えないだろうし、サッとやろう)そう思い、柊斗に向かって手を振ってみる。
当然、柊斗が見ることはなく、何をさせられているんだ?とも思ったが、
「これでいいでしょ?」
「オッケー」満足そうな笑顔でオッケーポーズをしている結月。
(何が楽しいんだろう…)と思いながら、振った手を見た。
(もし、柊斗が見たらどんな反応したかな… 無視した?それとも振り返してくれた?)
そう考えると、胸がキュッとなった…
―柊斗Side
「いいか~ 昨日も言ったとおり、颯汰が麻琴ちゃんを体育祭実行委員に誘ってるから、わかってるよな? 中学の時はダメだったから今度は成功させろよ!」
「…わかってるよ」
同じクラスになったことがないだけでなく、同じ委員会になったこともないので、これまで学校生活での接点はゼロ。
実は、中学の時も兄たちがこの作戦を立ててくれたが、運悪く叶わなかった…
「湊~」
玄関から颯汰が湊を呼ぶ。
「颯汰だ じゃあ、しっかりやれよ!」
念を押すように柊斗の肩をぽんと叩き、湊は一足先に学校へ向かった。
兄に言われたことを考えながら自転車で学校に向かっていると、バスに乗っている麻琴が見えた。
(並んだら見てくれるかな…)
そんなことを思いながら少しスピードを上げる。
バスと並べた時間は短かったから、見てくれたかは分からないけど、もし見てくれていたら…
そう思うと、自然と口角が上がってしまう。一瞬で元に戻すが…
学校に着き駐輪場に自転車を停めていると、後ろから朝陽が声を掛けてきた。
「柊斗おはよ~」
「おはよ (そうだ、あれ頼んでみるか) なぁ、頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
「体育祭実行委員やってほしいんだ」
「…いいけど、なんで?」
「実は…」と今朝のことを説明
「なるほどね~いいぜ! なんか、楽しそうだし!(先輩たちも考えたな~)」
(朝陽だったら、麻琴と一緒でも安心だしな)「助かる」
「俺が麻琴と同じクラスでよかったな~」
柊斗の考えていることが分かったのか、朝陽がニヤつきながら言ってきたが、思っていたことを当てられた柊斗は何も言い返せなかった…




