番外編 祝福に包まれて
あれから、華とダージリンは、華の部屋にあるドレッサーを通じて、現代とメルティア王国を行き来しながら生活していた。
最初は現代の世界に戸惑っていたダージリンも、今ではすっかり慣れていた。
「これは……ふわふわですね」
カフェでパンケーキをフォークで持ち上げながら、ダージリンは真剣な顔で呟く。
華は思わず笑った。
「パンケーキですよ?甘いから好きだと思います」
一口食べると、ダージリンの表情が柔らかくなる。
「……これは素晴らしいですね」
その日からダージリンは、パンケーキがすっかりお気に入りになった。
映画館では大きなスクリーンに驚き、ゲームでは妙に真剣な顔でコントローラーを握る。
華はそんな姿を見るたび、くすくすと笑っていた。
しかし王国へ戻ると、華は少し寂しそうな顔をすることがあった。
ディアナの事件の夜に燃えてしまった教会。
半壊したままのその姿を見ると、胸が締め付けられるのだ。
ある日、華が教会の前で立ち止まっていると、後ろから声がした。
「そんな顔するなよ」
振り返ると、ブラックが腕を組んで立っていた。
その後ろには、紅の騎士団と黒の騎士団、そして街の人々まで集まっていた。
ストレートが胸を張る。
「教会、みんなで直すことになったんだ!」
アッサムも優しく笑う。
「……この国の大切な場所」
街の人々も頷く。
「女神様の教会だもの!」
「放っておけないよ!」
華の目に涙が浮かぶと、
「みんな……」
ダージリンは華の手を優しく握る。
「あなたが守った国です。皆、それを忘れていませんよ」
それから数ヶ月後、教会は見事に建て直された。
以前よりも、ずっと美しく。
そしてその頃、華とダージリンは、現代の世界で結婚式場を探していた。
カフェの窓際の席で、華はスマートフォンを見つめている。
「うーん……」
「まだ決まりませんか?」
「どこも綺麗なんですけど、なんかピンとこなくて」
スマホをスワイプしていると、華の指が止まった。
「あれ……」
ダージリンが覗き込み、
「どうしました?」
華は画面を見せる。
そこには、王国の教会にそっくりの結婚式場が映っていた。
白い石造りの建物に、高い塔、そしてあの大きなステンドグラス。
ダージリンは思わず呟く。
「……凄い」
華とダージリンは顔を見合わせた。
言葉はなかったが、二人の考えは同じだった。
(ここで、結婚式をしたい)
華は嬉しそうに笑った。
こうして二人の結婚式は、二つの世界で行う事にした。
現代と、メルティア王国。
どうやらドレッサーで行き来できるのは、華とダージリンの二人だけ。
きっとこれは、あの泉に咲いていた白い花が起こした奇跡。
二人の愛が結んだ力なのかもしれない。
そして、結婚式当日の、現代のチャペルの控室。
華は純白のウェディングドレスに身を包み、鏡の前に立っていた。
「……本当に結婚するんだ」
少し照れくさそうに笑うと、扉がノックされた。
「華」
父の声だった。
「そろそろ時間だぞ」
華は深く息を吸い、頷く。
王国によく似た教会の扉が開いた。
バージンロードの先には、タキシード姿のダージリン。
華を見た瞬間、彼は柔らかく微笑んだ。
父が華の手を預ける。
「娘をよろしくお願いします」
ダージリンは真剣な顔で答えた。
「必ず幸せにします」
誓いの言葉、指輪の交換、祝福の拍手。
そして結婚式が終わると、華とダージリンは急いで自宅に帰り、自室のドレッサーの前に立った。
「みんなが、待ってますね」
ダージリンが頷く。
二人が鏡に触れた、次の瞬間、景色が変わる。
そこはメルティア王国の教会。
建て直されたばかりの、美しい教会だった。
扉の前には騎士団の仲間たちが待っている。
ストレートが叫ぶ。
「2人ともおせぇよー!」
アッサムが笑う。
「花嫁さん、とても綺麗ですよ」
ブラックは腕を組みながら言う。
「……まあ、悪くねえな」
教会の鐘が鳴り響く。
二つの世界で祝福されながら。
華とダージリンは、新しい人生を歩き始めた。
華が空を見上げると、ダージリンは華の手を優しく握る。
「華。これからも、どんな世界でもあなたと共に」
クロアゲハは空高く舞い上がっていった。
まるで二人の未来を導くように。




