Ending もう一度、貴方に
気がつくと、華は床に倒れていた。
頬に触れるのは冷たい床の感触。
ゆっくりと目を開ける。
そこは、見覚えのある部屋だった。
自分の部屋だ。
目の前には、いつも使っていたドレッサーが、窓からの光で輝いている。
「……あれ……」
体を起こした瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「華!?」
両親が焦った表情で、部屋に飛び込んでくる。
「華……!本当に華なのか……!」
二人は涙を流しながら華に駆け寄り、強く抱き締めた。
華は驚きながらも、小さく呟く。
「お母さん……お父さん……?」
母親は泣きながら何度も頷く。
「よかった……本当によかった……!」
父親も震える声で言った。
「お前……三ヶ月もいなくなってたんだぞ……!」
華は目を見開いた。
「……三ヶ月?」
「警察にも捜索願を出した。
会社にも連絡した。……色々調べてもらったんだ」
そして、少し苦い顔をする。
「そしたらな……あの会社、とんでもないブラック企業だったらしい」
長時間労働、未払い残業に、違法な労働環境。
調査が入った結果、会社は倒産した。
華はしばらく黙っていた。
以前の自分ならきっとこう思っていただろう。
迷惑をかけてしまった。
だけど今は違った。
「……良かった、辞めれて……」
そして小さく笑うと、父親と母親は驚いた顔をしたが、何も言わなかった。
華の目は、以前より前を向いていたからだ。
それから数年が経ち、華の生活は大きく変わった。
無理をしない仕事、好きなことを楽しむ時間。
そして推し活。
今日は、大好きなアーティストのライブの日。
「やばい、遅れる!」
華は駅へ向かって急いでいた。
その時、
「お嬢さん」
後ろから優しい声がした。
「ハンカチ、落とされましたよ」
華が振り返ると、そこに立っていたのは、美しい青年だった。
整った顔立ち、どこか品のある立ち姿。
そして、優しい微笑み。
その瞬間、華の心臓が大きく跳ねた。
「……華、覚えていますか?」
華の目が大きく見開かれる。
「……ダージリンさん?」
青年は優しく微笑んだ。
「ええ。貴女を迎えに来ました」
華の目から涙がこぼれる。
ダージリンはゆっくり華の前に立つと、片膝をついた。
周囲の人々が驚いて足を止めるが、ダージリンは真っ直ぐ華を見つめた。
「華。どうか、私と結婚してください」
華は驚いて口元を押さえる。
涙が止まらない。
「……私で、いいんですか?」
ダージリンは優しく笑った。
「あなた以外、考えられません」
そして手を差し出す。
「今度は私の隣に、ずっといてください」
華は泣きながら笑い、強く頷いた。
「……はい」
その手を、しっかりと握る。
華が空を見上げると、ダージリンは華の手を握り直した。
華の部屋のドレッサーの鏡が、淡く光っていた。
それは、二つの世界を繋ぐ扉。
「……もう一度、貴方に会えてよかった」




