No.12 微かな希望
大空から叩きつけるような雨が森を打ち付けていて、遠くの方では雷鳴が聞こえる。
ダージリンはマントを強く握りしめながら、暗い森の中へ足を踏み入れた。
教会組織に見つかれば厄介だ。
だからランプも灯さない。
雨音だけを頼りに、草をかき分けながら進んでいく。
その時、奥の草が揺れ、ダージリンの手が腰へ伸びる。
剣の柄を握るが、次の瞬間、姿を現した人物を見て手を離す。
ブラックだった。
雨に濡れた黒いマントが揺れ、ダージリンは静かに言った。
「何をしているんだい」
「お前の方こそ」
しばらく雨音だけが二人の間に流れた。
やがてダージリンが口を開く。
「……君の部下が出した珈琲。覚えているかい」
ブラックは黙っているが、ダージリンの声が低くなる。
「あれに猛毒が入っていた」
ブラックの眉がわずかに動いた。
「私の所の治療長に診てもらったが、白い花が無いと助からないんだ」
鋭い視線がブラックへ向く。
「……とんでもない事をしてくれたね」
ブラックは小さく舌打ちした。
「……そんな話聞いてねぇ。……はぁ……白い花探してんだろ?」
ブラックは森の奥を顎で示した。
「知ってるぜ」
「君は何も得しないぞ?」
「部下の粗相は上司が処理しねぇとな」
雨の中、背中を向けたまま言う。
「……死んだら後味わりぃ」
ダージリンは一瞬だけ小さく息を吐いた。
「……そうか」
そしてブラックの後についてしばらく歩くと、森の奥に岩壁が現れた。
そこには黒く口を開けた洞窟があり、入口には古い看板が立っている。
『立ち入り禁止!』
ブラックは看板を見て鼻で笑い、
「知ってんだろ」
洞窟を指す。
「ここには何かを守る魔物が住み着いてるって」
ダージリンは洞窟の奥を見つめる。
真っ暗な闇が続いていた。
「……つまり、白い花はこの奥に?」
ブラックは肩をすくめる。
「そういう事だ」
その時、洞窟の奥から低い唸り声が響いたと思うと、地面がわずかに揺れる。
ダージリンは剣を抜いた。
「……厄介だね」
ブラックも剣を抜く。
「面白ぇ」
雨音が洞窟の外で響く中、巨大な影が奥で動き、ダージリンは剣を構える。
「時間が無い」
「だったら、さっさと花取って帰るぞ」
次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。
その頃紅の騎士団本部の『桜』の部屋では、華はベッドの上で苦しんでいた。
呼吸が荒く、汗が滲んでいる。
アッサムは静かに濡れタオルを取り替え、華の額にそっと置く。
華は薄く目を開けた。
「……アッサム……ごめん……ね……」
息が苦しそうに続く。
「私が……勝手な事……した……から……」
アッサムは一瞬手を止めたが、そして優しく言った。
「……大丈夫、華は悪くないよ」
華の手をそっと握る。
「……ダージリンが行ったから、必ず戻ってくる。……だから安心して」
だが、華の呼吸はさらに苦しくなり、汗が増えていく。
アッサムの表情が曇る。
華の熱は上がるばかりだった。




