第4話:禁じられた薬
薬匣の奥で、私は匂いを頼りに側近の症状の痕跡を追った。甘く苦い薬草の香り――それは、宮廷で“禁じられた薬”と呼ばれる古い処方の残香だ。
「こんなもの、誰が……」
私は小さな声でつぶやく。指先に残る微かな香りは、誰かが意図的に混ぜたことを物語っていた。
蒼も書物をめくりながら眉を寄せる。
「記録から消されている……しかし匂いは消せない。証拠はここに残っている」
彼は小瓶を取り出し、匂いを嗅いで眉をひそめた。
「この香り、私の嗅覚の記憶と一致する……側近が倒れる前、同じ匂いが廊下に漂っていた」
「……やっぱり、意図的に誰かが仕組んだんですね」
私は拳を軽く握る。目に見えないけれど、匂いが教えてくれる。真実の手がかりがここにあることを。
私たちはさらに調べるため、薬匣の古い棚に手を伸ばす。埃にまみれた古書の間から、ひとつの小箱が現れる。開けると、中には粉末状の薬と、かすかに香る書き込みのある紙片。
「……これか」
蒼が指差す。紙には古い文字で、調合法と注意書きが書かれていた。微かに残る香りは、側近の体からも、瓶からも同じだった。
「この薬、使うのは禁じられているはず……」
私の声が震える。宮廷では、表向きは公式に禁じられている薬のはずだ。なのに誰かが使った。匂いがそれを証明している。
その瞬間、背後から足音が近づいた。御役人の一人が立っている。目が鋭く、私たちを一瞥する。
「……見つけたな、瑠璃」
「……ええ、匂いが教えてくれました」
私は平静を装う。匂いは嘘をつかない。隠そうとしても、残り香は必ず証拠になる。
御役人は静かに頷き、箱を取り上げる。
「これは……下手に動かすと大事になる。だが、君たちがここまで嗅ぎ分けるとはな」
蒼も私も無言で頷く。胸の奥に、緊張と期待が入り混じる。
私は心の中で決める――匂いをたどり、真実を編む。この宮廷に隠された秘密を、誰にも知られず、しかし確かに暴くのだと。
今日、私は初めて、宮廷の陰謀の輪郭を嗅ぎ取った。匂いが、事件の核心を示している。
そして、この香りが導く先には、さらに大きな謎――王家に秘され、消された治療法の存在が待っているのだ。




