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「なんでお前たちは旅をしてるんだ?」

「うん?」

フィーネたちは砂漠にぽつんと佇む、廃れた家の中で小休止をしていた。

「この国のためっていっても、フィーネやテラーは特に幼いだろう。危ないことも多いしな。旅に同行することを決めた理由ってなんだろうって思っただけだよ」

頬をかくノルはばつが悪そうだ。昨晩、クランに旅に同行するよう説得でもされたのかもしれない。

フィーネはテラーより年上だが、孤児たちと比べてもノルにとって大差ないのかもしれない。自分の弟妹と同じぐらいの子供が危険な旅をしている、それがノルには想像できないものなのだろう。

自分の答えがノルの選択の一助になればいいな、とフィーネは胸に手をあて振り返りながら答える。

初めは少しの反発心と見栄と、自分にしかできないという高揚感があった。でもその根底には…

「家族が大切だから、かな」

両親への愛がある。目を閉じたら脳裏に笑顔の二人がいた。自然と口角が上がる。

「このままだと島が大変なことになって、両親も死んじゃうかもしれないから。それを防ぐことが、手助けができるならって気持ちがあったんだと思う。最初はそんなことも深くは考えてなかったんだけど」

フィーネを神妙な顔で見ていたノルが、頭をがしがしとかいて顔を腕の中にすっぽり隠してしまう。体育座りをしているため余計に顔が見えなくなってしまった。

イエリナが横からフィーネに抱きついて手を上げて発言する。

「イエリナは、フィーネに恩返し!」

「恩返し?」

「イエリナのお母さんが死んじゃいそうだったところを治したの」

「…二人とも家族のためってことか」

二人は家族に愛されていたんだな、とか細い声で溢す。ノルは顔を上げて天井を見て、暫くしてから視線を斜め下に向けながらも自分のことを話し始めてくれた。

「俺の母親は俺が小さい頃に亡くなっちまって、暫く父親と二人暮らしだったんだ。父親は酷いやつでさ、気にくわないことがあるとしょっちゅう俺を痛め付けてたわけ。だからあんまり親にいい思い出もないんだよ。だから家族のためっていう理由がぴんとこないんだ」

暗い表情のノルに胸が締め付けられる思いがした。フィーネにとって親は子を愛するものという認識があるため、ノルの境遇を真に理解することができない。だが決していい思い出ではないことだけは伝わってきた。

こんな暗い表情は子供たちの前では見なかった。それほど実の父親からの仕打ちはノルの心に深い傷を残しているに違いない。

しかしいままで見たノルからそのような陰は見えなかったことから、恐らくノルの父親はもうこの世にはいないのだろうと予想できる。それは幸いなのかもしれない。

「でも、子供たちはノルの家族じゃない」

「放っておけなくて面倒見てたらあんなに多くなっちまっただけで、家族とか意識したことないんだよ」

「私はノルが皆を大切にしてて、守ろうとしてるって感じるよ、それって家族だからじゃないのかな」

フィーネからしたらノルは彼らの父親代わりになろうとしている気がする。食糧を調達して住む場所を守って、彼女があの家の家長みたいだ。

「そう、なのかもしれないな」

眉を下げて微笑むノルは、今まで見た中で一番穏やかな顔をしていた。

血の繋がりなんて関係ない。イエリナと狼が家族であるように。彼らは支えあって、お互いを思いあって生きている。彼らの関係もフィーネには家族に見えた。

「今はノルがここを守っているけれど、そのうち食べ物も儘ならなくなるかもしれない。皆で砂漠の外にいこうよ。そこで暮らせばいいよ」

「それで俺はお前たちに着いていくって?」

図星をつかれてぐうの音もでない。いたたまれない顔のフィーネを見て笑うノルの顔は先程より晴れやかな気がした。

考えておく、と頭をぽんと叩かれた。ゆっくりと扉に向かうノルの背中をじっと見つめたあと、小走りでその後を追う。

少しは前進したと思ってもいいのかもしれない。

「フィーネ!あれの肉を持ち帰りたい!浄化してくれ」

ノルが入り口で砂山の向こうに見える、体の大きな黒い四足歩行の魔物を指差した。確かにあれは肉がよくついてそうだ。

食糧になりそうな魔物はフィーネが浄化し、そうでなければイエリナが植物の栄養源にする。毒や毛皮など別途必要な部分がある場合はノルが処理していた。

今日はまだフィーネは魔物を浄化していない。活躍のチャンスだ。

「了解!今行く!」




家に戻る道中でラクスがフィーネたちの方へふらふら飛んできた。イエリナの肩に着地して羽を休ませ始める。

「どうしたの?」

「テラーたちが見つけたって~」

はっとしてノルを見るが彼女はフィーネたちの会話は特に気にしてない様子でほっとする。ラクスが言葉をぼかしてくれてよかった。

だがこれはノルにも関わることである。フィーネたちだけが向かうのも違う気がしたため、ノルに向き直った。

「ノルさんは、クランさんが何をしているか知っているんですか?」

「いや、昔仕事をくれてたやつらへの義理でなにかしているってことしか。ただその相手があんまり良くないやつらってことは把握してる」

昨夜フレイヤたちと話していた内容から推察するに、ノルの想像より悪い事実が判明する気がした。それでも自分だったら知りたいと思うから。

「クランさんが何をしているか、知りたくないですか?」

フィーネはノルに手をさしのべた。

「今フレイヤたちがクランさんの居場所を掴んでます。そこで彼女が一体何をやっていたか、わかると思います」

ノルは困惑の表情を浮かべた。フィーネの手を取るべきか悩んでいるのかもしれない。ふんわりと知っていたことの実態が白日の下に晒されるのは衝撃が大きい。

暫し躊躇っていたノルは決心がついたのか、顔を引き締めてフィーネの手をとった。

「知りたい。連れてってくれ」

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