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朝食をとったあと、フィーネとイエリナはノルについて砂漠へ向かった。ノルは日中砂漠で魔物を狩ったりしているらしい。クランは家で子供たちの面倒を見たり裕福な家のお手伝いをしにいくそうだ。

テラーは砂漠がきついので家で子供たちといることにし、フレイヤとファムはクランを観察することになった。フィーネも家にいたほうがいいのではと言われたが、クランは恐らく自分には本心を見せてくれないだろうという予感があったため、ノルについていくことにしたのだ。イエリナは単純に動いているほうが性に合っているから同行している。彼女とノルの相性はそこまで悪くないとフィーネは考えている。あまり遠慮しないイエリナなら、ノルの気持ちも引き出せるかもしれない。

「…止まれ」

ノルが手で制止する。フィーネとイエリナは指示に従い止まり、辺りを見回したが特に変わったところを感じなかった。

「何かいる?」

「斜め右前方」

ノルのいった方角を見ると砂漠にほとんど埋もれていたが、何か赤色の塊が見え隠れしていた。

「血の匂い」

イエリナがぼそりと呟く。フィーネにはさっぱり感知できなかったが、イエリナのいう通りならば前方の物体は何かの死体と考えられる。

「ああ。しかも血がまだ乾いていないってことは、襲った魔物がまだ近くにいるかもしれないってことだ」

皆が周囲を警戒していると微かに自身が揺れている感覚がする。これは砂漠で初めて魔物に遭遇したときに感じたような、揺れだった。

ザバッと後方の砂漠から魔物が飛び出してきた。大きな体のネズミのような形をしており、前歯が口から覗いている。イエリナが咄嗟にフィーネを抱き上げて後方に飛び退く。ノルがさっと前へ躍り出て釘のような水の塊を作り出し、魔物へ突き刺した。しかし一撃で仕留めることができず、魔物の爪がノルの腕にかすった。

痛みに息を飲んだノルを守るようにイエリナが前方に体を滑り込ませて、魔物の体から植物を生やし絶命させた。

イエリナの腕から抜け出したフィーネはノルのもとへ駆け寄る。怪我した腕を見ようと押さえているノルの手をどけると傷口から血は一滴も出ていなかった。

普通こんな傷ができたら血は出るはずなのに…と治すのも忘れて観察していると頭上から声が降ってきた。

「水を操る力で自分の血も操ってるだけだ。液体なのに変わりないからな」

「ノルさんはそこまで力を使いこなしてるんですね。すごいです」

フィーネは皆に教えてもらいながらできることを増やしていったから、誰にも、自身の竜すら近くにいない状態で力を使いこなせるまでに至るノルに感嘆する。

傷に手をかざして癒すと、ノルの目が大きく開いた。

「フィーネ、だったか。お前は光の竜の乙女ってことか」

「そうです。イエリナは木の竜の乙女」

「うん!」

イエリナが魔物の傍から駆けてきた。服の裾を引っ張ってそこに果物をいれてある。果物は魔物から生やした木を成長させてとったのだろう。魔物が栄養と考えると気まずいが、砂漠で果物は貴重だ。

「こんなこともできんのか。すごいな」

イエリナの手から果物を受け取りまじまじと見るノルを、満面の笑みで見た。

「ノルすごい!水大事!」

「はは、ありがと」

果物に齧り付き、ノルはうまいと溢した。フィーネも果物に口をつける。確かにそれは瑞々しくて美味しかった。

「遺体、どうしようか」

果物を食べ終わったあと、砂漠に埋もれた魔物に食い殺された体を見る。砂漠では埋めることも難しい。砂を被せることぐらいしかできないだろう。

「顔がないし、どこのどいつかもわからないからそのままにするしかないな。ああ、イエリナがあいつ使って果物作ってもいいぞ」

「わかった!」

「ええ!?」

死体に近づいていくイエリナとノルを交互に見る。ノルは口角を上げて楽しげな様子だった。

「死んだら土に還って養分になる。何も変わらないだろ」

「そ、そうかもしれないけど…」

「俺はイエリナとは気が合いそうだ」

生きてきた環境が異なれば、考え方も異なる。イエリナは野生で生きて、ノルも孤児たちと支えとなる大人がいない状態で生きてきた。自分と関わりのないものの死というものも軽くなるのだろう。フィーネには人の尊厳を踏みにじっているように感じたが、二人にはそれが感じられないのかもしれない。

イエリナがたたたっと腕に果物をいっぱい抱えて駆けて戻ってきた。それらを袋に詰めてまた砂漠を探索する。

今度からむやみに魔物に植物を生やさないようにイエリナが注意されていた。魔物の毛皮や肉、あるならば毒が欲しいらしい。

「毒ってなんで必要なの?」

「理由は知らないが、貴重なんだとよ」

毒も少量なら薬になると本で書いてあったことを思い出した。魔物の毒も同様か不明だが、そういった用途を目的としているのかもしれない。

その日、フィーネたちは魔物を計三体倒して戦利品を換金してから家へ帰った。

食事をとったあと、フィーネたちは家の外でノルたちに気づかれないように今日あったことを話していた。

「こっちは特になかったかな。魔物を倒して毒とか毛皮を採取して、ああ、イエリナはノルにかなり気に入られてたかな」

「イエリナもノル、嫌いじゃない!」

「待って、毒も採取したの?」

疑問を浮かべるフレイヤにフィーネは採取したときのことを思い浮かべて説明した。

皮膚についたら危ないため専用の手袋をはめて、口元を布で覆いながら魔物の体を割いてガラス瓶に注いでいた。採取用の道具は全て依頼してきた者が用意したらしい。フィーネがいるため毒に侵されても癒すことが可能だが、念のため離れて見ていた。その毒だけは他の戦利品とは違う場所に換金しにいっていた。ただノルについてこないよう言われたため相手は確認できなかったが。

「…その相手、ちゃんと確認したほうがいいかもしれないわね」

「どうして?」

「…クランと関係があるかもしれない」

ファムがフィーネの疑問に答えた。

クランはノルたちが出ていって暫くして家を出ていった。フレイヤとテラーは子供たちの相手をしてファムはクランを尾行したらしいが、途中で撒かれてしまったらしい。ファムが撒かれるとは、クランは一体何者なのだろうか。

その後ファムはクランを探したようだがとうとう見つけられず、昼過ぎに家に帰るとそこには既にクランが戻っていた。しかも金で布など日用品を買って帰ってきたのである。家を出るときクランは金を持っている様子はなかった。行方がつかめなかった日中になにかを行い、金を得ていたと推測できる。

「…ノルの取引相手とクランが働いているところが同じ場所の可能性が高い」

「危なそうなところってこと?」

「そうね。日中の短い時間で日銭を稼ぐにしては金額が高そうだもの。危険が高いことは確実でしょうね」

三人は腕を組んで悩む。ノルに旅を同行してもらうことが優先事項だが、孤児たちはノルにとって大切な存在のようだし彼らをどうにかしなくては始まらない。そしてクランも彼女にとって大きい存在だ。クランがノルを説得して同行してくれて、孤児たちの生活が保障されたとしても、何か懸念材料が残る状況は避けたい。

「私なら、尾行できます」

おずおずとテラーが手をあげる。視線が集まって恥ずかしそうに指を弄りながら話す。

「意識を集中させれば、土を通して位置と声はわかります。建物に入られちゃうと、わからなくなっちゃいますが」

「ならテラーに場所を特定してもらって、ファムに中を伺ってもらうのはどう?」

「…わかった」

なにかクランが危ないことやいけないことをしているなら止めて、それから孤児の皆と仲良く暮らしてほしい。竜の乙女の自分たちならば皆が暮らしていく金を国からもらうこともできるだろう。

次の日もフィーネはノルに着いていくことにした。

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