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「私たちは皆さん、お察しの通り孤児なんです」

フィーネたちはノルの家に入って、クランの話に耳を傾けた。家の中に入るとノルたちより幼い子供たち、中には乳幼児までいた。皆入った瞬間はフィーネたちを警戒していたが、クランがフィーネたちに敬意を示しているとなんとなく察したのか散らばるように去っていった。

クランは手を組んでもじもじと指を弄りながら言葉を紡ぐ。

「私たちはほんとに皆幼くて、労働できない子も多いぐらいで、その日の食事も難しい子たちばかりなんです。ノルは皆のために危険なことばかりして、日銭を稼いでいるんです。だからラクス様が来たときお断りしたんだと思います。ついていったら私たちを見捨てることになるから」

「国には言わなかったんですか?竜の乙女ってわかれば、その家族も保護してくれますが…」

テラーが下から覗き込んで聞く。彼女の姉、エレツも竜の乙女で騎士だった。そういった国に関することは姉や家族から聞いていたのかもしれない。クランは首を横に振って嘆息する。

「私も提案したのですが、ノルは首を振らなくて。砂漠化したのに援助も何もせず、放置している国は信用ならないって」

信用ならないっていうのは私も同意見なんですけどね、と肩をすくめた。

「でも私は、ノルは他の竜の乙女の方やラクス様と一緒にいったほうがいいって思ってるんです。だから私にできることがあったらいってください」

真っ直ぐとした強い目だった。フィーネと年齢もそこまで変わらないだろうに、この砂漠の中心で強く生きてきたのだろう。

協力は願ったり叶ったりだ。ノルはクランに心を許しているように見えた。そのクランが味方をしてくれるとは、鬼に金棒といっても過言ではない。

「そしたらひとまず泊めるところ、お借りしてもいいですか?」

フィーネは目先の問題を解決することにした。




「クラン、なんでこいつらがいるんだよ」

ノルが家に戻ると我が物顔で座っているフィーネたち一行がいて眉をしかめた。彼女からしたら砂漠で自分を誘ってきた連中が家に居座っててきまりが悪いに違いない。

「ノル、この方たち、泊まる場所がないそうなの。お金も払ってくださるそうだし、子供たちがいても気にしないそうだし、いいでしょ?」

「…だけどこいつら」

「それにこんなに小さな子もいるのよ。野宿させるなんてあんまりじゃない?」

クランはテラーの肩に手をおいてノルに見せた。ノルの家にいる子供たちと同じか少し大きいぐらいのテラーに対し二の句が継げない。

テラーが上目遣いでノルをじっと見つめた。情に訴えかけるように。ノルは百面相をしたあと、長いため息をついたのちに了承してくれた。

フィーネたちは無事にノルの許しを得たため、夕飯の手伝いをすることにした。テラーは子供たちの相手をしているノルの傍で話をしたり、一緒に遊んだりしている。イエリナはそこら辺の地面で丸くなって眠っており、フィーネは邪魔にならないようにクランたちの背中を眺めていた。

「いつも、料理はあなたが一人でやってるの?」

「はい。時々子供たちも手伝ってくれますよ。ノルは苦手なので食材を持ってくるだけですけど」

「そういえば、ノルさんが食事処の男の人に家族に手を出すなっていってましたけど、クランさん、何かされたんですか?」

フィーネの言葉にびくっと肩を震わせてクランは手を止めた。ゆっくり深呼吸をしたあと、取って付けたみたいな笑顔でフィーネを見た。

「大丈夫、なんともないから。ありがとうね」

絞り出したような声のあと、さっと視線を手元に戻して黙々と調理を再開した。ファムとフレイヤは少しぎこちない様子を怪訝に思うも、何も問いただすことはしなかった。フィーネは視線を戻したあとのクランが少しだけ自分たちと距離を取ったように感じた。

たぶん、私に聞かれたくないことなんだ。

それからは料理が出来上がるまで一言も話さずじっと見つめていた。

砂漠の真ん中で食糧も思うように手に入らないため、食事は質素なものだった。スープと固いパン。ノルのお陰で水だけは困ることがない。それだけは幸いだった。クランとノルは幼い子供たちの食事を介助してから自分たちの食事をしていた。

フィーネたちは食事を済ませたあと、皆の食器を洗う。どれも使い古されてひびが入っているものばかりだった。水はノルが出したりラクスが出したりしていた。

食後は元気いっぱいな子供たちの相手をイエリナと共にしていた。おいかけっこやかくれんぼ、疲れて眠くなるまで行った。

子供たちは皆地面に何も敷かずに寝ている。ほんの少しの藁は幼い女の子たちが使っていた。布もかけずに雑魚寝だ。フィーネたちは自分たちが持っていた寝袋を使っていた。クランの配慮でフィーネたちは隅のほうで子供たちとの間にクランとノルを挟んで寝ている。夜の砂漠は冷えていて、少し肌寒かった。

物音で目が覚めると隣のクランとノルがいなくなっていた。視線だけを動かして探すと部屋を出たところで二人が立っているのが視界に入る。皆を起こさないように声を潜めているため、耳を澄ませて音を拾う。

「行くなっていってるだろ」

「大丈夫だよ。それにこれ、お金がいっぱいもらえるの」

「俺が稼ぐから、それでいいだろ!」

「ノルばかりに負担をかけさせられないよ」

「…あいつら泊めるっていったのはクランだろ。ちゃんと面倒みろ。あいつらから金ももらってんだろ」

揉めている二人の論点が見えなくて目を瞑ったままぼーっとしていたら、自分たちが話題にあがってびくっとした。幸い気づかれなかったが。

「話は終いだ。相手方には俺が明日話にいく。さっさと寝るぞ」

ノルがクランの手をひいて横になった。ノルはあっという間に寝息をたて始めたのでクランがそういう問題じゃないのに、と呟いた声は聞くことができなかっただろう。クランがフィーネのほうに体を向けて丸くなってしまったので、盗み聞きした罪悪感からか、寝返りをうてなかったからかなかなか二度寝ができなかった。ちらりと隣を盗み見るとクランは既に眠っていた。

クランはどこに行き、何をしようとしていたのか。金を稼ぐことなのだろうけど、ノルに止められることとなるとフィーネには想像できなかった。もんもんと悩んでいるとあっという間に朝日が昇る。あれからフィーネは一睡もできなかった。

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