第1話 最初の1G
そっと日記を開く。
そこには、今までの孤独と痛みが綴られている。
けれど、読み返す気にはなれない。
わたしはページをめくることなく、ただ右下に記された数字を確認した。
『1G』
そして、一番最近の綴ったページ
『32,580G』
「…………」
増えている。
確実に、増えている。
満足して、わたしはそっと日記を閉じた。
そして――
「んんん! ありがとっ!!」
思わず拳を握る。
(過去の私、よく耐えた!
頑張ったわね、わたし!
すごい! すごい、すごい!!)
今日までの不幸。
孤独。
理不尽。
傷つけられた言葉。
そのすべてが、無駄ではなかった。
(いや、人生何が起こるかわからないものね。
う……ん。でも、やっぱり今の残高の倍は欲しいわ。
王都の外れに家も買っちゃったし、
また貯めないとだわ!)
「しゃー!」
わたしは小さくガッツポーズをした。
……これだけ聞けば、
さぞ幸せな令嬢に見えることだろう。
けれど。
わたしの名前は、エレノア・フォン・ベルク。
しがない男爵令嬢だ。
幼い頃に母が亡くなり、
ほどなくして継母と義妹が家にやって来た。
母が亡くなる前から、
父は継母と関係があったのだろう。
そう思わずにはいられないほど、
二人が家に入ってからの変化は早かった。
気がつけば、 義妹に部屋が奪われ、
いつの間にか日の当たらない小さな部屋に
なっていた。
幼い頃から慕ってくれていた使用人たちも、
次々と解雇された。
そして、わたしは本当に一人になった。
屋敷の中に、わたしの味方も居場所はなくなった。
……いわゆる、恋愛小説、虐げられたヒロインの
テンプレというやつだ。
辛いことがある度に、母が残してくれた一冊の
日記帳に、思いと寂しさを綴った。
誰にも言えなかったこと。
誰にも聞いてもらえなかったこと。
悲しかったこと。
悔しかったこと。
寂しかったこと。
全部、全部。
この日記帳だけが、わたしの味方だった。
――そして。
日記帳の裏表紙に着いていた一枚の銀行カード、
ここから始まる大逆転劇。
(ふふふ! はは!
わたし、もしかしたら本当にヒロインなのかも
しれないわね!)
(えっ? 好きな人?婚約者?
残念ながらいないわ)
(あ……そうね。
テンプレである婚約破棄も略奪騒動もないわね。
恋愛小説のヒロインにはなれないわね……)




