表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/23

018_行商人は余計な物を持ってくる

 ラウルは、いつもの席に座った。

 完全に常連の動きだった。


「茶は自腹だぞ」

「もちろんです」

「で、何が分かった」

「祭りの鈴は、危険な遺物ではありませんでした」

「なら帰れ」

「ただし、少し気になる点が」

「そういうところだぞ、ラウル」


 ラウルは布包みを出した。

 中身は昨日の鈴ではない。小さな金具だった。


 黒ずんだ銀色。

 波のような模様が彫られている。祭りの鈴と、どこか似ていた。


「これは?」

「祭りの日、行商人が持ち込んだ荷物に付いていたものです」

「勝手に調べたのか」

「持ち主から相談されました。宿の三番に泊まっている方です」

「ああ、戸が開かなくなった部屋の客か」


 三番の客は、布を売り歩く行商人だった。名はサイル。物腰は柔らかく、声も静かだ。ただ、荷物が多い。

 行商人というのは、本人より荷物の方が問題を起こすことがある。本人は礼儀正しいのに、持っている箱や布や古道具がやたら面倒、ということは珍しくない。


「その金具がどうした」

「祭りの鈴と似た紋があります」

「偶然じゃないのか」

「そうかもしれません」

「偶然で終わらせろ」

「終わらせたいのですが」

「終わらない顔だな」


 そこへ、本人が食堂へ降りてきた。


 サイルはいつものように丁寧に頭を下げる。丁寧すぎて、こっちが雑にしにくい。


「レイさん、ラウルさん。少しよろしいでしょうか」

「よろしくない、と言いたいところだが、もう金具が出てる」


 サイルは困ったように笑った。


「古い荷物箱の留め具なのですが、昨日から勝手に外れかけるのです」


「箱ごと捨てろ」

「中身が商売道具でして」

「商売道具は強いな。人質として優秀だ」


 サイルが持ってきた小箱は、古い木製だった。

 手のひら二つ分くらいの大きさ。角は丸く削れ、表面には塩が白く残った跡がある。

 海辺で長く使われた箱だろう。


 留め具には、ラウルの持っている金具と同じ波模様があった。


「これ、どこで手に入れた」

「西の港町です。古道具屋で、布をしまうのにちょうどよいと思いまして」

「古道具屋は便利だな。面倒も一緒に売ってくる」

「面倒ですか」

「今のところ、かなり」


 留め具に触れようとして、俺は一度手を止めた。


 かすかに、ざらついた魔力がある。強くはない。だが、祭りの鈴と似た匂いがする。


 壊れているわけではない。閉じ込めている感じでもない。むしろ、どこかへ繋がろうとしている感じがある。


「中身は?」

「古い布です。売り物ではなく、包み布のようなものが一枚」

「開けたのか」

「買った時に一度だけ」

「その時は?」

「何も」

「今は鳴るか?」


 サイルは少し目を伏せた。


「……時々、小さく音がします」

「昨日のうちに言え」

「夜には止まっていたので」

「人間はどうして、止まると安心するんだろうな」


 ラウルが小箱を見ている。


「開けますか」

「開けない」

「では?」

「今日は直さない」


 ラウルが少し意外そうな顔をした。


「なぜです」

「分からん物を祭り疲れの頭で触ると、ろくなことにならない」

「それは正しい判断です」

「珍しく褒められたな」

「いつも判断は評価しています」

「言い方が役所っぽいな」


 サイルには、小箱を閉じたままにするよう言った。


「開けるなよ」

「分かりました」

「本当に分かってる人は、古道具屋で変な箱を買わないんだがな」


 サイルはまた困ったように笑った。


「申し訳ありません」

「謝るほどじゃない。買う気持ちは少し分かる。古い箱は、なんか便利そうに見えるからな」

「そうなんです」

「そこで同意すると、俺の説教が弱くなる」


 サイルは小箱を置いて部屋へ戻った。


 ラウルは茶を飲む。俺も茶を飲む。休み明けには、ちょうど悪い話だった。


 祭りの鈴。

 波模様の金具。

 西の港町の古道具屋。

 音のする小箱。


 大きな事件ではない。

 だが、面倒は小さいうちほど足が速い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ