018_行商人は余計な物を持ってくる
ラウルは、いつもの席に座った。
完全に常連の動きだった。
「茶は自腹だぞ」
「もちろんです」
「で、何が分かった」
「祭りの鈴は、危険な遺物ではありませんでした」
「なら帰れ」
「ただし、少し気になる点が」
「そういうところだぞ、ラウル」
ラウルは布包みを出した。
中身は昨日の鈴ではない。小さな金具だった。
黒ずんだ銀色。
波のような模様が彫られている。祭りの鈴と、どこか似ていた。
「これは?」
「祭りの日、行商人が持ち込んだ荷物に付いていたものです」
「勝手に調べたのか」
「持ち主から相談されました。宿の三番に泊まっている方です」
「ああ、戸が開かなくなった部屋の客か」
三番の客は、布を売り歩く行商人だった。名はサイル。物腰は柔らかく、声も静かだ。ただ、荷物が多い。
行商人というのは、本人より荷物の方が問題を起こすことがある。本人は礼儀正しいのに、持っている箱や布や古道具がやたら面倒、ということは珍しくない。
「その金具がどうした」
「祭りの鈴と似た紋があります」
「偶然じゃないのか」
「そうかもしれません」
「偶然で終わらせろ」
「終わらせたいのですが」
「終わらない顔だな」
そこへ、本人が食堂へ降りてきた。
サイルはいつものように丁寧に頭を下げる。丁寧すぎて、こっちが雑にしにくい。
「レイさん、ラウルさん。少しよろしいでしょうか」
「よろしくない、と言いたいところだが、もう金具が出てる」
サイルは困ったように笑った。
「古い荷物箱の留め具なのですが、昨日から勝手に外れかけるのです」
「箱ごと捨てろ」
「中身が商売道具でして」
「商売道具は強いな。人質として優秀だ」
サイルが持ってきた小箱は、古い木製だった。
手のひら二つ分くらいの大きさ。角は丸く削れ、表面には塩が白く残った跡がある。
海辺で長く使われた箱だろう。
留め具には、ラウルの持っている金具と同じ波模様があった。
「これ、どこで手に入れた」
「西の港町です。古道具屋で、布をしまうのにちょうどよいと思いまして」
「古道具屋は便利だな。面倒も一緒に売ってくる」
「面倒ですか」
「今のところ、かなり」
留め具に触れようとして、俺は一度手を止めた。
かすかに、ざらついた魔力がある。強くはない。だが、祭りの鈴と似た匂いがする。
壊れているわけではない。閉じ込めている感じでもない。むしろ、どこかへ繋がろうとしている感じがある。
「中身は?」
「古い布です。売り物ではなく、包み布のようなものが一枚」
「開けたのか」
「買った時に一度だけ」
「その時は?」
「何も」
「今は鳴るか?」
サイルは少し目を伏せた。
「……時々、小さく音がします」
「昨日のうちに言え」
「夜には止まっていたので」
「人間はどうして、止まると安心するんだろうな」
ラウルが小箱を見ている。
「開けますか」
「開けない」
「では?」
「今日は直さない」
ラウルが少し意外そうな顔をした。
「なぜです」
「分からん物を祭り疲れの頭で触ると、ろくなことにならない」
「それは正しい判断です」
「珍しく褒められたな」
「いつも判断は評価しています」
「言い方が役所っぽいな」
サイルには、小箱を閉じたままにするよう言った。
「開けるなよ」
「分かりました」
「本当に分かってる人は、古道具屋で変な箱を買わないんだがな」
サイルはまた困ったように笑った。
「申し訳ありません」
「謝るほどじゃない。買う気持ちは少し分かる。古い箱は、なんか便利そうに見えるからな」
「そうなんです」
「そこで同意すると、俺の説教が弱くなる」
サイルは小箱を置いて部屋へ戻った。
ラウルは茶を飲む。俺も茶を飲む。休み明けには、ちょうど悪い話だった。
祭りの鈴。
波模様の金具。
西の港町の古道具屋。
音のする小箱。
大きな事件ではない。
だが、面倒は小さいうちほど足が速い。




