「拓海の判決」
事件から半年後 午後1時〜午後5時
判決の日、法廷は満席だった。
早瀬は傍聴席の端に座った。初公判と同じ席だった。隣を見た。見知らぬ顔の傍聴人が並んでいた。その中に、一人だけ見覚えのある顔があった。
水野アカリだった。
早瀬から三席離れた場所に座っていた。黒いコートを着ていた。背筋が伸びていた。早瀬と目が合った。アカリは小さく頷いた。早瀬も頷いた。それだけだった。
拓海が入廷した。
半年前より、少し顔が丸くなっていた。拘置所での生活で、規則正しく食事を取っていたのかもしれなかった。目は変わらなかった。澄んでいた。
裁判長が入廷した。全員が起立した。着席した。
「主文」と裁判長が言った。
法廷が静まった。
「被告人を懲役四年に処する」
傍聴席がざわめいた。一秒だけざわめいて、また静まった。
早瀬は拓海を見た。
拓海は動かなかった。表情が変わらなかった。判決を聞いた人間の顔ではなく、予測していた数字が確認された人間の顔だった。
裁判長が量刑の理由を読み上げた。
計画的犯行であること。AIを使った高度な技術的手口であること。柏木真司の死に間接的に関与したこと。しかし全面的に起訴事実を認め、反省の姿勢を示したこと。被害者の一人である久我山誠一郎が厳罰を求めなかったこと。それらが考慮された。
——拓海は判決を聞きながら、母の顔を思い出していた。
四年。四年間、刑務所に入る。
長いとは思わなかった。短いとも思わなかった。ただ、四年という時間の重さを測ろうとしていた。母が死んでから六年が経っていた。自分が計画を立てて実行するまでに六年かかった。四年は、その三分の二だった。
証言は届いたのか。
その問いに、まだ答えは出なかった。しかし今日、法廷で自分の言葉が記録された。母の話が、記録された。水野アカリの話が、記録された。柏木真司の名前が、記録された。
記録は残る。
それだけが、確かだった。
——アカリは判決を聞いた後、しばらく動けなかった。
懲役四年。拓海が四年間、刑務所に入る。
自分は執行猶予で外にいる。拓海は中に入る。その非対称が、アカリには奇妙に感じられた。自分が刺した。拓海は計画した。どちらが重いのか。法律が出した答えは、拓海の方が重いということだった。
アカリにはそれが正しいのかどうか、分からなかった。
分からないまま、受け入れた。
法廷を出た。廊下に出ると、秋の光が窓から入っていた。
早瀬が隣に来た。
「来てたんですね」と早瀬は言った。
「来なければいけない気がしました」とアカリは答えた。
「これからどうしますか」と早瀬は聞いた。
「NPOで働くことにしました」とアカリは言った。「来月から」
早瀬は頷いた。
「そうですか」と言った。それだけだった。しかしその「そうですか」の中に、何かが入っていた気がした。アカリにはそれが何かは分からなかった。しかしあたたかいものだと思った。
廊下の窓から、秋の空が見えた。
高く、青かった。
ふたりはしばらく、その空を見ていた。




