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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「久我山の追跡」

14日目 ホテルの部屋(回想:三週間前〜) 

スマートフォンを置いた。

久我山がもうすぐチェックインする。それまでの時間を、アカリは回想の中で過ごした。三週間分の調査を、頭の中で辿った。

始まりは久我山のSNSだった。

実名アカウントではなかった。しかし業界内での繋がりを見ていくうちに、それらしいアカウントが浮かんだ。投稿の内容、使う言葉、時々写る背景。断片を集めると、久我山誠一郎という人間の輪郭が現れた。

週に三回、同じジムに通っていた。

行きつけの飲食店が二軒あった。どちらも会社の近くだった。月に一度、出張があった。行き先は大阪と福岡が多かった。

アカリは地図アプリを開き、久我山の動線を記録した。

自宅の場所は特定できなかった。しかし職場と、よく使う飲食店と、ジムの位置は分かった。出張のスケジュールは、業界紙の取材記事と、久我山が登壇したセミナーの告知から割り出した。

企業のプレスリリースも丁寧に読んだ。

久我山が関わったプロジェクトの発表。取引先との提携発表。それらに久我山の名前が出るたびに、アカリは読み込んだ。どの時期にどのプロジェクトを抱えているか。出張が多い時期はいつか。

二週間で、久我山の行動パターンが見えてきた。

月末に出張が集中する。大阪の取引先との打ち合わせが月一回。福岡のクライアントへの訪問が隔月。そして今月、東京での会食の翌日に一泊する習慣があることが、過去のSNS投稿の分析から分かった。

ホテルを特定したのは、一週間前だった。

久我山が過去に投稿した写真の背景に、特定のホテルのロビーが写っていた。同じホテルを三回使っていた。出張の時は同じ宿を使う傾向があると、アカリは判断した。

そのホテルに電話をかけた。

「久我山という名前でご予約が入っているか確認したい」とは言わなかった。そんな情報は教えてもらえない。代わりに、今夜の空き室を確認した。空いていた。アカリは自分の部屋を予約した。

賭けだった。

久我山が来なければ、すべてが無駄になる。しかし来た時のために、準備した。

三日前、包丁を買った。

昨日、久我山のSNSに「来週の出張、憂鬱だな」という投稿があった。来週ではなく今週だった。日付を見間違えたのか、意図的にずらしたのか分からなかった。しかし今日の17時過ぎに「出張先に到着」という投稿が出た。

来た。

アカリは立ち上がり、窓の外を見た。

都市の夜景が広がっていた。無数の光が、暗闇の中に散らばっていた。どの光の下にも、人間がいる。それぞれの事情を抱えて、それぞれの夜を生きている。

アカリの事情を知る人間は、この街にほとんどいなかった。

ムギだけが知っている。五年間、ずっと隣にいた。

スマートフォンが鳴った。

番号非通知だった。出なかった。また鳴った。また出なかった。三度目は鳴らなかった。

誰だろうと思った。しかし今夜に限っては、どうでもよかった。

18時を過ぎていた。

久我山がチェックインする時間だった。


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