「証言者は、あなたです」
最後に、一つだけ。
この物語を読み終えたあなたに、伝えたいことがある。
柏木真司は死んだ。
それは変わらない。何があっても、変わらない。彼の七歳だった娘は九歳になった。彼の妻は法廷に立った。彼の名前は記録に残った。しかし彼は戻らなかった。
久我山拓海は服役している。水野アカリはNPOで働いている。早瀬凌は今日も動いている。桑田は防ぐ側で働いている。加奈子は前を向いて歩いている。彩は版画を刷り上げた。
それぞれの時間が、続いている。
しかしこの物語は、彼らだけの話ではなかった。
七万八千件のタグを送った人間たちの話でもあった。スレッドを読んで閉じた人間の話でもあった。「かわいそう」と思って何もしなかった人間の話でもあった。コメント欄に一行打った人間の話でもあった。配信を見ていた四千二百人の話でもあった。
あなたの話でもあった。
証言者とは何か。
裁判において、証言者とは事実を知っている人間のことだ。見た人間、聞いた人間、そこにいた人間のことだ。
あなたはこの物語を読んだ。読んで、知った。柏木が死ぬまでの七日間を知った。アカリの五年間を知った。拓海の憎悪を知った。加奈子の法廷を知った。彩の作文を知った。さやかの「消えたい」という夜を知った。
知った人間は、証言者になる。
証言者には責任がある。知ったことを、どう扱うかという責任がある。
次に炎上が始まった時、あなたはスマートフォンを開く。トレンドを見る。スレッドを読む。その瞬間に、あなたはもう知っている。画面の向こうに人間がいることを。言葉が刃になることを。七万八千分の一がゼロではないことを。
知った上で、あなたは何をするか。
この物語は答えを出さない。答えを出せるのは、あなただけだ。
早瀬凌は今日も書類に向かっている。水野アカリは今日も誰かの声を聞いている。柏木彩は今日も学校に行っている。そしてどこかで、また新しい動画が投稿されようとしている。
その時、あなたはそこにいる。
傍観者として。参加者として。あるいは止める人間として。
どの立場であっても、あなたはもうこの物語の外にいない。
証言者は、あなたです。
あなたが今日、何をするかを、この物語は静かに待っている。




