第10話「伝説のバーベキュー」
日が傾きかけた頃、大地を揺らす激震が走った。
森の木々をへし折り現れたのは、スタンピードの親玉――「ギガント・サイクロプス」だ。
見上げるような巨体。一つ目が禍々しく光る。
その手には、大木を引っこ抜いた棍棒が握られている。
一瞬、歓声が止まり、静寂が訪れた。
あれは、一撃で城壁を粉砕する怪物だ。
いくら肉で強化された兵士たちでも、サイズ差がありすぎる。
「おしまいだ……」
誰かがつぶやいた。
だが、俺の手は止まらなかった。
俺はマジックバッグの奥底に入れていた、キングブルの中で最も希少な部位「シャトーブリアン」を取り出した。
ルルが、俺の足元で低く唸る。
「ガンツ、あれは我が出るしかない」
「待て。腹が減ってるだろ」
俺は肉を焼いた。
他の肉とは違う、繊細かつ高貴な香り。
表面はカリッと、中はとろけるようなロゼ色に。
仕上げに、特製のガーリックバター醤油を一回し。
「食ってから行け。最高の仕事をするなら、最高の燃料が必要だ」
差し出された皿を、ルルは見つめた。
そして、一口で平らげた。
カッ!
まばゆい光が炸裂した。
光の中から現れたのは、今まで見せたことのない姿だった。
ただ巨大になっただけではない。
全身から蒼い炎のようなオーラを放ち、その四肢は鋼のように隆起している。
伝説のフェンリルの力が、極上の食事によって完全に覚醒したのだ。
「美味いッ!!」
天を衝くような咆哮とともに、ルルが跳んだ。
空中で旋回し、その鋭利な爪がサイクロプスの一つ目を襲う。
ズドォォォォン!!
一撃だった。
サイクロプスの巨体が、轟音を立てて崩れ落ちる。
「デザートにしては、筋が多そうだな」
ルルが勝ち誇ったようにサイクロプスの上に降り立つと、兵士たちから割れんばかりの歓声が上がった。
親玉が倒れたことで、魔物たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
勝ったのだ。
「……ふぅ」
俺は火を弱め、額の汗を拭った。
鉄板の上には、まだ焼きかけの肉が残っている。
「おい、まだ終わってないぞ! 祝勝会の準備だ!」
俺が叫ぶと、兵士たちは呆れたように、そして今までで一番の笑顔で応えた。
「応ッ!!」
その夜、ベルグの街の広場で開かれた宴は、歴史に残るものとなった。
山のような魔物の肉が焼かれ、酒が振る舞われ、誰もが腹を抱えて笑い、食らった。
この日以来、毎月29日は恐怖の日ではなく、街を挙げて肉を食らう「ガンツの肉祭り」として定着することになる。




