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Prik Kee Noo  作者: ムトウ
21/23

21.In Bed with her

 晴彦はくつくつ笑いながら、壁際に突っ立ったままの千里を手招きする。

 彼女は拗ねてそっぽをむいてしまったけれど、あまりに晴彦が楽しそうに笑うので、つられて笑い出した。


 近づいてきたところを引き寄せて、

「きゃっ」

 ベッドにさらってしまう。彼女を巻き込んでごろんと横になり、すっぽり抱きしめて、耳元で囁いた。

「好きだよ、チリちゃん」

 ベッドの上、腕の中に彼女。この間の夜と同じ体勢なのだけれど、全然違う。


 柔らかな感触と慕わしい体温。微かな香り。

 密着する体から直接響いてくる、くすぐったそうな照れ笑いは、甘く、優しい。


「ハル」

 彼女は晴彦を見上げ、彼の背中に腕を回しながら見つめてくる。ホッとしたように深々と息を吐いて、感に堪えない声音で告げた。

「すごく、会いたかった」

「なら、さっさと会いに来ちゃえばよかったのに」

「だって。絶対ウザがられてると思って。私、かなりヒドいよね」

「うん。ヒドい目に遭った。好きな女の子がベッドにいるのに、他の男の名前呼んで泣かれるんだぜ。地獄かよ」

「…………ごめん」


「その上、目が覚めたらいないし。放置されたかと思ったら、アポなしで突然現れて」

「ごめんってば…………」


「……だって私にも、自分で自分の気持ちがわかんなくて、混乱しちゃってて。こんなに簡単に気持ちが変わってもいいのかな。ハルのこと好きになってもいいのかな、って」


「すっごい緊張した。いきなり来ちゃって悪かったけど、でも、行っていいか、なんて怖くて聞けなかったの。“今さら何”って、断られると思った。勇気を振り絞って、ようやくここまで来たけど、呼び鈴なかなか押せなくて、ドアの前うろうろしてた。超アヤシいよね」


 晴彦は少し上体を起こし、千里の顔を覗き込む。

「もういいよ。もう全部、どうでもよくなった」

 こっち向いて。

 頬に触れて、細い顎をそっと持ち上げて。

 優しいキスをした。

 あの夜のつたないキスは上書きされて、ほの温かい砂糖水みたいに、柔らかく甘い余韻がしみわたる。


 千里は、猫が体をすりつけるみたいに、晴彦に寄り添ってくっついてくる。

「こうしてるの、安心する」



 ……安心されちゃうのもなんだかな。

 俺、男なんだけど。好きな女の子とベッドにいて、密着されて甘えられて、とても落ち着いていられませんのですけれど。

「チリちゃん」

「…………ん」

 鼻にかかったような、吐息とも声ともつかない反応に、否応なく煽られる。

「俺、がっついていい?」


 オオカミなキスしちゃおうかな、と身を起こそうとして、ぴったりくっついた千里の体がさっきより柔らかく、重みを増していることに気づく。


 まさか。…………寝ちゃっ……てる?


 今まで散々な目にあってきてて、やっと報われるかと思えば、このタイミングでまさかの寝オチ。


「マジかー」

 そういや、よく眠れない、とか言ってたっけ。緊張が解けて、急に眠気がさしたんだろう。

 晴彦の首と肩の間に器用に頭を載せ、すっかり彼を枕にして、すうすうと安心しきった寝息をたてている。



 ……まあ、いいか。

 泣きながら眠ってしまった、あのときとは違う。

 今、千里は晴彦に心を預けている。

 ひたひたと染み入るように、彼女が傍にいる、そのことを実感する。


 千里を起こさないように気をつけながら、毛布を引っ張り上げた。


「……おやすみ、俺のチリちゃん」

 ふわぁ、とあくびをして、彼女を抱きなおす。


 やがてそのまま、晴彦も健やかに眠りに落ちた。




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