22.深夜
千里が目を覚ましたのは深夜だった。
常夜灯の薄い明かりで照らされた、見慣れない部屋。
ここ、どこ?
…………そっか。ハルの部屋だ。
次いで、晴彦の腕の中にすっぽり抱き込まれている自分の状況を認識した。
自分以外の体温に包まれ、シャツの布地越しに彼の腕の感触を感じる。ひょろっと細くみえるけど、意外としっかりしてて。やっぱり男の人なんだなあ。と、実感する。
静かな呼吸につれて、ゆるく胸が上下している。間近に、彼の寝顔。睫毛とか頬骨あたりのほくろとか薄めの唇とか、つい、まじまじと見つめてしまう。なんだか急に照れくさくなった。
…………いま何時だろ?
もぞもぞと頭をもたげる。深夜、3時になるところ。
明日じゃなくて、もう今日の予定、店のシフトは遅番だったっけ。
メイクも落とさないまま寝入ってしまった。それに、昨日は夕食を摂っていないことを思い出し、急に空腹を覚えた。
起こさないように、そっと抜け出そうとして。
「きゃっ」
肩を掴まれ、引き戻された。再び晴彦の腕の中にしっかり抱き込まれ、
「……どこ行くの?」
もそもそと寝ぼけたような声音で問いただされる。
「えっと……、ちょっと、コンビニ行こうかな、って」
「……何言ってんの。ダメだよ」
半眠り状態というか、今にも眠り込んでしまいそうなボーッとした風情ながら、しっかりがっちり千里を逃がすまい、と布団に引きずり込む。
「あの、ハル? ねえ、離して?」
「やだ」
もそもそ声で返ってくる。
「……目が覚めて、君が、いなくなってたときの俺の気持ち、わかる?」
いやだいやだ、と、千里にしがみついて、ぐりぐり頭を押しつけてくる。
子どもみたい。
彼女は呆れつつも、晴彦の頭を抱え込み、よしよし、と撫でた。
「ちゃんと帰ってくるし。コンビニ行くだけだから」
「ダメ」
……ていうか、何が欲しいの。
ボーッと眠そうな声のまま、尋ねてくる。深夜だから、ということもあるけれど、晴彦は寝起きが悪いタイプらしい。
千里を睡眠の沼に引きずり込むべく、むにゃむにゃと不明瞭な声で甘え、全然離してくれない。
「メイク落としとか化粧水とか、持ってきてないんだもの」
「……あるよ」
「……なんであるの?」
「ハロウィンか、なんか…のときに、ゾンビメイクして…………そのときのやつ」
今にも寝入ってしまいそうに途切れ途切れの寝ぼけ声。
「妹に、クレンジングはちゃんとしろ、とか……言われて……そこそこいいやつ、らしいよ」
「……着替えもないし」
「…俺のを着なよ」
「サイズ合わないよ」
「それがいいんじゃん…………」
「……お腹、すいちゃったの」
「………………」
「昨日、晩ごはん食べてないし。緊張して何も食べらんなかったから」
「…………そっか。……いま、何時?」
千里のウェストにまわした手はそのままに、器用に片腕だけで伸びをする。
「3時くらいか……。確かに、小腹空く時間かもね」
起き上がって、目元をこすり、軽く頭を振った。




