日本人
「カエデさんはどこからこの世界へ?」
ハナコさんの胸の中でスヤスヤと眠る赤ちゃんの頭を、やさしく撫でながらハナコさんが聞いて来た。
「東京都の練馬区でOLしてました。うさぎに話しかけられて返事して、寝て起きたらこの様です。」
プリンセスあたし、シンデレラストーリーを5秒で説明する。素晴らしい説明。
「うさぎ・・・ですか。わたくしがこの世界に来た時とは少し異なるようですね。」
「ハナコさんはうさぎに話しかけられたんじゃないんですか?」
「はい。わたくしは、空襲から逃げきれず死を覚悟した時に、どこからともなく声が聞こえたのです。
別の世界でやり直したくはないか?と。」
「空襲?!」
このタイミングで聞こえてくるはずのない単語にびっくりして、思わず大声を出してしまった。
赤ちゃん起こしちゃうところだった、危ない危ない。
「??珍しいことではないでしょう。わたくしの街の周辺も、たびたび被害にあっておりましたが。」
「ええ?!あたしのいた日本とは違う日本なのかしら?」
「わたくし、以前は広島の漁港で暮らしていました。」
「ん~?やっぱり同じなのかな。わかんない。いずれにせよ、コンビニからの帰り道で飛ばされてきたあたしとは大違いだ。」
「すみません、カエデさん。そのコンビニというのは?」
ハナコさんが不思議そうにこっちを見ている。
「コンビニは、コンビニエンスストアって言って食べ物とか雑貨とかが売ってる全国各地にあるお店・・・かな。」
「ああ!よろず屋のことですね。わかりました。」
「よろず屋って。ハナコさん、おばあちゃんじゃないんだから。」
思わず笑ってしまいそうになるのをぐっと我慢する。
「あの~、お二方。話に割って入って申し訳ないんですが。」
ラムさんがそっと手を挙げて続ける。
「もしかしてお二人のいた時間が異なっているのでは?」
「え?」
「わたくしは昭和20年の夏でした。ごめんなさい、何月何日だったかまではもう・・・。」
「あたしは平成30年の4月13日から4月14日にかけてのどこかだったから・・・。」
「平成、聞いたことない年号ですね・・・。」
「そういうことかーーー!」
ええ、ハナコさんって戦時中の人なの??
日本人だから勝手に同じ境遇だと思ってたけど、全然違うじゃん。むしろほぼ別世界の人じゃん。
・・・
支援センターからの帰り道、今日の話の内容を振り返りながら歩いた。
ハナコさんは日本人だけど戦時中の人。
空襲に遭い危ないところを、何者かによって危機一髪カムニアに異世界転移してきた。
こっちに来てからしばらくは、ハナコさんも日本に戻れる方法を人に聞いて探したが、どうもなさそう。
ただもしかしたらドリフターが入れない情報庫には、何か手がかりがあるのかも知れない。
ラムさんもそれには同意。
ハナコさんの場合、戻ったとしても再度空襲に遭い命を落とす危険もあった。
だからここカムニアで第二の人生を歩むことを決め、
戻る方法を探しているときに知り合った今の旦那さんと結婚し、子宝に恵まれた。
名前は幸ちゃん。その感じの通り幸せになってほしいという思いをこめて名付けたそうだ。
うんうん。良い名前だ。
・・・ふぅ。今度情報庫行ってみようかな。




