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異形の冒険者  作者: まる
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裏の事情

【世界編 裏の事情】


ウォックと、ズウェイトがランクDになったお祝いをしようと、セッチが言いだした。


「いいえ、私たちには・・」

「・・勿体ないです」

「私たちがやりたいんです。あなた達は喜んで参加すれば良いんです」


遠慮する二人を、ウハーがフォローする。


「それならば、此処でやりたいのだが?」

「家で? 何でわざわざ?」

「ちょっと・・な」

「ふーむ?」


アザゼルが珍しく自分の意見に固辞していた。


ウハーは気を遣って、店よりもウォックとズウェイトが楽しめるとの事と思っていた。




その言い出しっぺであるアザゼルが、お祝いの席にまだ着いていない。


「アザゼルさんは?」

「ちょっと出かけると言って・・」

「・・まだ戻っていませんです」

「家でやりたいとの言い出しっぺが、当人が不在とはどういう事です?」


年上二人がブーブーと文句を言い、年下二人が宥めると言う情けない構図である。


しばらくして、アザゼルが戻ってくると、早速やり玉に挙げられる。


「何でアザゼルさんが遅れるの?」

「自分で家が良いと言っていた人が、遅れると言う性根は理解に苦しみます」

「すまん」

「あのー、そろそろ・・」

「・・始めませんか?」


ウォックとズウェイトの言葉に、一旦怒りの鉾を収めて乾杯をする。




「まったく、一体何処の行っていたのよ?」

「折角のお祝いに遅れてまで」


いざ宴が始まれば、お祝いの席に遅れたアザゼルを再び責め始める。


「うむ、闇ギルドに行っていた」


ブパァファー!


四人がそれぞれ口にしていた飲み物を噴き出す。


「や、や、や、闇ギルド!?」

「い、い、一体、何を考えて!?」


闇ギルド。非公式のギルドで、依頼があれば暗殺、強奪、放火、人さらい何でもござれ。

普通の犯罪者との違いは、あくまでも依頼が無ければ動かない事である。

善も悪も、真も嘘も関係ない、依頼を果たすために、常に技量を高めている。

捕まらないのは、当然証拠を残すような真似はしないから。


そして・・ 力のない者が、復讐を依頼する方法の一つでもある。


年下の二人、他種族でさえ知っていると言う闇なのに、表立っている異色のギルド・・


「あっ、間違えた」

「間違えた?」

「裏ギルドだ」


びきっ


「ア・ザ・ゼ・ルさん。驚かせないで下さいね?」


ウハーがとびっきりの怒気のオーラを纏った笑顔を見せる。

アザゼルには全く効果を及ぼしているようには見えない。


「裏ギルドって、何?」

「「(コクコク)」」


セッチとウォックとズウェイトが、ウハーに裏ギルドに尋ねる。


「どのギルドでも、表と裏の顔があります」

「例えば?」

「冒険者ギルドは、受けた依頼を早急に、必ず達成が売りとなっています」

「えっ!? 可能なの? 噂じゃあ・・」

「ギルドメンバー逃亡説ですか?」

「う、うん。まあ・・そう」

「事実ですね」


職にあぶれた者たちのセーフティネットが、冒険者ギルドである。

人が嫌がる仕事から、協会の未達成依頼まで、残された依頼全般を取り扱う。


依頼料に仕事が見合ってないとか、協会の方の仕事が良いとかでギルドに来なくなる。


「じゃあ、どうやって依頼を達成させているの?」

「そこで表と裏の顔があるのですよ」

「へぇ!? どう言う事?」

「冒険者ギルドの表の顔は、セーフティネットです。裏の顔は、ギルド職員が総出で依頼を達成しています」


衝撃の事実・・。世の中には知らなくても良い事がある事を理解させる。


「えーっと、あの、その・・、頑張って?」

「ありがとうございます」


故にアザゼルの様な人材は、冒険者ギルドにとって貴重で希少な存在だ。


「アザゼル様は、どのギルドの・・」

「・・裏に行かれたのですか?」

「そうね。当然、冒険者ギルドの裏なんって意味がないでしょうし」

「もしそうなら、私が分からないはずありませんし」


4人の視線が、アザゼルに注がれる。


「諜報ギルドだ」

「・・諜報? しかも裏って、何を調べたの?」


諜報ギルドは、ありとあらゆる情報が売り買いされる。

命にかかわる様な情報は、裏で取引される。


「無論、他種族との取引についてだ」


その場に居た全員の雰囲気が変わる。

諜報ギルドの裏の情報は、命の保証せずが暗黙のルールだ。


「私たちの預かり知らぬ所で、とんでもない事を調べてたのね」

「うむ、非常に手間と時間がかかった」


セッチの嫌味も何のその、全く気付かずスル―する。


「お金もかかったのではありませんか?」

「うむ、非常に喜ばしい事だった」


ウハーの問いにも、斜め上の回答をしてくる。


「成果は・・、有ったのかしら?」


やり場のない怒りをもたらす回答に頬を引くつかせてセッチが問いかける。


「僅かではあるが」


そう前置きすると、裏諜報ギルドで仕入れた情報を聞かせる。






最初は、セッチが持っていたドワーフに関する情報からだった。


「第一のドワーフとの取引だが」

「信憑性が一番高いやつね」

「概ね、噂通りだ」

「やっぱり・・ね。どんな感じ?」

「山脈で大軍の侵攻は厳しく、坑道は入り組んでいて迷いやすい上に暗い」

「で、大敗を喫したと?」


この状況下で、火と土に愛されたドワーフ族が負ける要素がない。


「隠してはいるが間違いないようだ。ドワーフ族からアイテムを、人間側から酒や食料で取引がされている」

「どうして酒なのかしら?」

「ドワーフ族は無類の酒好きらしい」

「そうなんだ・・」

「上層の人間は取引としているが、下層の人間には戦利品として伝わっている」

「バカバカしい」


もう人間の愚かさに、呆れるばかりである。


100%負けているのを隠し、自分たちの欲を満たそうとしているのが見え見えである。

当然、ドワーフ族の奴隷など居るはずもない。




「ドワーフ族は終わりだ。続いて、獣人族について」


ウォックの身体がピクリとする。


「獣人族は一枚岩ではない」

「そうなの? 強い者が王となるんじゃなかったけ?」

「草原が、人間の街道によって分断されている事が大きい」

「ふーん、たかが道でも影響は有るんだ」


街道と入っても、それほど広い訳でも、常に軍隊が行きかっている訳でも無い。

獣人側の方で、軍隊を警戒をし過ぎて分断されたと考えられる。


「王国と言うよりも、部族や群として成立している様だ」

「面白いわね。それで?」

「部族同士の争いに、人間を介入させる部族があるらしい」

「「「なっ!?」」」


これには全員が驚きの声を上げる。

自分たちの部族を優位にするために、人間に同族を売るのだから。


「ただ部族のボスが頻繁に変わるため、どこが人間と手を組んだ部族か分からない」

「もしかすると・・、全部の可能性もあるわね」


獣人族と人間。どちらが利用されているのだろうか?


「も、もしかして・・ウォックちゃんて?」


セッチは自分の考えが、悪魔の所業に行きつく。


「人間は身体能力が高い獣人族の奴隷は、メリットが高いと考えている」

「ま、待って!? 獣人族は死を選ぶように教えられているわよ?」

「子供なら?」


それが人間側が、獣人族に手を貸す理由・・。公然とした人身売買なのだ。


「・・随分な事してくれるじゃない」


話を聞いていたセッチが、唾棄するかの様に言う。




重苦しい雰囲気の中、ウハーがアザゼルに尋ねる。


「これで終わりですか?」

「もう一つ。エルフ族について」


今度は、ズウェイトの身体がビクリと反応する。


「どんな事よ?」

「エルフ族は西の大森林を守るため、人間と獣人族と争っている」

「うわっ! 最悪じゃない」


エルフ族は森の番人と呼ばれる程、森を愛し、森から出てくる事は無い。

これは長寿のため、子を成し難く、種族全体として少数である事も起因する。


「森を獣人族と分かち合っていれば、状況は変わっていただろう」

「当然よね・・」


草原側の森を明け渡していれば、人間と戦うのは獣人族となっただろう。


「じゃあ、ズウェイトちゃんが奴隷なった理由も?」


獣人族と同じと言う、最悪のシナリオが各々の頭に浮かぶ。


「それは不明だ?」

「・・不明? どう言う事?」

「エルフ族は子を成し難いため、種族全体としての結束が固い」

「ふむふむ」

「子の誕生は、種族全体の喜びでもある。捕虜や奴隷は、どの様な手段を講じても取り返すだろう。

種として命を軽んじるようには教えられていないようだ」

「えっ!?そうなの? じゃあ何で? って、だから不明なのか」


セッチは、他の種族全てが捕虜や奴隷は死を選ぶと思っていた。

考えてみれば種族ごとの問題は違うのだから、当然と言えば当然である。


「はぁ・・、これは大変な事になりそうねぇ」


少なくとも人間は、全種族から良い目では見られていない。


話し合いに持っていけるかどうかさえ怪しい。




話を聞いた四人に、暗い分いい気が漂う中アザゼルは口を開く。


「最後に」

「えぇっ!? まだあるの? あと一つって言わなかった」

「情報としてと言う事だ。魔族については、一切情報が入らない」

「魔族ねぇ・・」


魔族が住むという地域の前には、南の大砂漠、別名死の砂漠が立ちふさがる。

未だかつて、魔族に会って死の砂漠から戻ってきた者は・・、居ない。


「まあ、仕方ないわよ」


セッチが慰めるが、アザゼルは魔族の友の事を思い出していた。

彼の故郷の事を何も聞かなかった。前人未到の地の果てにあるとは知らなかったから。




一旦この話を終わりにして、ウォックとズウェイトのランクDのお祝いをきちんとする。






翌日、ウハーを仕事に送り出すと、4人で今後の計画を立てる事にする。


「さて、これからについての話し合いだけど」

「「はい」」


セッチの声に、ウォックとズウェイトが答える。


「最初に、東の町へ行きたいのだが」


珍しくアザゼルから提案してくる。


「へぇー、ドワーフから当たるの? 何か特別な理由でも?」


当てずっぽうでは、人間と接点を持つドワーフ族と永遠に出会う事は出来ない。


「情報には続きがある」

「終わりって言ってたわよね? 隠したかったの? ウハーさんに?」

「いや、忘れていた」

「・・あっ、そう」


裏の諜報ギルドの情報は形に残さないように口伝である。

一度きりしか聞かない情報を、一度で覚えるのだから、多少の抜けは仕方がない。


「どんな情報なのかしら?」

「酒を作るには、水が欠かせないらしい」

「ふーん、それで?」

「北の町から、東の町の方・・、更には東の山脈に運ばれる大量の荷物がある」

「なっ!?」


セッチは驚きの声を上げる。


大陸の北側は水が豊かな地方で、酒造りには適している。

その北の町から、大量の荷物と言えば、間違いなく酒だろう。


「その荷物の行き先の村はとても小さく、その大量の荷物をどうやって消費しているか分からないらしい」


荷物は酒で、村人が一生かかっても飲みきれない量が運び込まれる。


「更にその荷物が向かう場所があると言う訳ね」

「その先は不明だ」


荷物を追うだけで良いのだから、普通ならここから先の情報も入手できるだろう。


諜報ギルドは、あくまでも情報の売り買いのみ。

広大な大陸全土を網羅するには人手が足りないから。


ギルドの手となり足となり、目となり耳となる情報の売人の存在がある。

情報が無いと言う事は、情報の売人が何処かで消えた事を意味する。


「もう、止めた方が良いのでは?」

「そうですそうです」


流石にウォックとズウェイトが口を挟む。自分たちのせいで他の誰かが傷つく事になる。


「あっ、私? 私は民俗学の研究があるから、勝手にやるわよ?」


全く二人には関係ないと言わんばかりに宣言すると、アザゼルを見る。


「ん? 約束は守らねばな」


この中でアザゼルの言動が、一番不可解であった。


約束とは言え、奴隷のためにここまでする必要も、理由も無い。

事がここまで大きくなってしまったら、引いたとしても誰も文句を言わない。


セッチもウォックもズウェイトも。


しかし彼女達は知らない。


アザゼルの罪を・・。

償いのために、魔族との友と交わした約束を。




ふと、アザゼルが良い事を思いついたと言わんばかりに提案する。


「考えてみれば、ウォック殿もズウェイト殿も一緒に旅する必要はないのでは?」

「・・えっ!?」

「そりゃそうよね。二人ともそうしなさい」

「・・はぁ!?」


いやいやいやいや、おかしい、絶対おかしい。


自分たちを奴隷から解放する旅が危険だからと、自分たちを置いて行くと言うのは如何な物だろうか?


「アザゼル様、セッチ様。何を仰っているのですか?」

「二人とも良くお聞きなさい」

「えっ!?」

「私たちは、貴女たちの命が最優先なの。正直あなた達を解放は二の次、三の次よ。危険な目に合せるつもりはないわ」


最初の目的は揺るがない。危険なら奴隷の状態でも、この町で暮らさせる。


「多分アザゼルさんも、危険だから自分一人で調べたはずよ」


アザゼルは実際そこまで深く考えた訳ではなく、ちょっと自分でも調べようかなぁー程度だったので、思わず訂正しようとする。


「いや、そこまでは考えて・・」

「あなた達のランクアップも、町で暮らしやすくするためだった訳で」


余計な事を言いそうになるアザゼルの言葉に被せて、二人に話を続けて行く。


「あなた達を受け入れてくれそうなら、一度迎えに行くから・・ね?」


二人は愕然とする。自分たちの預かり知らない所で話が進んでいく。


「あのー、私・・付いて行きます」

「私も・・はい」


恐る恐る自分たちの意見を、セッチに告げる。

二人を真剣な表情で、見つめ返す。


「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん。旅に出るには、まだ時間はあります。ゆっくり考えなさい」

「「・・はい」」


ウォックとズウェイトは、セッチの愛するものを守ろうとする眼差しに、ただそう答えるしか出来なかった。





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