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異形の冒険者  作者: まる
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表の事情

【世界編 表の事情】


アザゼルとウォックとズウェイトは、恐ろしい物を見てしまう。


役場に到着すると、颯爽とセッチが窓口へと向かい、自分の身分証明書を提示する。


「私は他種族について研究しております。縁あって、獣人族とエルフ族の奴隷を手に入れましたので、今後についてご相談したく」


変な学者じゃなくて、普通のちゃんとした学者がそこには居た。


「例えば、どの様な事でしょうか?」

「町、村、旅などの安全性についてなど」

「畏まりました。では地域安全対策課へ」


窓口にて部屋の場所を教えてもらうが、呆然としている三人を不思議そうに見る。


「何やってるの? 行くわよ?」

「「・・はい」」

「・・・うむ」


先程と同じ様に先陣を切って、さっさと行ってしまう、


「さっきとは別人の様・・」

「(コクコク)」

「あれもセッチ殿の一面なのだろう・・」


セッチの後姿を見ながら、本人が聞いたら怒りそうな失礼な事を呟く。




四人で教えられた場所の職員に声をかけ、窓口と同様の説明をする。


「町の中では、奴隷は所有物として認定されており、誰でも害すれば罰せられます」

「では町の外へ出る場合は、如何でしょうか?」

「日々国の軍隊が、我々人間の領土を守り、取り戻すべく戦っております」

「その様ですね」


正直な所四人とも、この町に来るまで、一度たりとも軍隊と遭遇した事は無いが。


「とは言え、広い領土を守るのには限界があり、卑劣な他種族によって、罪なき人々が襲われ、金品を奪われ、挙句の果てには殺される事が多々あります」


奴隷とは言え、他種族を連れている者に言うべき言葉だろうか?


「他種族を連れていれば?」

「当然取り返すために、狙われる率は高まるでしょう」

「そうですか・・」


取り返す? こちらの情報では、裏切り者として狙われると思っている。


「村の方は如何でしょうか?」

「うむーぅ、地域ごとによって差があるとしか申し上げられません。その村に行く前に、付近の町や村で聞いた方が良いでしょう」


町としても、村々一つ一つの情報を把握する事は難しい。


地方に行けばいくほど、法律の効力が多少歪められている場合がある。

国としても、地域の慣習までとやかく言う事は少ない。


「では砦は如何でしょうか?」

「砦には近づかない事をお勧めします」


西の町より西には砦があり、その先にはエルフの住む広大な森がある。


「何故でしょうか? 町と同じ法律が適用されていますよね?」

「砦も法律が遵守されますが、軍規では他種族を殺す様に命じられています」

「矛盾がありませんか?」

「ですから、近づかない様にと申し上げています」


戦争状態にある以上、法律か軍規かと言われれば、軍属には軍規が優先される可能性が強いと言う事か。


「そうですか、仕方ありませんね。では、最後にもう一つお聞きしたいのですが?」


職員の言葉を信じて、残念そうに次の・・


「何でしょうか?」


・・簡単に引き下がった事に油断した瞬間に、最後にして最大の爆弾をぶち込む。


「ドワーフ族との武器や防具、アクセサリーの取引について」

「・・へぇ!?」

「「「えっ!?」」」


ガタッ


アザゼルとウォック、ズウェイトは初耳の事に驚く。

職員の遥か後ろの方でふんぞり返っていた、偉そうな職員も、驚き立ち上がっていた。


「も、申し訳ありませんが、そのような話しは聞いた事が・・」

「その様な事実はありません」


セッチと職員の間に割って入ってくる、偉そうな職員。


「東の町では、何処かの村がドワーフと取引をして・・」

「その様な事は一切ありません!」


こちらの言葉に被せる様に、強い口調で否定してくる。


「時折、ドワーフ製と思われるアイテムが、オークションに・・」

「先のドワーフとの大戦で、勝利を収めた結果、定期的にアイテムを入手できるのです」

「そう・・ですか、分かりました」


四人は職員に礼を言い、役場を立ち去ると、次の目的地である奴隷ギルドへと向かう。






先ほどと同様に、奴隷ギルドでもセッチが、職員との対応をする。


「王都で訳あって、奴隷を手に入れる事が出来たのよ」

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「奴隷について、正直良く分からないから、詳しく話を聞きたくてね」

「そうですか、畏まりました。確認のため登録証を」


ウォックとズウェイトが、登録証を出す。


「えっ!? 完全登録?」

「何か問題でも?」


職員の驚きを、セッチが指摘する。


「いいえ、問題はありません。ただ、非常に珍しい物でして」

「どう言う事かしら?」

「奴隷は財産ですが、消耗品と考える方が多くいらっしゃいまして・・」

「ふーん、簡易登録しかしないと?」

「そうです」


自分の財力の誇示、戦闘の生きた盾、過酷な労働の代替品・・と言う訳だ。


「その辺は含めないで、説明をお願いできる?」

「分かりました」


職員は奴隷に関する、基本的な事を教えてくれる。




「奴隷にはランクが存在します」

「へぇー」

「捕虜奴隷、犯罪奴隷、借金奴隷の三種類です」

「大体言葉から推察できるけど、どんな違いがあるのかしら?」


ランクと言うよりも、奴隷になった経緯によって分けられている様だ。


「重罪を犯した犯罪者がなる奴隷が、犯罪奴隷で、他の二つとは明らかに違います」

「どんな事かしら」

「犯罪奴隷は、死刑に当たる罪を犯した者で、奴隷からの解放はありません」

「まぁ、仕方ないわよね」


余程の大罪なのであろう。死ぬまで労役刑と言う事なのだろう。


「捕虜奴隷ですが、戦争に敗れた者が一時的に陥った状況です」

「一時的って?」

「本来は身代金を支払う事によって、解放されますが、それは過去の話です」

「過去? 今は無いと言う事かしら?」


もし捕虜奴隷が存在しないなら、ウォックとズウェイトは何に当たるのか?


「いいえ。人間同士の戦争が無くなりましたので、今は他種族だけです」

「他種族も身代金を払えば、解放されると言う事よね?」

「ええ、勿論。ただし・・」

「そっか、他種族は捕まれば死を、って考え方か・・」


他種族の多くは、人間に捕まれば自害せよと言う考え方が存在する。

身代金を要求しても、捕まって生き恥を晒す者は仲間では無いと拒否するのだ。


「例え他種族を奴隷から解放しても、帰る場所も無く、捕まって再び奴隷になるか・・」

「仲間から言われなき暴力を受けて殺されるか・・ね」


解放したくても解放できない状況。それが捕虜奴隷の今の現状。


「もしも解放する場所があって、ひそかに解放して逃がした場合は?」

「病死でも、戦闘で亡くなったでも、逆らって死んだでも。事後報告で結構です」

「なる程」


ギルドとしては管理するだけなので、解放も死も大した違いは無いのかもしれない。


「最後の借金奴隷ですが、先の二つに含まれない全てが、この奴隷となります」

「例えば?」

「家族からの身売り、罪の賠償が払えない者、ギャンブルの借金の形などで奴隷落ちした者たちです」


アザゼルは、ウハーからの言葉を思い出し、顔を歪めてしまう。

仮面で隠された表情に気づかないセッチは、溜息と共に話しを続ける。


「そっか・・」

「大きな違いは、自分の払い戻しが可能と言う事です」


借金奴隷には、必ず証文が存在する。

持ち主によっては、衣食住を賄ってやってチャラだと、ずっと縛りつける者もいる。

逆に、給金を支払ったり、期間を設けたりして、解放させる者もいる。


「自分の払い戻しは、あくまでも持ち主の判断と言う事ね」

「そう言う事になります」


奴隷の制度について簡単な説明を受け終わると、役場とは違う聞き方をする。


「ドワーフ族の奴隷を見かけないんだけど?」

「そう言えば・・、殆ど話を聞きませんね」

「先の大戦でドワーフ族に勝ったって聞いたの。技術力もあって戦闘力もあるからね」


職員も尤もだと頷くが、何故ドワーフ族を見かけないかまでは分からないらしい。






礼を言って奴隷ギルドを出て、自宅に戻ってくる。


「さて、情報を整理しましょうか?」

「その前に聞きたいのだが?」

「ん? 何かしら?」

「ドワーフ族に関してだ」


そう役所と奴隷ギルドでセッチが話を出した、ドワーフ族の事だ。

あの場ではなかなか口を挟む機会が無く、今に至ったのである。


「ああ、割と有名な話ね」

「有名・・なのか?」

「そうね、王家の秘宝から始まって、宝石などの装飾品、武器や防具の名品と言われる殆どの物は、ドワーフの作と言われているわ」

「言われている? 確かではないのか?」

「まあ、私自身見た事ないしね」


アザゼルの言葉に、肩をすくめる。


では彼女は単なる噂話を、確認したかっただけなのだろうか?


「ドワーフ族は火と土に愛された種族で、鍛冶や加工といった技術は人間なんか遠く足元にも及ばない」

「ふむ、きっと素晴らしい技術なのだろうな」

「そんな素晴らしいアイテムが、オークションなんかに出品される事があるのよ」

「役場の職員も言っていたが、戦争の戦利品なのではないのか?」


捕虜奴隷となったドワーフの仲間たちを、自分たちが作ったアイテムを賠償金として支払っているだけでは無いのか?


「そうかもね・・、戦争に勝ったと言うのが事実ならね」

「「・・えっ!?」」

「噂の大元はこっちなのよ」


ウォックとズウェイトが驚く。人間がドワーフとの戦いに負けている?

当然ドワーフの奴隷は居ない・・。それならアイテムだって入手不可のはず・・


「結果として、何らかの取引があって、アイテムを入手しているのではないかと?」

「そう言う事よ」


人間は慾深い存在だ。

優れた技術、素晴らしいアイテムをみすみす見逃すだろうか?

欲しい物を奪う、それが戦争なのだから・・


「他の種族でも、戦争の傍ら取引をしているのではと考えた訳か」

「その通り」

「でも・・、無理があると思います」

「そうです」


話を黙って聞いていた、ウォックとズウェイトが口を挟んでくる。


「何で?」

「エルフ族にも、獣人族にも、ドワーフ族の様に、人間を欲しがる物は生み出せません」

「なぬぅ? そ、それは・・、それじゃあ、単純な領土争いなのかなぁ・・」


取引する材料がなければ、セッチの考え方は成立しない。


「でもでも、二人を解放するための鍵となるはずなのよぉー」


人間と他の種族との接点・・セッチが二人を解放できると踏んだ理由なのだ。

自分の考えを否定され、机に突っ伏して泣き真似をする彼女。


「ならば当初の予定通り、町を巡るべきではないか?」

「それもそうよね。二人のランクアップも出来るし、一石二鳥よね」


コロッと態度を変え、立ち直るセッチに、心配した自分たちの愚かさを呪う二人。


「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん。旅は大変だと思うけど、必ずあなた達を解放する手段を見つけるわ」

「「はい」」


西の町で集められた情報を元に、今後の計画を立てて行く。






アザゼルは話し合いの後、冒険者ギルドへ行って、今後の方針について報告する。


「ウハー殿、少し話がある」

「何でしょうか?」


厄介事? 厄介事じゃないよね? ならお断りよと顔に書いてある。


「ランクアップのために、他の町に行かねばならない」

「それは仕方ありませんね。とうとうランクCを目指されますか」


協会の仕事は、ランクが物を言う。こればかりはギルドとしても仕方がない。


「一つ確認ですが?」

「何だろうか?」

「ウォックちゃんとズウェイトちゃんのランクアップは?」


彼女達も先日、ランクEに上がったばかりだ。

ランクDになるためには、同様に他の町の依頼をこなさなくてはならない。


「勿論、ランクアップさせたい」

「と言う事は、皆さん一緒なのですね?」


彼は自分の事は二の次、三の次にする傾向がある。

今回の旅の目的は自分のランクアップでは無いだろう。


「その通りだ」

「ご武運を」


自分がとやかく言う事は無い。ただ皆の無事を願うだけ。






アザゼルはその足で、自宅に戻らず、再び町役場のハローワークへと赴く。


「少し尋ねたい事があるのだが?」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「情報を売り買いしているギルドは無いか?」

「諜報ギルドですね」


情報は重要だ。必ず売り買いされる場所があると踏んだのである。






四人は、ウォックとズウェイトのランクDを目指して、二つの町を巡る。

どちらの町でも、西の町で得られた情報と大きな差は無かった。


二人への対応や態度は、西の町に始めて来た時と大差ない状況だった。

もし解放に至らない場合は西の町で暮らすべきではと、四人は内心思い始める。




二人がランクDに認定されて、一番喜んだのは装備屋の主人であった。

ダンジョン産の良質な素材が持ち込まれ、その成果が目の前で見れるのだから。


血走った目で、狂ったように高笑いする主人に、種族の壁の厚さを別の意味で痛感する。


いやセッチ自身、同種族であってもこの壁は無理だと思う。




そして次はランクCを目指し、全ての町を巡らなくてはならない。


長い長い旅になる。

四人が西の町を離れる日が、近づきつつあった。






アザゼルは一人で、何軒もの店を回る。

酒屋に、金物屋に、古着屋、肉屋に、パン屋に、本屋など。

その店々には共通事項は無い・・、ある様には見えない。


しかしその店その店で取り決められた符丁を、正しくこなして行く。


この世界の宗教の一つの教会堂に行くと、シスターらしき人が玄関で待っていた。

アザゼルが、それぞれの店で手に入れた物を手渡す。


「どうぞこちらへ」


手渡されたものが間違いない事を確認すると、アザゼルを告解をする部屋に案内する。

壁を隔てた向かい側から、男性の声が聞こえてくる。


「ようこそ、裏諜報ギルドへ」


アザゼルは禁断の領域へ足を踏み入れるために、たった一人で動いたのである。





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