話し合う
【奴隷編 話し合う】
日々の生活の上で、必要な物を一通り揃え終え、全員揃ってのティータイム。
「さて、これからの事を話し合いましょう」
セッチが切り出すと、一人ひとりの顔を見て行く。
「何よりも先に、ウハーさんの事について」
「私は指名依頼を受けただけで、最初から無関係です」
「それで良いわ」
「・・えっ!?」
セッチの言葉に、何かさせられるだろうと考えていたウハーは驚く。
「最初に謝っておくけど、強引に巻き込んだ事はお詫びします」
「・・・」
ウハーに向かって、深々と頭を下げる。
「貴女に何かして貰おうとは考えていません。ただウォックちゃんとズウェイトちゃんを守るため、この家に居ていただければ」
「・・分かりました。仮の専属契約としてお受けします」
「助かるわ。仮とは言え、衣食住はこちらで当然保証します」
「うっ!?」
好きな事をして、好きな家に住み、皆と団欒・・。あれ?理想の結婚生活じゃね・・?
若干状況は違うが、一瞬ウハーの頭にそんな不埒な考えが過ぎる。
「あっ、ゴメン。食事だけは分担でお願い。食費は出すけど。出来れば、まあその・・、教えていただけるとありがたいかなーって。てへ」
「まあ、それ位は当たり前でしょうね」
皆と暮らす以上、家事の分担ぐらいは当然であろうと受け入れる。
ウハーの立場を確認すると、ウォックとズウェイトの事についてである。
「ウハーさんを除く、四人の目標を確認するわね」
「「はい」」
「うむ」
セッチの仕切りで、これからの四人の行動について確認する。
「先ず三人は、ウォックちゃんとズウェイトちゃんの奴隷解放で間違いないわね」
「うむ、その通りだ」
「「・・お願いします」」
「私は民俗学の研究として、全種族に付いて調べたい。あなた達の解放は、研究に大きく影響するので、一緒に行動するわ」
「うむ、承知した」
四人の最終目標を確認した上で、問題点を整理して行く。
「あなた達が奴隷の状況のままの理由は、分かっているわね?」
「「はい、私たちの身の安全が保証できないからです」」
ウォックとズウェイトが、しっかりと答える。
「何よりもウォックちゃんと、ズウェイトちゃんの安全が最優先。むざむざあなた達を死なせるために解放つもりはないわ」
「「分かりました」」
もし死ぬ気なら・・、二人は奴隷として存在していないはずである。
「ウハーさんも、アザゼルさんに必ず解放と言ったみたいだけど、その辺は理解してあげて欲しい」
「そうですね・・。可能な限り解放と言う事で」
「承知した」
ウハーとて、人間とか他種族とかに関わらず、命を軽んじるつもりは全くない。
奴隷から解放して、後はご勝手にでは、あまりにも無責任だし望みもしない。
「では、何からすべきか?」
「この町に急いできた理由にもなっているわ」
「ん? どう言う事だ?」
「先にも言ったけど、多種族は捕まって奴隷になる位なら死を選ぶと言う。あと・・あくまで噂だけど、他種族は奴隷となった仲間を許さないらしいの」
「・・それは」
「そう・・、どちらも死しか残っていない」
セッチと出会った時に、他種族の考え方、価値観の一つとして聞いていた。
ウォックとズウェイトは、物心ついた頃から奴隷だったため、種族ごとの風習や考え方、価値観と言った物を全くと言って良い程知らなかった。
「貴方の拠点でもあるこの町で、普通に暮らせるかどうか試したいの」
「人間社会の中で、溶け込めるかと言う事か?」
「そう。人間の他種族に対する感情が、町によって違うのか? 地域によって違うのか?種族によって違うのか? と言った所をね」
「なる程・・」
「完全登録しているのですから、大丈夫なのでは?」
ウハーが部外者の自分がと思ったのか、少し遠慮しながら聞いて来る。
「依頼を受ける分にはね。でも日々の生活で身分証明書を見せて回るの?」
「それは・・」
「今日の服屋や飲食店の雰囲気を覚えている? 昨日の買い物ではどうだった?」
日用品を買いに町へ出かけた際に、色々と感じる事があった。
物を売らないとか、暴力暴言があった訳ではない。
周囲のは、獣人とエルフ、そして奴隷と言う事で、奇異の目を向けていた。
怒り、嘲り、侮蔑、また容姿への憧れ、憎しみ、慾情・・
「アザゼルさんも、容姿で色々あったと思うけど、それ以上だと思うわ」
「確かにあった」
「異様な容姿とはいえ、まだ人間だから、理解の及ぶ範囲ではあるからね」
「そうなのか?」
「いつの間にか、そう言った視線や雰囲気も無くなったでしょう?」
「そうかも・・しれない」
アザゼルとしては、呪いを気にし過ぎていて、町の人々の変化まで気が回らなかった。
「奴隷であっても、人として暮らさせてあげたい」
「・・そうですね」
ウハーは、セッチの2人に対する思いに賛同する。
「しばらくは普通の生活をして、町の人々の関心や態度の変化を見てみましょう。場合によっては、他の町に映る事も視野に入れる必要があるけど」
「分かった」
その場に居た全員が、セッチの言葉に頷いていた。
「とは言え、いきなり二人っきりにさせたり、いっぺんに色々な事をさせるのは無理があるから、私かアザゼルさん、ときどきウハーさんが必ず付き添う形の方が良いわね」
「その方が良いのだろう」
「あとウォックちゃんとズウェイトちゃんには、料理を覚えてもらうわ」
「ふむふむ」
「料理をするという事は、食材や調味料、調理器具などを買うと言う事」
「そうだな」
「日々、2人が買い物をする事で、町の人たちの反応が変わるか見たいの」
第一印象は重要ではあるが、日々の生活で見直される事は十分に可能なはずだ。
「あと依頼を通して、人々の反応を見るのも大切ね」
「「分かりました」」
ウォックとズウェイトの二人は了承する。
「料理・・、先ずは買い物か」
セッチ、いやアザゼルを除いた全員が、アザゼルの言動に危険な臭いを嗅ぎ取った。
「あと預かってる分で、お金でしばらくは大丈夫だから」
「・・そうなのか」
アザゼルは、日々の生活にはお金が必要だろうと、準備のモーションに入っただけである。
「わざわざ銀行からおろす事もなければ、アイテムの換金なんてもっての外!」
「そうです。ですからマジックバックから手を離して下さい」
セッチとウハーの言葉に、マジックバックに手をやったまま固まっている。
「良い、アザゼルさん?」
「何か?」
「ダンジョンに潜っている人は、私たちだけでは無いのよ?」
「勿論だ」
「でもね、あなたがバンバン売ると、供給が需要を上回って値下がりするの」
「む・・」
「そうなると、アイテムを売って生活する人が困ると思わない?」
「た、確かに・・」
自分の『倉庫』の中身を減らす事ばかりに執着して、他の人の事を考えていなかった。
何故、自分の事しか考えられなかったのか・・、己の愚かさを思い知らされる。
価値観、価値観とお題目のように唱えながら、結局自分が価値観に縛られている証拠だ。
「私たちから、いくらいくら欲しいって言うから・・ね?」
「分かった」
「手持ちが無くなったら銀行、銀行が無くなったらアイテム換金よ?」
「分かった」
「勿論、依頼とか売って欲しいって相談されたら別だからね」
「分かった」
あからさまに落ち込んでいるアザゼルに、言い過ぎたかとちょっと優しく言うセッチ。
ちなみに、何時も迷惑をかけられているウハーは、良い薬だと思っていた。
繰り返し言うが、専属契約はセッチが主、アザゼルが従である。
本来、お金は主が出す物であり、その点を此処にいる誰もが忘れていた。
当面の目標の話が終わると、明日からの生活に付いて話し合う。
「さっきも言った通り、二人はまず日常生活に関しては料理を覚えてちょうだい」
「「はい」」
「買い物に関しては、誰かしらが必ず同伴するわ」
出来る限り危険や無用なトラブルを避けるための措置である。
「次に二人には、生活のために何らかの仕事をしてもらうわ」
「あのー、奴隷なんですから・・」
「当然の事なのでは?」
セッチは奴隷である自分たちに、当たり前の事を言ってくる事に驚く。
「あなた達を、私たちは保護しているのです」
ウォックとズウェイトの発言に、ウハーがすぐさま訂正を入れる。
「仕事をして貰う理由は、私たちと暮らす事になった最悪の時の備え」
「「・・・」」
二人には分かる。自分たちを奴隷では無く家族として受け入れようとしてくれている事に。
「明日、冒険者ギルドへ行って、あなた達の登録をするわよ」
「出来ませんが?」
「そう、出来ません・・・えっ? 何で? どうして?」
ウハーからのあまりの一言に、衝撃を受ける。
「お二人は当ギルド、いいえ、他の全てのギルドに登録する事は出来無いと思われます」
「ちょ、ちょっと、どう言う事よ? 確か協会の依頼は受けられるって・・。えーっと、何だっけ・・、そう、奴隷ギルドの・・職員がそう言ってたわよ」
「その通りです。お二人は、奴隷ギルドに所属しているのです」
「ん?・・・あっ!? そう言う事かぁ」
セッチはウハーから指摘された事に、顔を顰める。
「どう言う事だ?」
話に付いていけないアザゼルが、二人に問いただす。
「正規の規則では無いのですが、複数のギルドに登録する事が出来ません」
「そう言えば以前、協会の職員から斡旋された複数の仕事を同時にはこなせないと」
アザゼルの記憶を、ギルド職員であるウハーが補足する。
「その通りです。細かく説明しますと、質の低下、信頼の問題です」
「複数のギルドに登録すると、その様な事が起こると?」
「では質の低下からお話しすると、あれもこれもとやりたい事に手を出すより、一つの事に専念する方が技術力は上がります」
「概ねそうだろう」
例外はあるだろうが、技術の習得には時間がかかるものだ。
「また複数の事に手を出す事で、今まで持っていた技術力が低下する事が考えられます」
「それもありえる」
勘が鈍るとか、腕が鈍ると言う言葉がある通りである。
「次に信頼の問題ですが、冒険者ギルドと商業ギルドに登録していた場合の例ですが」
「どう言う状況だ?」
「自分でアイテムを入手して、自分で店売りをするような場合です」
「ふむふむ」
「ダンジョンに行っている間に、店を開ける事は出来ません。いつ開くか分からない店には、客はなかなか定着しません」
しかし自分で苦労して入手した者を、自分で売りたいと思う者もいるだろう。
勿論従業員を雇うという手もあるが、店主がいつも不在では色々問題が出てくる。
「それは分かるが・・」
「趣味で出来る人など限られています。ごく少数のためのギルドでは無いのです」
「なる程」
「何か問題があれば、クレームなどの矛先はギルドに向けられます」
ギルドとしては、目を瞑る事が出来ない部分なのだろう。
「勿論、服屋など販売までこなす生産職の場合もあるでしょう」
「そうだ、その場合には・・」
「最後まで聞く!」
懐かしい・・、実に懐かしい一括である。
「そういう場合には、クランやユニオンを設立します」
「クラン? ユニオン?」
「複数の他職種が組んで依頼をこなす形をパーティと言います」
「うむ」
パーティに関しては、頻繁に出てくるので良く知っている。
「仲間が怪我や病気で依頼をこなせない事もあるでしょう。だからと言って見も知らない人やパーティといきなり組むのは、難しい事もあります」
「当然だな」
「常日頃から、気心の知れた人と連絡を取り合えていれば、いざという時や依頼によっては助け合いをする事が出来ます」
「ふむふむ」
「簡単に言えば大きなパーティの、戦闘職主体がクランであり、生産職主体がユニオンとなります」
「素晴らしいアイデアだ」
自分たちの不足を補う形に、アザゼルは感心する。
「先ほど述べた理由や、クランやユニオンと言った相互扶助のシステムがありますので、複数のギルドに登録すると言う考えを持つ事は少ないのです」
「故に明確なルールも無いと?」
「その通りです」
「分かった」
ギルドの事情も理解できるし、不足を補うクランやユニオンと言う組織もある。
ここまで仕組みが出来ているならば、一個人が文句を言うべきではないだろう。
「それで最初に戻るけど、二人は奴隷ギルドに属していると」
「抜けられないのか」
「勿論、解放してあげれば、その時点でギルドから脱退となるわ」
「自分たちの目標でもある訳か」
「そうね・・。でも完全登録しているから、協会の依頼を受けられるのは確かよ」
少なくともウォックとズウェイトの仕事は得られる。
「装備は、明日にでも見に行きましょう」
「「分かりました」」
「・・装備?」
「貴方と一緒なら問題ないかもしれないけど、一応装備はしておくべきよ」
「最低限、自分の身は守れるようにすべきでしょう」
セッチとウハーの言葉は、痣を隠すための装備しかしていないアザゼルには耳が痛いはず。
「・・・ ・・・」
しかし二人の話を全く耳に入れず、視線を泳がせ何かを考えている。
「ちょっと! 聞いてるの?」
「装備に関して、ちょっとした当てがあるのだが」
「へぇ!?」
「そちらを当たってからでも良いか?」
「ま、まあ、当てがあるなら、それに越した事は無いけど・・」
使いきれない程の資産を持っていたとしても、無駄遣いをして良い理由にはならない。
「では、明日ダンジョンに向かおう」
「「「「・・はぁ!? ダンジョン?」」」」
ウハー、セッチ、ウォック、ズウェイトが声を揃える。
「つまりダンジョンから装備を出そうと?」
「その通りだ」
四人は顔を見合わせて溜息を吐く。そこへ行くための装備を買う話なのに・・
「「「「(やっぱり、こいつ馬鹿なんじゃあ?)」」」」
4人は心の中で一致し、アザゼルの説得を諦め、彼のやりたいようにさせる。
翌日、旅に適した服を購入したり、旅に必要な物品を購入したりする。
マジックバックに必要な物を詰め込んで、ダンジョンへと4人へと旅立つ




