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王女の私と魔物の少年

前に同じタイトルでぽつぽつ書いてましたが再出発してみました。


話ごとに視点がコロコロ変わる可能性が高い事を先にお伝えしておきます!





 緑と山々に囲まれた、自然溢れる国シルヴァニア。

 別称、風の国とも呼ばれるこの国は、世にある国々と比べると国と名乗るのもおこがましい程の小さい国らしいが、他国との争いや人種差別とは縁遠く、過去魔物の被害なども数える程しかない、平和で穏やかな国だと言われている。


 そんな国の第二王女という立場にある私の名前は、ミリア・ウィシュルム・シルヴァニア。

 容姿は金髪碧眼に白い翼が特徴と言われるシルヴァニアの姫そのもの。年は10を数えました。好きなものは魔法の授業で、嫌いな物はそれ以外の強要される勉強です。


 そして今は、国を担う者としての知識を養うべく国交学の真っ最中。

 ああ、辛い。考えるよりも体が先に動くタイプの私にとってこういう座学は特に苦手な分野なので、じっとしている我慢力を試されている気がする。

 教える側も私が不真面目な生徒だと承知済みなので、質疑応答は一切無しに本の読み聞かせが主な授業内容になるのだけど……それがまた眠気も誘うのだ。耳に残れば良し的な寸法だそうだけど、たぶん無理じゃないかなあ。

 本来だったらすっぽかしてしまったり、つい寝てしまったりする──誉められたことじゃないのはわかってるけどシルヴァニアの姫だからと大目にみられてる部分があったりしてね──けど、今こうして形だけでも授業を受けているのには理由がある。

 講師の声を聞き流しつつ、私は壁の向こう側に思いを馳せた。そこには今、気になる子がいる時間なのだ。


 私と3つ違いの、年下の男の子。

 その子が城勤めの大人たちに混じって廊下を掃除しているだろう時間だ。

 彼はかなりの物好きさん──いや真面目君なので、今日も真面目に勤しんでいることでしょう。

 年の近い、むしろ年下な彼がそんな感じなので、私も多少はこういう風に取り組む姿勢を見せないと周囲の視線が痛いというか……何よりその子の視線が痛いと言うか。そんなわけで、形だけでも最近は授業を受ける日々となりました。

 授業さえなかったらなあといつも思う。そうしたら好きなだけ彼とずっと一緒に過ごせるのに。王女なんて誰かの上に立つ責任ある立場は誰かに譲りたくて仕方がないこの頃だ。


 その彼の名前はコウという。

 紫の髪に緑の瞳という、ちょっと珍しげな色合いをした少年だ。

 彼はこの国の者ではなく、本来は城勤めの者でもなくてちょっとした成り行きでここにしばらく居ることになったんだけど、何故か今は物のついでで使用人の真似事に首を突っ込んで忙しない日々を過ごしている。


 この城に来たのはまだほんの数日なんだけど……そうとは思えないくらい、すっかりここに馴染んでいる。

 仕事の手際もそうだけど、何より他の城勤めの人たちにも受け入れられててもう立派にここの一員状態だ。子供とはいえ何処の者とも知れぬ者を~なんて反対意見は当日だけだったんじゃないかな。

 今ではそこかしこで声をかけられてはお菓子を恵まれたりするほど可愛がられてるみたい。

 何故それを知っているかと言えば、物がよくこちらに流れてくるからだ。本人は少食な上に食に興味がないらしくて。でもってその量は毎日一個や二個ではすまないのだから可愛がられぶりがわかるというもの。

 でも、仲が良いのはいいことだけど、連れてきたのは私! と声を大にして言いたい。勉強で動けない傍らで他の人がどんどん仲良くなっていってるのがすごく悔しい。


 大体コウもコウだ。

 いくら正体を隠して人の姿をしているとは言え、人と馴れ合いすぎじゃないの──なあんて言ったらまあ、今ここにいることはなかっただろうけど。うーん、複雑。


 今は少年姿な彼だけど、実は人ではない。

 世に言う魔物という存在なのだ。

 魔物、と言うには真面目で良い子過ぎてちょっと断言しにくいんだけどね……。


 コウが魔物というのは、私以外には数人しか知らない秘密事。

 少年姿は年下っぽく私よりちょっと背が低めの、どこにでもいそうな男の子だ。

 元の姿は獣に似た姿をした、でも大きさは見上げる程に巨体で、更に翼もあって空を飛べる魔物さんです。ちなみに毛の色と瞳の色は人姿のそれと同じ色になる。

 魔物姿は迫力──よりかは貫禄という感じ?──満点だけど、子供な人姿に驚いて確認してみればなんと実年齢が私より年下だという事実。


 でも私よりすごくしっかりしてて頼もしいんだよ。

 元が魔物だからなのか育ちの違いか……まあ知らない人にとっては後者にしかとられてないので置いておいて。

 魔物であることを忘れそうになるほどに魔物というイメージから遠くかけ離れた、そこいらの大人よりも真っ当な性格で荒事も好まず人当たりもいいので、正体を知る私や他数人はコウと過ごすのを楽しみにしている節がある。

 私にとっては年も近いしで文句無しだよ。


 更にコウは人姿での生活にも経験があるようで人の中に紛れても全く違和感が無くて、バレる心配もかなり低い。

 まあ、たまーに常識が欠けた面がぽろっと出たり、子供らしからぬ達観した物言いには冷や冷やすることもあるけど……ギャップ萌えとかいうので周囲には大目に見られてるみたいで大事にはならない。平和だよね~。


ゴーン、ゴーン……


 そんな風に思考を飛ばしていれば時を告げる鐘の音が城内に響き渡り、我慢授業の終了だ。

 私はすぐに席を立つと廊下へと飛び出しコウの所へ向かった。コウも今の時間は休憩になるのだ。

 コウが城に来てからというもの、休憩時間──というか時間が空けば毎度通うのが常になっていた。


 咎められないように走らず、でも駆け足に近い早歩きで廊下を行き、階段を駆け上る。

 コウはあまり人が寄り付かない、ひっそりとした場所を好むようで、外なら木陰、或いは花壇など植物の傍を選び、屋内であるなら窓際や出入口付近等がよくいる場所だ。

 外をのびのびと生きてきたコウにとって、室内は狭くて息苦しい檻みたいなものらしく、あまり好きではないらしい。


 今はまだ室内の仕事が終わってないので外庭は除外。となると行き場所は限られて、中庭を望める二階の客室廊下か、城門を臨めるテラスか。

 あとは居住区と練兵場の間の通路にも居たりするけど、大抵は彼用に宛がわれている二階の客室の角部屋前の廊下にいるので、私は今そこを目指している。


 そして予想通りコウはいた。危なげなく手摺りに座り、癖っ毛なのかいつも跳ねてる紫の髪を風に靡かせて、中庭へと視線を向けているようだ。

 普段は木の上とか高い所を好んでのんびりするらしい彼にとって木の枝を思わせる手摺はわりと気に入ったらしく、休憩時間はいつもそんな風。

 でもこういう事は他の人の前では決してしない。

 今の時間は素のコウと居る証明みたいな感じで、他の人たちとの目に見える振舞い方の違いに私はいつもほっとする。


「教えに来てた人、すんごい溜め息ついて帰っていったんだけど…お姫様、また話聞いてなかったんだね?」


 近づいてもなかなか振り向かないなと思ってたけど、やっぱり私が来たのには気づいていたらしい。そう声をかけてきた彼は行儀の悪い姿はそのままに、緑色の瞳をこちらへ向けてきた。


 ここで不満をひとつ。彼は私を名前で呼ばない。

 彼は魔物で元々上下関係身分云々の蚊帳の外なのに、態度だって周囲に合わせて私を王族として扱うこともないのに、なぜか呼称はお姫様なのだ。他の人はさん付けだったりするし、ほんと何故なんだろう。


「コウっていつになったら私を名前で呼んでくれるの?」

「あー……お姫様にお姫様らしさがないからそう呼んでないと忘れそうで? あと、自覚もするべきだと思って」

「えぇっ、そんな理由で?」

「そんな理由って言うけど、いずれは人の上に立つんだからそれらしくってのは大事だと思うよ? そうでなくても人の話はちゃんと聴くべき。毎度毎度あの人の後ろ姿が可哀想すぎるよ。わざわざ教えに来てくれて、お姫様の為になる話をしてくれてるってのに」


 名前に対する抗議が倍以上の小言になって返ってきたよ……。

 コウは終始こんな感じで、本当に真面目君なのだ。こういう気遣いや言動がコウをより魔物だというイメージから遠ざけるんだけど、コウにとって自分が魔物だという自覚はどこにあるんだろうか。

 そうそう。コウの説教と言えば、他の人に言われるよりもなんだかグサグサとくるものがあって、思わず背筋がピンとなっちゃうんだよね。しっかりしなきゃ、って思っちゃうの。説得力みたいなものが違うのかなあ?

 けれどまあ、一時的にしか効かないものもあるみたいだけどね。──苦手なものとか。


「そう言われても、話してる内容が全然頭に入ってこないからどうしようもないと思うのよね。やっぱり私には国を背負って立つなんていうのは向いてないと思うのよ」

「……はぁぁ。なんていうか…あの人もそうだけど、王様、ほんと大変だね」


 とりあえず言い訳をしてみるとコウは深々と溜め息をつき、そんなことを(うめ)く。


 コウはなぜかこの国の王──つまりは私のお父様なんだけれども──とものすごく親しくなってて、下手したらそこいらの臣下の人達よりも(ちかし)い仲にまでなってるかもしれない。

 私の教育での苦労話──ようは愚痴なんだけど──がきっかけで意気投合し、そのまま苦労を共感共有する同士となったようで。


 無論、お父様はコウの正体を知っている。

 まあここにコウを住まわすことを最終的に決めたのはお父様だしね。

 魔物とは思えない性格の良さに、まだ幼いながらもこの近辺の魔物達を凌ぐ実力と、更には違和感のない人としての振る舞いに人の国の知識をも持ち得ている、そんなコウは私と年も近いこともあり奔放な私のお目付け役にはこれ以上ない程の適任だったわけです。

 お父様は政に専念できると喜び、私も年の近い話相手が出来て万々歳。


 魔物が人里で生活、なんてことは本来なら有り得なく、コウにとっては周りも敵だらけ──まあ実力的にも性格的にもそうではなかった気もするけど──で断ってもよかったはずだけど、コウも人社会や物に興味があったようですんなり今に至るのでした。


 ああ、それでもコウは真面目君だから人の国に魔物が入り込むのはどうなのかと渋ってはいたんだよ? 私達の頭は大丈夫か、とも問われましたとも。この国は大丈夫なのかなって民のことまで案じてたっけ。

 そういう所が魔物らしくないと言うか、魔物なのにそんなことを言動で表すコウだから、私達は信用出来る相手として見ているのにね。



ちょいちょい改稿しますが大まかな内容は変わりませんっ。

のんびり更新ですがよろしくお願いします~

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