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第15話 意外な真相 <第1部 完>

「あの日、本当はあの場で『てってれー、実はドッキリでしたー』って言うつもりだったのよ!」


 そう言って、アンズ先生から語られたのは、意外な真相だった。


「実際には、私の分にだけ甲殻類エキスが入ってない料理を食べるつもりだったの!

 それで、私が料理を食べた後、倒れたふりをしたら、スタッフが、『この料理、甲殻類エキスが入っている!』って騒ぐ予定で。

 みんなが驚いた後で、『ドッキリ』だって言って、『私が食べた料理にだけ甲殻類エキスが入ってませんでした~!』ってバラすつもりだったの!」

と、アンズ先生があの日、本当に行われるはずだったことを教えてくれた。


「でも、手違いで甲殻類エキスが入っている料理が、私のところに来ちゃって。

 食べ始めて、すぐに『ヤバい』って気づいたんだけど、料理がおいしくて、つい完食しちゃったら。

 予想より気分が悪くなって、立ってられなくなって!

 スタッフも段取りが狂って、私も苦しくて指示できなくなって、『どうしよう!』ってなっていたら。

 あんたが、私に駆けよってきて、『甲殻類アレルギーですよね! 救急車ー』なんて叫ぶからさー。

 こっちも『ドッキリでしたー』なんて言えなくなって。

 もー、わざわざ『ドッキリ大成功!』のパネルまで用意してたのにさー!」

と笑顔で、文句を言ってくるアンズ先生。

 わ、笑いごとじゃ、なくないー!? と憤る花森を無視して、


「まあ、話題になればいいか〜、甲殻類アレルギーはホントだし。

って思ってたんだけど。

 そうしたら、『料理研究家が食中毒事件を起こした』なんて誤報が拡散されてしまって。ネットで叩かれまくったから、あったまに来て。

『私、殺されかけたんです!』

って配信で言ったら、話題になったし、同情もされたの(笑)」


「だからって!

 じゃあ、なんで『サバイバルうま飯』なんて企画をやろうなんて、言い出したんですか!?

 それで、私たちに犯人探しまでさせて!」


「それは、似たようなレシピ本の企画しか持ってこない出版社にうんざりしてたんだ。

 もう手を切ろうかな、って前から思ってたから、ちょうどいいかと思って。

 無茶な企画を提案すれば、てっきり断られるかな、と思ったら。

 どの出版社も発売するって言うし(苦笑)。

 だから困って、『犯人を見つけた会社から出す』って言ったんだけど。

 どの会社もあきらめないし。

 知っている? 的場と細井、それに黒川は、初版部数や印税条件を釣り上げて、再交渉してきたよ?

 馬鹿正直に、犯人だけ捜していたの、あんただけだよ。

 もう少し、うまく立ち回れるようになりなさいよ」

なんて言って、なぜかアンズ先生に説教される花森だった。


「それでさー、試しに『#サバイバルうま飯』でレシピを作ってSNSに投稿したら、意外と好評で。

『この企画、いけるじゃん!』ってなって(笑)。

 だから、出版社を振るいにかけようと思って、山登り&キャンプ飯の試食を企画したの。

 あれ、途中からもっと登山がきつくなる予定で、最後までついてきた出版社から本を出そうと思ってたの。

 いやー、まさか、それで殺されそうになるとは思ってなかったけど」

 なんて、とっても明るく花森に説明してくれた。


「アンズ先生、いくらなんでも、行き当たりばったりすぎませんか?

 私、料理研究家って、段取りを決めて料理するし、コスパ重視、効率重視、計画的な人種なんだと思ってましたけど!

 普段『かんたん』だの! 『らくちん!』だの! レシピには使っているくせに!」


「あのさー。

『ズボラ』だの『てぬき』だの言ってる料理人が、ちゃんとしているわけないじゃん!

 だいたい料理なんて、失敗してなんぼよ!

 簡単レシピを一個生み出すのに、どんだけ試行錯誤しているか、レシピ本の編集者のあんたなら知ってるでしょ!

 失敗した、まずい料理を食べまくってこそ、うまい飯にたどりつけるのよ!」

となぜか偉そうに語る、アンズ先生だった。


 そして、花森の両手をとって、ぎゅっと握ってきて、

「おめでとう!花森さん、あなた、合格よ!」

と言ってきた。

「ご、合格って? 何がですか!?」


「あなた、私からのテストに見事合格したわ!

 これくらいのトリックを見抜けないような編集者じゃ、パートナーとしては心細いもの」

「パートナーって……」


「私、すべての事情をわかったうえで。

 それらすべてを飲み込んで、私と仕事したいと思う編集者と手を組みたかったの!」

「すべてを飲み込む……」


「私、もっともっと世の中の人に、私と私の料理を知ってもらいたいの!

 私のレシピで料理に目覚めてもらいたいの!

 料理研究家として、トップにも立ちたい!

 そのためのパートナーが欲しかったの!」

と言うと、さらに強く花森の両手をギュッと握りしめた。


「私は、自分の本を売るために、食あたりを自作自演する人間です!

 そして、その犯人を探させたり、山登りをして試したりする人間です。

 その結果、殺されかけたけど……。

 私と私の料理が世界中に届くなら、死ぬこと以外、かまわないわ。

 こんな人間だけど、あなたはどうする?

 私に、ついてきてくれる?」


とその大きく美しい瞳でじっと花森を見つめてくる。

 己の「推し」の目を見つめ返し、吸い込まれそうになった花森は、いけない! と視線を振り払って、

「お話はわかりました。

 でも一つだけ、一つだけ! 約束してください。

 次の本が売れたら、その次はスイーツのレシピ本を作らせてください!」


「えー、スイーツぅ?

 そりゃ本を出せるなら、いつかは出したかったけど……。

 私で、スイーツ本の企画ねー。あんた、企画を通せるの?」


「次の本が出せてバカ売れしたら、どんな企画でも通せます!

 そうなったら、アンズ先生のこれからの活動は、『サバイバルうま飯』と『スイーツ』の二本柱でいきましょう!

 それなら、私、先生に協力します!」


「わかった、わかった。いいわよ!

 サバイバルうま飯の本が当たったら、スイーツ本を出すわ」


「乗った! それなら悪魔に魂を売ります!

 魂を売って、本を売りまくります!」

と言って、握られた手を握り返し、がっしりと握手を交わしたのだった。


 こうして花森は、アンズ先生と共犯関係を築くことになったが、なんだか気分が高揚してくる。


 この人に人生を預けて大丈夫かな? と思いながらも、ワクワクする気持ちを抑えられない花森だった。


<第1部 完>

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