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63. 秘密の任務



 その後、ランバル邸の一室にて。

 ロミアスが目の前の俺たちに向け、感情の乗らない静かな声色で言葉を紡いだ。


「……こたびの護衛、ポルクス・ジーミニはシュルツ王子、ユウマ様の命を狙う謀反人でありました。当人はランバル領内のオークの巣窟内で死亡。我が国の法に基づき亡骸は火刑に処し、遺灰は海に撒くこととなります」

「……」

「リオレス・ルーミエ。彼はポルクスとの共犯の疑いで、王城にて内々に身柄を引き取るとのこと。しかし現在は意識不明の重体のため、しばらくはランバル領内にて療養するようハラルド様からの指示がありました」


 

 その隣。今まさに話題に上がったリオレスは、右手でピースサインを作りながら平然とした様子でロミアスの横に座っている。

 

 なんだ、本当に何が起きているんだコレは。


「俺たちが洞窟の下層に落ちている間、一体何があったんです?」


 とりあえず俺の口から、ロミアスら二人に問いかける。


「ユウマ様……端的に申し上げますと、リオレスはハラルド様の密命で、シュルツ殿下とユウマ様のお命を狙う刺客を監視する任務を賜っていた模様」

「まったくロミアス先輩のおっしゃる通りで……いてて」


 リオレスは左肩を軽く抑えた後、言葉を紡ぐ。


「ポルクスが下手人……敵の息のかかった人間であることは、ハラルド様も調べがついていたそうです。なので今回俺が敵に与したフリをし、内情調査と妨害工作を行う任を命ぜられた。ほらユウマ様らが落とし穴に落ちた時、床がずいぶんと柔らかったでしょう? お二人が怪我をしないよう俺が気合い入れて土運んで耕したんですよぉ。人力で」


 そういえばリオレスは土の魔法が使えないと言っていたのを思い出す。それはまあ、随分とご苦労をおかけしまして……。


「ポルクスが操る鎖も、外れやすくなるよう細工をほどこしました。彼が水でなく土属性の魔力持ちであれば気付かれていたやもしれませんが……ねえ、シュルツ殿下」


 リオレスがそう言ってシュルツに目配せをする。なんか俺も、薄々勘付いては来たんだけれど……。


「シュルツ様は、ひょっとして今回の件をご存じだったのですか?」

「……ああ、この地を訪れるより前。ハラルドから仔細は聞いていた」


 …………じゃあ俺にも言えよぉ〜〜! 何? シュルツと俺っていちおう伴侶なんだよな? 一心同体のパートナーなんだよな!? そう思う気持ちこそあったものの、この場の話が進まなくなるのも困るので、一旦大人になり言葉を飲み込む。


「……ユウマ様。こたびの件は私めにすら知らされていなかった機密。ハラルド様やシュルツ殿下にも何かお考えがあるのかと」


 ロミアスが控えめにそう言葉を紡ぐ。ああ……確かに彼も俺と同じく、始終何も知らなさそうな様子ではあった。表情こそ普段と変わらず平静なものだが、ロミアスなりにやはり思う所もあるのだろうか。


「ほんとハラルド様……叔父上も薄情だよなぁ。ロミアスにも事情を伝えていれば、可愛い甥っ子の肩に名誉の勲章が残ることもなかったろうに……ああ、先輩。別にアンタを攻めてる訳じゃないぜ?」

「リオレス……お前が緊急治療魔法のさなか、痛みに音を上げ中途半端に施術を切り上げさせたのだろう? 肩を出せ。今から続きをしてやる」

「アッ、いえいえ大丈夫! 間に合ってますんで! ハハ……」


 俺たちが洞窟の下層から這い出し、ポルクスを除く四人で洞穴を抜け出した後の光景。地面に寝かされロミアスの緊急治療魔法を受けるリオレスの絶叫は、下手をすればポルクスの今際のそれより痛ましいものだった。


 ……緊急治療魔法。水魔法の上位に位置するその技は、絶大な治癒効果と引き換えに、傷を負った時のおよそ倍の痛みをもたらすのだと言う。


 俺は初見、てっきりロミアスがリオレスに対し事の次第を問いただすための拷問を行っている最中なのかと錯覚し、目を白黒させたものだ。

 途中、シュルツが自身の両目を手のひらで覆ってきたのも、また誤解を増長させたのを思い出す。


「ハハハ。まぁそういうことで、俺の役目はここまでとなります。シュルツ殿下、ユウマ様。短い期間ですがありがとうございました。さきほど身元確かな護衛が二人、ランバル領に到着したとのことで。後はお願いしますよロミアス先輩」

「……ああ、任された。リオレス殿」


 今のやり取りで、大まかな事情は理解が出来た。だが胸の中でどうしても引っかかる部分があり、その疑問を解消すべく口を開く。


「リオレスさん。貴方はリオナの肉親、二番目の兄だと聞いてます。彼は今回の作戦と今リオレスさんが置かれている状況を知っているのでしょうか?」

「……? ええ。俺の弟や実家には、ハラルド様から口頭でお伝えし了承を得ているはず。家族に余計な心配はかけさせたくないですしねぇ」


 その言葉に、俺はホッと息を吐く。良かった。今回リオナは城で留守番をしている。離れた地で兄が大怪我をしたと聞き、悲しみに暮れる彼の顔は見たくないと、そう思っていたからだ。

 

 リオレスは俺の反応に口元を小さく綻ばせ、リオナによく似た笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。


「弟が言っていた通り、ユウマ様は心の優しいお方なのですね。貴方も大変な状況であった中、リオナを気遣ってくださりありがとうございます。……まぁ〜〜城に戻ったらあいつに伝えてくださいよ、兄はランバルの屋敷で優雅にバカンスしてるって」

「お前のバカンス先はバルト山脈になるそうだ、リオレス。退屈を晴らすべく、療養がてら魔物の数でも数えながら過ごせとドミニク様からのお言葉だ」

「ゲェ〜〜」


 心底嫌そうなリオレスの声に、俺は苦笑いを浮かべる他なかった。色々言いたいことや思うこともあるが、ひとまず俺たちの当初の目的は果たされたといっても良いだろう。


 ミノタウロス討伐。その成果を今夜、ドミニクの前で披露する。だがその前に一度、シュルツと二人で話すべきことがあった。

 

 

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