56話
「やめて、もう……それ以上、何も言わないで」
有心の懇願に、陽一は首を傾げた。
他人の心が分からない彼は、どこまでも残酷だ。
「どうして?自分の思いを、伝えちゃダメなの?」
「僕が今まで見ていた陽一は、いったい誰だったの?」
有心の問いに、陽一は朗らかに答えた。
「君を、自分のモノにするために偽ってた姿!」
零には、どこまでもどこまでも陽一の気持ちが分かっていた。だからこそ、嫌悪した。同族嫌悪というものだ。
零や陽一のように、どこか心が欠けているものは、他人の心情を推し量ることができない。それゆえに自分勝手に行動する。他人も自分と同じ感情を持っていると勘違いする。自分と仲良くしてくれると自分だけのモノにしたくなってしまう。独占欲が出てしまう。そして、その相手も自分に独占されたがっていると、謎の思考回路をして、迷わずに独り占めしようとする。
零は思いとどまった。寸前のところで気づけたのだ。でも、陽一は気づけなかった。それが、零と陽一の違いだ。
「陽一、話を変えようか」
零の提案に、陽一は首を傾げながらも、頷いた。
今後、彼が自分の感情の欠落に気づくことができる日は来るのか、それは彼自身にかかっていることは、零のみが知っていた。
「え?あ、うん」
「ボスを倒したい、陽一は協力してくれるんだよね?」
「もちろんだよ」
陽一は妖艶に微笑む。先ほどの無邪気さから一転した表情は、陽一の雰囲気をまた別のものにした。
「じゃあ、用意して欲しいものがある」
「何?」
零は指を3の形にした。
「人とほぼ同じ機能を備えた人形を3体用意して。自分の頭で考え、自分の意思で動く人形。見た目は、こっちが指定する」
「分かった、いいよ」
陽一はあっけらかんと答えた。
「じゃあ、用意したいから、解放してくれる?」
「もちろん」
零は縄を解きながら、小さな闇の結晶をこっそり陽一に貼り付けた。闇の結晶は、陽一の体内に吸い込まれていき、見えなくなった。
解放された陽一は、零を見る。
「ありがと、零ちゃん」
そう言い、陽一は扉の方へと言った。
「じゃあ、用意できたら、連絡したいから連絡先教えて?」
零はメモ用紙に電話番号を書き、手渡した。
「一応電話番号渡すけど、ボスにバレないように教えてよ」
「そんなの当たり前だよ」
爽やかに笑った陽一は、意気揚々と扉を開けて出ていった。
「陽一って……あんな性格だったんだね」
有心が絶望している姿を見て、零は素っ気なく言う。
「瑞花のこと頭の中で整理ついたのか、それとも新しく欲しいものでもできたのか、こっちが拍子抜けするぐらい、清々しそうにされたね」
菊も頷く。
「こっち、としては、衝撃的な、話なんだけど、ね」
零はため息をこぼしつつ、お湯を沸かし始めた。紅茶を飲むために。
「とりあえず、ボスを倒すための作戦会議をしようか」
人を殺すための会議が始めるとは到底思えない空気感で、零は言った。




