弟語りという名の蛇足
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僕はこの国の第二王子ロカルトと言います。
凛々しく威厳のある国王陛下と優しいけれどちょっと苛烈なところもある王妃殿下、それから穏やかで優柔不断、時に奇妙な発言をするけど気配り上手な王太子の第一王子(ややこしいけど誉めてます)の家族四人、王族なのにとても仲が良く僕は皆が大好きです。これも兄上のおかげかな。
僕は小さい頃から天才なんて言われてました。
ちょっと人より話し出したのが早くて、字を読むのも早かったから暇潰しに図書室の本を読んでただけなのに。
それで僕が本を読んでいる間側にいるはずの乳母がいなくなって探したら、乳母が物陰で警備兵と抱き合ってたんです。乳母の伴侶は伯爵家の次期で今は領地にいるからおかしいですよね?
僕はまだ幼かったから素直に「その人だぁれ?」と聞いたら警備兵は急いで何処かに行ってしまうし、乳母は必死の形相で誰にも言うなって言ってきたから、まずい事なんだと思い黙ってたんです。
そのうちに僕の変な噂が流れはじめました。
「第二王子は天才だと言われているが、虚言癖がある」
噂の出所は分かっていたけど、兄上を押し退けて僕を王太子にしようと企んでいる輩もいたから僕の評判が落ちて丁度いいかなと思ったので放っておいたんです。
そしたら人はこういう噂が好きなんでしょう、ちょっと収拾がつかなくなってしまい宮中を仕切っている母上も矢鱈に処罰も出来ず困ってました。
すると兄上がやってくれたんです。
家族揃っての晩餐。父上には侍従長であるトマス、母上にはメイド長、兄上にはニック、そして僕には例の乳母がついています。そして壁際には警備としてあの警備兵もいますね。
僕は憂鬱で食事もあまり進んでいませんでした。
「大丈夫か?ロカルト。変なうわさがあって食がすすまないんだろ?」
父上も母上も僕も、なんならこの部屋にいる使用人皆ぎょっとしました。
とてもデリケートな問題なのでこのような晩餐の席で言うのは憚られる話題です。
でも兄上は気にせず続けます。
「ロカルトはまだ5さいにもなってないのに、物知りだからうそをついてるように思われるのかな?どんなうそをついたんだ?」
めっちゃストレートに聞いてきたから思わず乳母を窺ってしまいました。兄上はそれを逃さず
「うん?もしかしてその乳母がそこの警備兵とあいびきしてることか?」
乳母が序列も忘れて口を挟む前に続けます。
「それは本当のことだろ?この間ニックと見たもの」
な?とニックに話し掛けニックに「お行儀が悪いですよ」と注意されてたけど皆それどころじゃないです。
母上がニッコリ笑って額に青筋が浮いてます。
「貴女たち、この後わたくしの執務室に来なさい」
と地獄の通達をし二人とも青を通り越して白い顔をしてました。もし僕が二人のことを喋った場合の伏線のつもりで噂を流したのでしょうが自業自得ですね。
その後二人の顔を見掛けることはありませんでした。
兄上は下手に家臣の前ではなく、でも主要人物がいる前で子供の無邪気さをもって解決してみせたのです。
その後も僕にはもう乳母ではなく侍従でいいのでは?と薦めて下さり、余計な事をしない、かと言って仕事を放棄するでもない丁度いい塩梅の侍従をつけてくれました。この者も兄上が推挙したと聞いてます。
「お前が面倒くさがったのはわかってるけど、俺がお前の悪いうわさを聞くのがいやだから気をつけてくれ」
と言われてしまいました。
兄上は人を見る目が有り割りと人たらしですね。僕は僕なりに兄上の治世で力になろうと思ったのです。
けして只でさえ人付き合いが面倒なのに国王になってタヌキ爺の相手をするのが嫌だとは思っていませんよ、ええ、けして。
見る目があるというと側近選びも秀逸でした。
天才肌(特に植物に関して)のユリウス・ハワード卿。
人望が有り軍部に精通しているアーサー・クラウト卿。
文官のスペシャリスト、モリス・ローゼン卿。
柵の多い国王陛下ではあり得ない人選です。
もちろん政治上選らばなければならない者もいるわけですが兄上はあくまで候補としております。
宰相の孫はなぜか僕に敵愾心を持っているようで会うと根拠のない嫌味ばかり言ってきます。
彼は出来のいい兄がいて比べられることに劣等感を持っているようで、少しでも自分より劣る者は見下げる人です。僕にも例の噂や年下であることで馬鹿にしてきます。
兄上のことも僕より劣ると僕を担ぎ上げようとしている愚か者の話を信じて見下げてますし。
兄上曰く、
「本をよく読んで知っている事は多いだろう。でも頭が固く応用が効かない。本当に頭がいいのはお前の様に臨機応変にできる者だ」
と言ってくれます。尽くし甲斐のある兄上です。
次いで騎士団長の次男ですが、腕前の方は兄上より少し上でしょうか?でも頭が悪…単純なのか兄上にフェイントをかけられ良く負けます。「卑怯者」と陰で兄上を罵ってますが不敬ですよ?それに戦場で敵にフェイントをかけられたら同じ様に「卑怯者」と言うつもりでしょうか?脳筋と言うよりただの馬鹿ですよね。
最後に財務大臣の年の離れた弟ですが、兄である財務大臣に何を買ってもらっただのと自慢して、自分に逆らったら兄に告げ口をすると偉そうにしています。でもそれを任命しているのは誰でしょうね?
と、まぁこんな感じなので側近にはなり得ないでしょう。政治上の柵ですぐには取り消せませんでしたが。
政治上の柵といえば婚約者候補もそうでしょうか。(僕は後継ぎ問題が解決するまで免除してもらっていますが)
それはそれは可笑しなご令嬢が一人まざっております。
アリシア・シュワイツ公爵令嬢その人です。
彼女を認識したのは兄上主催の側近、婚約者を決めるお茶会。僕は面倒…コホン、話がややこしくならないように欠席しましたが、その奇行は伝え聞きました。ある令嬢の髪飾りを奪おうとして暴力をふるい喚き、挙げ句兄上を見て気を失ったと。
その後、公爵のゴリ押しで婚約者候補になるも、改めて候補者3人とのお茶会で「婚約者をいつでも辞める」宣言をして他の候補者とキャットファイトしたり、城で僕を見かけて追いかけて来たりと奇人を通り越して怖かったです。トラウマになってます。
また【マヨネーズ】というソースを作って食中毒を起こしたり(これはなぜか兄上が作り方を知っていて父上と母上に協力してもらい作ってましたが美味しかったです)、上下水道なるものを整備しようとして訴えを起こされたりしてましたね。僕はその仕組みに興味が湧き、兄上に聞いて浄水器というものを作りました。貴族や商人の間で今でも売れておりいい小遣い稼ぎになってます。
実は先日この令嬢というより公爵家に関して失態を犯しました。兄上の侍従であるニックとともに。
ニックとは兄上を挟んだ距離が丁度いいと思っております。なんというか恐らく同族嫌悪というものでしょうね。
それは置いておいて、僕たちは余りにも兄上を蔑ろにするシュワイツ公爵令嬢に怒るのを通り越してうんざりしていました。ですからその親である公爵の一挙一投足が気に入らず怪しく思えたのでしょう。言い訳ですね。結果は公爵がただ娘に振り回されていたというだけでした。
兄上に取り過ぎると毒になる香辛料を見付けたことを誉めて頂けたのがせめてもの慰みでしょう。
あの後、偶然会ったシュワイツ公爵令嬢は僕のことなどもう気にも留めておらずホッとしました。
近いうちに領地に引きこもると聞きましたが彼女にはもう社交界に居場所はなく致し方なく思います。
そうそう、兄上は無事ソフィーリア・タンゼン侯爵令嬢との婚約が整い、卒業の一年後結婚することとなりました。今回の件で唯一の吉事ではないでしょうか。
ああ、あの男爵令嬢のことは兄上のお陰もあって僕はほとんど関わりがなかったので、割愛させて頂きます。
そう呑気に構えていたのに、卒業まで男爵令嬢に付きまとわれて輪を掛けて女性不信になるとは思いませんでした。もちろん出来る限りの報復はしましたよ。フフフ…、噂では男爵家から娘が居なくなったとか。嫁いだのか除籍したのか僕は知りませんが。
まぁこれからも兄上と個性豊かな面々で、楽しく過ごせたらと思います。
またそのうちお会い出来たらいいですね。では。
ありがとうございました。
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