005.ギブアップ即ギルド
005.ギブアップ即ギルド
; 視点: 一人称<幸>
; 場所: ギブアップ荒野の町(略称:ギブアップ町)
町の入り口、門番の方へ向かった。
「よぉ~、青二才、門番の仕事は、どうだ? 飽きたが?」
「旦那!? 何ですかあの飛行物体!? ズトンと来まして、心臓が止まるかと思いましたよ、まったくもう!」
門番とダイオードさんは顔見知りらしい。
「ああ、おかげでワシのお口も砂サラサラだ。
――これからギルドに報告に向かう。もう通っていいだろ?」
「あ、はい、もちろんです。
――っと、ちょっと、もう一人の子のこと、聞いておりゃしないんですけど!」
「ああ、この子は出先で助けられた。名をコウと云ったか?」
「そうです、コウと云います。どうも、よろしくお願いします」
そう云うと、途端、門番は真顔で目を見開いてしまった。
何かこう、異質なものを見るような目に、見えなくもなかった。
しばし相手は沈黙したのち、ようやく口を開く。
「……可憐な、お方ですね……」
よく見れば、頬を染めていた。敵対感情ではなかったらしい。
だがそのような世辞は、女性に対して云った方がいいな。
「外見が良いからって、中身が良いとは限らんぞ」
私は何とも云えない心持ちだった。
「コウの身元はワシが保証するとして――
オイ! ワシらはギルドに行くからな!」
まだしばし呆けていた門番へ、しかと声かけた。
「はい! どうぞ! で、もし良かったら、後でお茶でもどうですコウさん? ワタクシの最大限のサービスで――」
懐から一輪の花を取り出しなさる。
「そんなのに構ってられるか」
私はダイオードさんに引っ張られ、最大限のアピールを後にした。
*
; 場所: 冒険者ギルド
ギブアップ町の小ぢんまりした街並みの先、冒険者ギルドへ到着し、その中へ入った。
冒険者ギルドだから、冒険者がいた。
しかし、皆ダイオードさんの姿を目にすると、道を譲るように脇に退けた。皆の眼差しには敬意が感じられた。
そのため、ダイオードさん そして連なる私は、一直線にカウンターまで行けた。
そして受付嬢に尋ねる。
「ドルメンに会いたい。居るか?」
「えっと、ギルドマスターですか」
「入るぞ」
ダイオードさんは受付嬢の答弁も中途半端に、建物の奥へ入ってゆく。
私は手持ちぶさたに、ロビーをぶらつく。
どうやらここは結構、大きな施設らしい。ざっと見たところでも、宿から店まである様子だ。恐らく、冒険者はここで大抵の用事は済ませられるのかもしれない。
「コウ! どこ行ってたんだ?」
ダイオードさんがいた。
「ここにいましたよ」
「……疲れているところ申し訳ないが、もう少し付き合ってくれ」
ダイオードさんは再度、建物の奥へ進んだ。今度は私も追いながら。
*
; 場所: ギルドの解体所
連れてこられたのは、だだっ広い空間で、工場の建屋を思わせる。
そこに現れたのはサンタクロース。そしてギルド職員数名。
「どうも、お初にお目にかかる――
ワタクシ、ギルドマスターを務めさせております、ドルメンと申す、云わば、ただのオッチャンです」
サンタクロース改め、ギルドマスター・ドルメンさんは自己紹介なされた。
「初めまして、コウと申します」
私の名前はカタカナ表記にすることに決めた。
「コウ嬢ちゃんですか、ふむふむ、コウ嬢ちゃん」
その呼び方では、工場ちゃん、工場ちゃん、と聞こえてしまい、クスリと笑う。
それを見たドルメンさんが、おや? という様子の笑顔を向ける。
「それにしてもオシャレな格好ですね」
私はドルメンさんの、これ見よがしなサンタ姿に云い及んだ。
「この格好ですかい? これはですなァ、ギルドマスターの正装なんですなァ。ははっ」
冗談っぽく云う。
「子供たちには大人気ですたい」
笑顔を振りまいて、ドルメンさん、語る。
ギルド職員、苦笑いと愛想笑い。
頃合い見て、ダイオードさんが要件を云う。
「コウ、ここにワームを出してくれ」
「ワームを、ですか」
「ダイオードから聞きましたぞ! コウちゃんが、あのワームを倒した、と。
正直それは、にわかに信じがたくてですな。
直にコウちゃんに会ってみれば、これがまた、可愛らしくも いたいけなお嬢ちゃんときましてな、なお信じがたい。
とはいえ、ダイオードが、そうだ、と云うなら……、まぁ、はは。
ワタシもコウちゃんの実力を、信じざる得なくなるでしょうな。
」
「……」
「んじゃまぁ、コウちゃん、どうぞ、ワームをお出しください」
*
私はアイテムボックスからワームを取り出すため、空間に巨大な穴を開けた。
その際にエネルギーが若干漏れたような気がした。
(は、覇王……様……)
何やら、ドルメンさんが驚愕の表情で、ささやかに呟いた。
構わず私は、ワームを取り出し、ドスンと置いた。
途端にこの広々空間も少し窮屈に感じた。
ワームの圧迫感は凄まじい。グロテスクなだけに。
ギルド職員の人たちは、目を丸くして、ソワソワ喋る。
「ほ、本当に……? 嘘だろう……」
「ワームをあの娘さんが……?」
「本物だ……。正真正銘 本物のワームだ……。よく殺されなかったものだ……」
「フーム……、いや凄いのはそれだけでねえ。何だ、あのアイテムボックスの容量は。馬鹿かと思うサイズだぞ。てっきり俺はワームの身体の一部を出すのかと――」
「ワームって、そんなに大それた魔物だったの……」
私は呟く。ここにきてワームの凄さを思い知る。それにダイオードさん答える。
「そりゃアお前、ワームって云やァ、古代からの怪物。恐怖伝説に事は欠かないさ。
見た目のインパクトもあって、実際以上に恐れられている面もあるが――
にしても今回は一匹単体だったからな。運が良かった」
「それで……ドルメンさん?」
ドルメンさんは未だに呆然として固まっている。
「ドルメンの奴も、本物のワームを見たのは初めてだろう。びっくりしすぎて声も出ない有様か、あれは」
びっくりしているのはその通りだが、ドルメンさん、ワームではなく、私を凝視している。のみならず、額に汗が見える。
「ドルメンさん! 大丈夫ですか」
少し声を強めて、云った。
「ア、はい、……ええ、はい、元気です」
元気が戻った。
「それで――、ドルメンさん、そしてダイオードさん、このワームはどうしましょう?」
「コウはどうしたいんだ?」
「私ですか? ううんと……、買い取り出来ます? ドルメンさん」
「え、ああ、はっ、もちろん! 喜んで、ははっ」
ドルメンさんの挙動不審が継続している。
やはりワームがショッキングだったかもしれない。
今更だがワームの見た目は、ミミズでナメクジで大蛇だからねぇ。なおかつキングサイズだ。
*
次はドルメンさんから話しかけられる。
「そういえばコウ様。冒険者登録はお済になっておられない、とか……?」
恭しく尋ねられる。そこをダイオードさんが口を挿む。
「それは明日だ。今日は帰ったばかりなんだ。まず休ませろ」
「そ、それもそうですな。申し訳ありません」
「ドルメンさん、魔物の買い取りですが、支払いは後日になりますか?」
「そう……そうですな。査定や解体に時間を取られますので、な」
「でしたら、他の魔物も出しときますので、全部買い取り願えますか?」
「ええ……はい」
私は建屋の壁際にメダマモグラを積み上げた。
積み上げ作業がはかどるほどに、ギルド職員たちの顔が、何だか強張ってしまう。
仕事を増やし過ぎたのかな。
「はは、いやはや、これはまた、わんさかと……はっははっ」
ドルメンさん、無理に笑っている。なので一応聞く。
「多すぎましたか? 減らしますか?」
「いえいえ! 全て引き受けさせてもらいます」
大丈夫らしい。
■要約
・町の門番をしていたバリコンに好意を持たれる。
・ギルドへ行き、ギルドマスター「ドルメン」に会う。
・ギルド解体所でワームを出す。が、出す前からドルメンは驚愕し、覇王様と小さく呟いた。
← アイテムボックス内にある覇王の斧と、空間に大穴を開く際に漏れた覇気に感づいた。
ワームが古代から恐れられる怪物であると知った。
・ワームとメダマモグラの買い取りを頼んだ。