77 絶望の淵
精神的ダメージを受けながら、メールチェックを続ける。珍しく吾妻さんからもう一通メールがある。
『荷は確かに遣いのものが受け取ったと連絡あり。一週間後に手元に来る。また連絡する』
お?
無事に吾妻さんサイドに渡ったんだ。って、まぁトゥロンからは聞いていたけど。
吾妻さん本人の元に渡るのは一週間後?じゃぁ、ここから急いでも一週間はかかる場所にいるってこと?
そんな場所にどうやって連絡してるんだろう?
あ、狼煙!
不可解な狼煙が上がっていたとか言っていたのって、まさか?
なるほど。吾妻さんは狼煙で連絡を取っていたのか。他に携帯を持っている人がいるわけじゃないんだ。
だとすると、狼煙での連絡方法を教えてもらえば、例え私が携帯を失っても吾妻さんと連絡が取れるんだろうか?
メールチェックを終えると、携帯と呪いのコイン入りの巾着を鞄の中に戻す。そういえば、ラトからもらったコインはどこだっけと、鞄に頭を突っ込んでがさがさ。見つけたコインを、吾妻さんからもらったものと見比べる。
うん、似てる。
っていうか、表の模様は同じっぽい。十字に丸が3つデザインされてる。裏は違う。なんだろ、そうだ。焼印で見た国だか街だかの印に似た図案が施されてる。その下に文字?生憎読めないけど、文字っぽい何かがある。
読めないなんて……ますます呪いの言葉みたいで不気味だ。
慌てて巾着に二つとも入れ、テレビの横に置いた。
その日の夕食は断った。
とても、何か食べる気分にはなかったから。
アジージョには心配されたけれど、数日の疲れが出ただけだから大丈夫とドア越しに声をかけた。
違う。
本当は違う。
疲れが出たんじゃない。
ショックで、動きたくない。ベッドの上で丸まってジッとしてたいだけ。
何もしたくない。
まさか、まさかだ。考えてもみなかった。
昔読んだ自己啓発の本だったか、それともスピリチュアルの本だったか、何かに書いてあった。
『人生はプラスとマイナスがちょうどつりあうようにできている』と。
努力や苦労と、得た幸福は釣り合う。
何の努力や苦労もなく得た幸福の後には、不幸が待ち受けている。
そんなことが書かれていたと思う。
海外の金持ちがボランティアに力を入れるのは、この法則を良く知っているからだとか?
細かい内容は忘れちゃったけれど、自分磨きもせずに「良いことないかなぁ」って思っていたって、あるわけがないというような話に習い事を始めたんだよね。
……。
今回のガンツ王との会談は上手く行き過ぎたんだ。
棚から牡丹餅だったもん。
上手くいった分、それなりの反動があったんだ。
きっとそうだ。
ぎゅっと力いっぱい握り締めた手紙は、ぐしゃぐしゃにつぶれている。
ベッドの上で背中を丸めて横になっている。その私の中心につぶれた手紙。
ユータさんに出した、私の手紙。
『宛所不明』の判が押され、戻ってきた手紙。
ユータさんに手紙を出したときには、返事をもらえば日本に帰れると思ってた。
まさか、ユータさんに手紙が届かないなんて、そんなこと思いもよらなかった。
何年ユータさんがこっちの世界に居たのか知らない。独り暮らしだったのか実家暮らしだったのか知らない。
帰ったときにはすでに家賃滞納や他の理由でこの住所にユータさんの居場所はなかったのかもしれない。
帰ってから5年経ってるし、その間に何かあったのかもしれない。
どうしよう、どうしたらいい?
日本に帰れない。
日本に帰りたい。
私、帰れるの?
帰れないかもしれないという恐怖が胸を締め付ける。
怖いよ。
帰れなかったらどうしよう。
助けて……
どうしたらいいの?
お願い、誰か、助けて……。
知らぬ間に涙があふれ、布団を濡らしていた。
とめどなく流れ続ける涙。体を丸めたまま、泣いた。
誰もいない部屋に1人。
すっかり日が落ちて暗くなった部屋に1人。
泣いて、泣いて、窓から光が差しているのに気がついた。
月明かりは心もとないけれど、それでも真っ暗ではない。
部屋に光が差している。
光が……
今回も少し短めですが、このあたりが切れ目だったので




