65 薔薇のドレス
……。……。
おやすみなさいと言ったけれどね、何故だか目が冴えて眠れない。
なんだろうか?そう、アレだアレ!
遠足前日のワクワクして眠れないという、アレだよ。遠足前日なんてうんじゅうねんも前の話だから、もうちょっと近いところで言えば、デート前日?
……、それも随分昔の話だ。凹。
というわけで、暇つぶしに買った生地で薔薇のモチーフ製作。めいっぱい安い生地。つまり、目が荒く、染めむらの激しいもの。
こういう単純作業って、やりだすと止まらない。
切る、縫う、形を作る。気がつけば、大小薔薇のモチーフ20個あまりできてた。
「うーん、どうしようこれ?」
クローゼットをがさがさ。蝋燭の明かりなので、見難いが、目的のドレスを見つける。華美なドレスが多い中、クリーム色でシンプルなデザインのドレス。ドレスをベッドに広げて、作った薔薇をバランスよく配置してみる。
蝋燭の明かりでは、バランス見るのも限界がある。でもまぁ、いい感じ?と思ったので、縫いつけ開始。
朝になって、見直して変だと思えば取り外せばいいし。……ほら、夜中に書いた詩みたいにね!朝になったら黒歴史~ってことも!
ドレスに薔薇モチーフを縫いつけ終わると、眠気が。今何時くらいだろう?多分午前3時か4時。今度こそおやすみなさい。
コンコンというドアをノックする音と、アジージョの声で目が覚めた。
「リエス様、朝食のお時間ですが、いかがいたしましょう?」
え?もうそんな時間?
「部屋まで持ってきてもらってもいいですか?」
ベッドの中から、ドアの外のアジージョにお願いする。
いつもなら、朝食までには身支度を整えてるんだけど、流石に今日は夜更かしして寝坊です。
こっちの世界の夜は早いんだよ。電気がないから、灯りは暗いしお金もかかるので日が暮れてから寝るまでの時間は短い。
だから、通常よるの9時には夢の中。その分、朝が早い。日が昇るころには目覚める。朝の5時とかね。ちょうど上手い具合に8時間睡眠なんだよねー。
朝食の時間ということは、朝7時くらいか。寝不足~。
ふわぁあと、あくびをすると、アジージョが来るまでにウィッグとカラコン装備。化粧は流石に間に合わないので、またベール引っかぶる。
「リエス様、お持ちしました」
ノックが聞こえたので、ドアを開けてアジージョを部屋の中へ通す。アジージョは、てきぱきとワゴンの上の朝食をテーブルに並べる。
「まぁ!リエス様!これは……!」
一通り作業を終えると、アジージョはベッドの上に放り出したままのドレスを見つけた。
そうそう、ついでに出しっぱなしの裁縫道具と、布の切れ端のゴミも見つかる。というか、この世界では布も高価なので切れ端といえどもゴミではないんだけどね。パッチワークみたいにつないで使ったり、穴が開いたところの補修に使うから。
出しっぱなしのちらかしっぱなし。
「あぁ、昨日なかなか寝付けなくてちょっと……片付けは後でするから、」
そのままにしておいてと言う間もなく、アジージョがドレスを両手で救い上げて上に持ち上げた。
「すばらしいです。なんて素敵なドレスなんでしょう!」
アジージョが感嘆のため息を漏らす。
え?本当?褒められるとちょっと嬉しい。
「今日はこのドレスをお召しになりますか?」
「えーっと、とても安物の布を使ってるので、別のドレスにしようかと思うんだけど……」
流石に、王様とかお后様の前に出るなら、もう少しちゃんとしたものじゃないと?
「いいえ、いいえ、リエス様!ドレスの価値は布の値段ではございませんよ!幾ら高価な布を使おうと、幾ら高価な宝石を散りばめようと、醜いドレスに価値はありません!その点、この薔薇のドレスはとてもすばらしいです!しかも、リエス様に絶対にお似合いになります!是非このドレスを着るべきです!」
「そ、そう?」
アジージョが珍しく熱弁を振るう。
そこまでこのドレスが気に入ったのかな?多分、オーガンジーとまではいかないにしても、この透けるような布を使うというのは新鮮味があるのかもしれない。色むらのおかげで、作り物の薔薇とはいえ、色々な表情を見せて本物にも劣らない美しさもある。
とか、難しいことはまぁ置いといて。シャルトという大貴族のお屋敷で働いているアジージョは、今まで色々なドレスも見てきているのだろう。私なんかよりもきっと目が肥えている。そのアジージョが言うんだから、まぁ着ていくか?
「祝賀会に、このドレスを着て行っても大丈夫かな?その、他の高貴な方々に失礼に当たらない?」
せっかく、ガンツ王の機嫌が直ったというのにまた怒りを買うようなことだけは避けたい。
同盟は無理だとしても、プラマイゼロくらいで帰国したいのですよ!
「失礼どころか、きっと皆さん興味を持ちますよ!どこのデザイナーのドレスかと尋ねられると思いますよ?」
そうか。もし「変」とか思われても、デザイナーのせいにすればいいのか。しかも、キュベリアでは普通なんですって顔しちゃえばいいか。グランラの洗練されたデザインのドレスを買って帰ろうと思いますとか、ゴマすれば大丈夫だよね?
ごめん、キュベリアのドレスデザイナーたちよ。先に謝っておく。
「じゃぁ、そのドレス着てくことにするね」
私が朝食を食べ始めると、アジージョは嬉しそうに準備を始めた。
ドレスが決まれば、それにあわせた靴や手袋などを選んでいく。
「リエス様、髪はどうなされます?」
通常、メイクやヘアセットは侍女の仕事だ。しかし、私の場合メイクは当然自分でする。ウィッグなので髪の毛も触らせない。
「んー、編みこんで一部を上で結ぼうかな?残りの髪はそのままたらして、少し巻こうかな?」
大体の形を伝えると、それにあわせた髪飾りをアジージョが探し出す。
「なかなか、ドレスに合いそうなものがありませんね」
もともとのシンプルなデザインのドレスには合いそうなものはある。薔薇のモチーフたっぷり縫い付けたため、それじゃぁバランスが悪くなったのだ。
「じゃぁ、髪飾りも作りましょうか」
朝食を食べ終わると、布とはさみを手に取った。
「え?今からですか?」
驚くアジージョを尻目に、ジョキジョキと布にはさみを入れる。
真っ直ぐ切る。真っ直ぐ荒く縫う。布端だけ斜めに細かく縫う。表に反す。形を整えながら巻いて中心を縫う。縫い目隠しに丸く切った布を縫い付ける。へい!薔薇一丁!
「え?もうできたんですか?」
「うん。簡単だよー。はじめは少し形を整えるのが難しいけれど、慣れちゃえばあっという間にできるよ」
ちなみに、布の薔薇の作り方には他にもいくつか方法がある。プレート使うものとか、斜めに縫っていくものとか、花びらを一枚ずつ作っていくものとか。
アラフォーなめんなぁ!手作りコサージュ教室に通ったときに、その手の本を何冊買ったと思っている!ま、教室通わなくなったとたんに本には埃が……。凹。




