58 荷物の値段
開けようとして、手を止める。
吾妻さん宛ての荷物の可能性もあるわけだよね?っていうか、間違いなく吾妻さんあてでしょ?
どれくらいの大きさのものなら持ち込めるか聞かれたときに、ティッシュの箱3つ分くらいと答えた覚えがある。
まさに、この60サイズの箱サイズ。わざわざ3つに分けて送ってきたのって、この箱を運んで欲しいからじゃないの?
開封はやめて、まず吾妻さんに問い合わせることにする。
携帯開いて、メール画面に。
そうだ、メールチェックの途中だった。
「あ、吾妻さんからメール来てる、なになに……」
『携帯は手配した。こちらの世界に送ったら、取りに行く。受け渡し場所を指示してくれ』
え?携帯を手配?
ああ、そうだ!私ってば、入金額に驚いてすっかり忘れてた。
返金方法を教えて欲しいとメールした時点で、返事待ち体勢だったけど、携帯電話を入手しなくちゃいけなかったのに!
手配したって、この山下さんからの荷物がソレ?だよね?
っていうことは、私はこの荷物を日本からこっちの世界に運ぶだけでいいってことになるよね?
100万どころか10万でも多いよね?どうしよう、幾らくらいもらえばいいのかな……
とにかく、まずはメールしとこう。
『山下さんから荷物が3つ届きました。まだ開封してません。私は今、グランラの王都に居ます。あと数日で滞在場所が変わる予定です。お金ですが、あんな大金いただけませんので返金します。返金先を教えてください』
珍しく、すぐに返信がある。
『不要なものは減らして運びやすいようにしてくれ。グランラ王都近くに知り合いが居る。2日後に取りに向かわせるが大丈夫か?場所を指定してくれ』
という内容のメールのタイトルが……『返金不要』
ちょ、ちょ、ちょーーーっ。
返金不要って、返金不要って、返金不要って!
いやいや、素直に受け取れないでしょ?1000万ですよ?銀行から電話やらメールやら頻繁に来る金額ですよ?
10万なら「そうですかぁ?ありがとうございますぅ!」って受け取っちゃう金額。
100万だったら、何度も申し訳ないと思いながらも、瀬に腹は帰られないと、最終的にはもらっちゃう金額。ええ、日本円入手のあてがないので、とりあえず吾妻さんがいいっていうなら、もらっちゃうよ。正直なところ。もし返せと言われても、日本に戻ったあとなら働いて返せる金額だし。
でも、さすがに1000万はないよね?
返金不要って言われたって、そうは行かない。もらえませんって。
んー、まぁいいや。返金方法については、また後日相談するとして、荷物の受け渡しを優先。
不要なものを減らして運びやすくとあったので、山下さんから届いたダンボールを開封。
携帯4台、スマフォ4台、タブレット2つが入っていた。
箱は要らないよね。
説明書は、いるかな?
電話とメールができればそれでいいなら、いらないよね?いや、スマフォはいるかな?指でタップするとかわかんないよね?
んー、でも嵩張るし。
「そうだ!」
タブレットもあるし、説明書を写真に取っておけばいいよね?SDカードとかならコンパクトだし。
基本操作の部分だけあればいいよね?あとはネットで調べれば分かるし。
早速、基本操作の説明書を吾妻さんのスマフォで写真撮影。
って、保存するためのカードないじゃんよ!仕方がない、確か家に使ってないのがあった。サービスで付けてあげるよ!
そうだ。
買ったけれど、まだ使ってないやつがあったはず。
災害用の携帯充電にと「太陽光携帯充電ストラップ」があったはず!お値段およそ3000円。これも、サービスしとこう。だって、5つももってるもん。
え?何でって?「1つ3000円、5個セットなら今だけお得な9800円に送料無料です!」
ええ、深夜の通販番組にやられました。セットでお得とか、送料無料とか、今だけとか、そんな言葉に弱いアラフォー女子ですがナニカ?
確か、手動で充電してるって言ってたよね。他の人にオーパーツである携帯の充電を頼むなんてしないだろうし。
どっか人目のないところに太陽光充電器設置できれば、楽になるんじゃないかな?
そうだ、どんな状況でメールや電話してるのか知らないけれど、コレあったら便利なんじゃないかな?
イヤホンマイク。
説明書の写真撮影と、カードとソーラー充電器3台とイヤホンマイクのサービスでつける旨手紙にしたためる。
それから、これを運ぶためにダンボールじゃ駄目だから、何かクッションになるものと、人に見られても不自然にならない梱包を容易しなければならない。サービス品と、その梱包資材代などを含めて、思い切って30万を要求しようと思う。
あー、ぼったくり過ぎかな?
いい。決めた決めた。970万を返金。手紙に追記。
この携帯が吾妻さんの手元に着けば、もっと頻繁にメールのやり取りできるだろう。何とか、返金先を聞き出すこともできるはず。
説明書の撮影や、手紙を書いているうちにあっという間に2時間経っていたようだ。
「リエス様、お茶をお持ちしました」
ノックの音に、アジージョの声。
すっぴんのままだー。どうしようかな。
ベールひっかぶって、ドアを開ける。
「ありがとう」
ドアの向こう、アジージョの後ろにはシャルトとサマルーがいた。
「お茶をご一緒してもよろしいかな?」
うはーっ。べ、ベールひっかぶっていて良かった。でも、これじゃぁ、お茶飲めなくないか?すっぴん晒す分けにはいかないし。
断る?えーっと、どうしよう。
まぁいっか。お茶はベールの中に入れて飲もう。
「申し訳ありません、まだ身支度が整っていませんので、このような格好でも良ければ……」
シャルトがほほを染める。
「こちらこそ、失礼いたしました、あの、また後に……」
身支度の整っていない女性の部屋に来るなんて、まぁ普通は失礼だよね。
「いいえ、お話があるのでしょう?私を探していたと聞きました。長く留守にして、ご迷惑をおかけしました。どうぞ、お入りください」
私を探していたというし、会食は今晩だし、結構急な用事なのかもしれない。
サマルーが部屋に足を入れると、シャルトも戸惑いながら後に続く。
応接セットに腰掛けると、アジージョがお茶を用意してくれた。




