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57 トゥロンのつぶやき

すいません、山下と山本と途中で名前が間違ってました。山下で統一したいと思います。

「あの、仕事があるので、帰ります。ご馳走様でした、おいしかったです」

 丁寧に頭を下げて、店を後にする。街中に紙を乾かすための板が立てかけられている。祭の準備の姿そのものだ。学園祭を思い出す。

 昨日の夕飯の後からだから、一晩と半日迎賓館を離れていたことになる。

 朝食までには帰ろうと思っていたんだけどなぁ。うっかり眠っちゃって遅くなった。心配してないといいけど。一座の面々と打ち合わせや準備があるということで出てきたから大丈夫だとは思うけれど。

 と、視線を道の先に移すと、馬に乗って駆けてくる人影。

「女神!また、お姿を拝見できたことに感謝いたします!」

「トゥロン?どうして、街に?」

 馬を降りたトゥロンは、道の端に寄って声を潜めた。

「リエス嬢を探しているのです。女神はご存知ですか?」

 え?私を探してる?なんで?

「何故、探しているんですか?一座の皆との相談で出ているという話は伝わってないんですか?」

「もちろん、伝わっています。それが、今日の夕食に、リエス嬢の同席をとガンツ様から連絡がありまして。夕飯までにはお戻りくださるようお伝えしなくてはならなくて、手の空いている者皆で探しているところなのです」

 げ、会食かよー。お断りしたい。このまま雲隠れしちゃおうか?

 って、そんな訳にもいかないよねぇ。わざわざ、私のような下っ端を呼ぶってことは、チュリ様がらみかもしれないし。

 何にせよ、断れるような立場にもない。もしかすると、同盟へ一歩近づけるかもしれないんだし。

「そうですか。では、行き違いになったのでは?先ほどリエスは一座との一通りの打ち合わせを終えて、迎賓館へ向かいましたよ?」

「本当ですか?」

 嘘をつくのは良心が痛むなぁと思いつつ、頷く。

「リエス嬢が迎賓館にお戻りになったのであれば、私の仕事は終りです。女神よ、よろしければご一緒させていただけませんか?」

 え?報告に戻るとかしなくていいのかな?まぁ、リエスの姿が迎賓館にあればそれも必要ないかもしれないけど。

「えーっと、私ももうリエスの近くに戻ろうかと思っていたところなんですけど?」

 戻らないとやばいみたいなので。

「では、是非とも、送らせてください!」

「ありがとう。では、お願いします」

 なんだか、トゥロンに馬に乗せてもらう回数めちゃくちゃ多いよね?すごい偶然。

 正直、助かってます。歩いてりたくなかったもん。

 徹夜で奔走して、一眠りしたけれど……

 アラフォーだし、まだ疲れてます!徹夜したら、3日は疲れが取れません!だれか、ユンケ○買ってきて!800円レベルのでよろしく!安いのはもう、効きません……凹

 馬上で揺られながら、トゥロンと雑談。のんびりした速度なので、充分会話ができる。

「街中の様子が随分変わっていて驚きました。皆さんが何をしているのか女神はご存知ですか?」

 ぎくっ。思わず、体を固くする。

 ほんの一瞬のことだったけれど、馬上で体が触れているのだ。気づかれないわけがない。

「ご存知なのですね?」

 どうしようか。3日後、いやもう2日後か。2日後にはネタバラシをするわけだし、今言っても問題ないかな?

 いや、敵をだますにはまず味方からとも言うし、どこから情報が漏れるか分からない。

 使節団に知られて、うっかり「王都の皆とお祝いを用意しましたので、是非お楽しみください」なんてガンツ王に言われた日には興ざめしちゃうだろう。せっかくサプライズなのにね!

 知らないというのも今更だ。仕方ない。

「内緒です」

 へらりと笑って誤魔化した。

 トゥロンは困ったような顔をしたが、それ以上この話題には触れないでいてくれた。

 迎賓館の入り口で、トゥロンと分かれた。

 私の後姿を見送るトゥロンは、先ほど見せた困った顔をしていた。私は気がつかなかった。

「女神、トゥロンめは、あなたを守りたい……どうか、目に留まるようなことが起きませんように……」

 トゥロンのつぶやきも、私の耳には入らなかった。


 物陰で、念のためウィッグとヴェール付き帽子を装着し、部屋に戻る。幸い、誰にも見咎められることなく部屋に到着。

 すぐに、アジージョの控えている部屋をノックした。

「ただいま、なんだか、私を探していると聞いたんだけれど、戻ったと伝えてくれる?それから、少し疲れたので、少し休むわ。2時間くらいしたら、お茶をお願いできるかしら?」

 アジージョは返事をすると、すぐに部屋を出て行った。

 さーてーと。

 どっかりと、ベッドに腰を下ろす。

「マジ疲れたー」

 そのままごろんとベッドに横になると、カバンから携帯を取り出す。

 昨日はメールチェックできなかったんだよね。

 手に持ったとたんに、バイブがぶるぶる。

 電話?誰?

「もしもし」

「佐藤梨絵さんの携帯で間違いないですか?」

 あー、なんだか懐かしい。佐藤梨絵って、自分の名前が懐かしいとかっていうのも変な話だ。

「はい、そうです」

「お届け物です、今からお届けしても大丈夫ですか?」

 はて?荷物?実家からかな?でも、実家には荷物届けるときは時間指定で夜にしてくれって言ってあるんだけどなぁ。

「はい、すぐですか?あの、玄関の鍵を開けるので、中まで入れてもらえませんか?受け取り表を荷物の上においてください。サインをして郵便受けから渡しますから。その、人前に出られない格好してるので」

「分かりました。では、2~3分でお届けにあがります」

 というわけで、無事に荷物を受け取った。

 60サイズの箱が3つ。

 差出人の名前を確認。3つとも同じ人から。もっと大きな箱に入れてまとめればいいのに。

「山下さん?」

 えーっと、山下って誰だっけ、あ、そうだ!

 吾妻さん関係の人だよ!住所も確認すると、確かにオークションで銀貨を送った住所っぽい。

 なんで?何が送られてきたの?


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