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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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55/303

55 女将さんの説得

 手にして隠し玉が、皆に理解されるわけもない。暗いだけじゃない、当然見たこともない品なのだから、当然だ。

 私は、手にした紙を、いくつかにちぎって、周りの人間に手渡した。

「何だ?これは?」

「布でもない、木の皮?いや、違うな……」

 人々は、紙を近くの人に回しながら見て首をかしげる。

 匂いを嗅ぐ者、手触りを確かめる者、私がしたように破って見る者、折り曲げてみる者……それぞれが、初めて見る紙を興味深げに観察している。

「いったい、これは何なんだい?」

 女将さんの問いに、完結に答える。

「紙です」

「紙?確かに、珍しいものだが、これが、お祝いのアイデアっていうのかい?」

 私は、カバンの中から紙を2枚取り出した。

 キュベリアの雑草で作った手作りの紙。色は枯れた草色と言えばいいだろうか?日本で見るような綺麗な漂白された白い紙ではない。手触りもザラリとしている。

 それから、米粒を取り出し、2枚の紙を袋状に張り合わせる。

 たけひごを十字に組んで、袋の入り口を広げた形で固定する。

 蝋燭に火をつける。たけひごの中心に、蝋をたらし、蝋燭を固定する。

 キャンドルホルダーといえばいいのか、灯篭と言えばいいのか。

 蝋燭の光を直接見るものとはちがい、紙全体が灯りに照らされて幻想的に輝く。

 お願い、どうか成功して!

「ふーん、なるほどね」

 女将さんの手放しで褒めるわけではないという声。

 祈るような気持ちで、灯りを見つめる。天に私の声が届いたのか、次の瞬間それは起こった。

「お!おお!」

 一同の一瞬のどよめき。そして、視線は一点を見つめる。

「キュベリアの!このアイデアもらうよ!知識、技術、アイデアの提供をありがたく受けさせておくれ!」

 女将さんが、両手で私の手をしっかり握った。

「はい、ありがとうございます。素敵なお祝いにしましょう!」

 やった。とりあえず第一関門突破だ。

 次は、3日しかないという時間的問題だ。

「早速ですが、時間がありません。紙の作り方を教えます。皆さんで必要な数を作ってください」

 鍋や藁などを調達してきてくれた一座の一員を手招きする。

「煮炊きできる場所はありませんか?」

「おお、それなら、ほら、そこに」

 指さされた場所は、なんと噴水広場の噴水の一角だった。

「おーい、誰か薪を持ってきてくれ」

 噴水の一角が、確かにかまどみたいなくぼみになっており、薪を入れる穴もある。

「時間がないんだろう?手伝うよ。この鍋で何を煮るんだい?」

 女将さんが、てきぱきと鍋を噴水の一角のかまどに設置する。水は噴水から入れる。

 もちろん、噴水といっても、日本にあるような水が下から上へ噴出すようなものではない。ローマに古くからあるような、上部から水が落ちる形の噴水だ。水が循環する方式であるわけもなく、もしかして飲み水としても利用できるものなのかもしれない。

「灰も必要なんです。どなたか、灰を準備してくれませんか?」

「おう、家が近くだ、すぐに取ってくる!」

「ありがとうございます、では作り方を説明しますので、覚えてすぐに手分けして数を作ってください」

 まずは、水と灰と藁を入れて煮る。煮るのが一番時間がかかる部分だ。煮ている間に、鍋や藁など次々と必要なものが集まってくる。街の人たちの結束力のすごいこと。

 驚くことに、噴水にはかまどが他にもあり、四方に配置されている。

 なんで、こんなところに?と、煮ている時間に女将さんに聞いてみた。

「先々代の王様が作らせたのさ。街の人が飢えて死ぬことがないように、広場で炊き出しができるようにとね。ここ10年は使うことはなかったが、その前は3~4年に一度はお世話になっていたよ。本当にありがたい」

「そうそう、嬢ちゃん、この町は緑が多いと思わなかったかい?」

「はい。確かに、緑豊かな街だと思いました。お城もとても緑が多くて美しいです」

「殆どの木が実をつけるし、植物も食べられるものばかりなんだよ。人々が飢えないように、誰でも取って食べることができるんだ。但し、独り占めしたり、儲けようとすれば罰せられるがね」

 うわー、すごい街だなぁ。

 先々代の王から続く、国民を第一に考えた様々な政策を聞くうちに、国民がいかに王家に対して尊敬しているかが分かる。

 四方の大鍋でぐつぐつと藁を煮る。

「他の鍋はあと2時間は煮なくてはいけませんが、こちらの鍋には特殊な粉を入れましたのでもう煮えました」

 時間がないので、ちょっぴりオーパーツ使用。まぁ、証拠隠滅っていうか、使ったらなくなっちゃうからまぁいっか的な?

 アラフォーなめんな!エコとかって言葉でつい買ってしまうんだよぉ!

 これで、あちこちぴっかぴか!環境にも優しい!

 そう、重曹。買ったはいいけど、実際に使ったのは3回だけです。独り暮らしの生活では、重曹を使わなければ落ちないほど流しとかも汚れないのよね。

 てなわけで、結構残っていました重曹が。まさか、紙作りに役立つとは!灰で煮るよりもすごく時間が短縮できます。

 取り出した藁を水洗い。幸い噴水から水が出ているし、排水もされるのでありがたい。

 洗ったら、叩く。そして、すりつぶす。

 水に入れる。小麦粉糊を少しだけ入れる。そして、木枠に糸を張った紙すき枠で、紙を作る。

 私が見本で動作をすれば、すぐにまわりで何人も練習を始める。

「枠から外し、軽く抑えて水分を抜いて、天日に干します。天気がよければ半日も干せば乾くと思います。乾かす時間を考えると、紙作りに使える時間は2日しかないと思います」

 私の言葉に女将さんはうなづいた。

「そうだね。急ごう。各家庭でも、早速鍋で藁を煮てもらおう。男集は、藁や他の材料の調達をまずしておくれ。煮あがったら、叩いたりすりつぶしたり、各地域で役割を分担して手際よく紙を作っておくれ!」

「おうさ!分かってるとも!」

 空いた鍋を再び火にかける。もう一度、重曹を入れ、さっさと煮る。

「こちらの中身は、もらっていきます」

 煮終わった藁を水洗いし、絞って旅一座に引き渡す。

「作り方は、分かりましたか?」

 5つの旅一座の面々は各々うなづく。

「ちょっと練習もしたし、大丈夫さ」

「では、これを……お願いします」

 煮た藁を5等分して渡す。

「ああ、任せときな」

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