50 地味顔の悩み
チュリ様の容姿を一言で言い表すなら、「地味顔」だ。
取り立てて、特徴がない。良い方向にも悪い方向にも特徴がない。それ故、印象に残りにくいとても地味な顔立ちになっている。
だけれど、それは決してブスということではない。まぁ、かわいいとか美人と言われることもない顔だ。
いわゆるモブ顔?
だけれど、実はそういうなんら特徴のない地味顔のほうが、化粧映えするのだ。それはもう、驚くほどに。
逆に、少しかわいいとか美人とかいう顔は化粧をしてもあまり代わり映えしない。特徴のある顔は、その特徴を隠すことがしにくいというのも理由だと思う。パッチリ大きなかわいい目の、かわいい子を美人顔にはしにくい。また、ぽっちゃりふっくら色っぽい唇も、クールなイメージの薄い唇にするのは大変だ。
そう考えると、チュリ様の顔は、化粧をするのにもってこいの理想的な特徴のない地味顔と言える。実際「半顔メイク」で画像検索して出てくる画像を見ても、一重で地味顔の子が、そこそこかわいい子よりもかわいくなってる写真も多い。
そう。ポイントは、一重をいかにでか目にするかだ。
日本だったら、糊みたいなアイプチを使って簡単に二重にできる。最近では、100円均一でもシールタイプや糊タイプの様々な二重にするグッズが手に入る。流行は透明絆創膏を切ってまぶたに貼る簡単二重技と聞いて、びっくりした。え?絆創膏で張り付くの?と思ったら、どうも皮膚同士を貼り付けるんじゃないらしい。しかし、考えた人すごいね。で、本題。
絆創膏を使った二重技を検索したときに、ついでに知った技。それがなんと、「米粒をアイプチの糊代わりに使う」といったものだ。
米ですよ!米!確かに、封筒の封をする時におばーちゃんがよく米使ってたけれど。
まさか、二重まぶたを作るために使えるとは!驚きだよね!まぁ、さすがに長時間は無理だけれど。汗をかかなければ2,3時間なら何とか大丈夫みたい。
チュリ様には、ソファから椅子に移動してもらう。周りに使いやすいように化粧品をのせたワゴンを配置。
侍女に蒸しタオルを用意してもらい、チュリ様の顔に当てる。もちろん、この世界にタオルはないから、代用の布だ。
美容効果もあるが、何よりチュリ様にリラックスしてもらいたかった。
「気持ちいいですね」
タオルをはずすとチュリ様は、少しだけさっぱりした表情をした。
「お肌にもいいですが、鼻が詰まったときなどにも、鼻の下に当てると楽になりますよ」
「そうですか、いいことを教えてもらいました。冬になると子供達がよく鼻を詰まらせて苦しがるんです」
「ふふふっ。噂通りの方ですね。チュリ様はとてもお子様を大切にしていらっしゃるとうかがっています」
「噂……」
子供の話が出て、少し緩んだチュリ様の表情が、また固くなった。
ぽろりっ。
不意に、チュリ様の目から涙が零れ落ちる。
「チュリ様!」
「ごめんなさい、なんでもないの……続けてくれる?」
軽く涙をぬぐうと、チュリ様は必死に笑いかけようとしてくれる。
辛そうで、全然なんでもないようには見えない。
私は、チュリ様と目線の高さを合わせた。
4人の子供の母親であるチュリ様。だけれど、結婚も出産も早く、私よりもずっと年下。まだ28歳だ。きっと、お后さまという立場で人に言えないような辛いこともあるんだろう。
私は、静かに首を横に振った。
「チュリ様、泣いていては、化粧をすることができません。落ち着くまで、少し話をしませんか?」
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
「謝らないでください。私の方こそ、何かチュリ様の心を痛めることを言ってしまいましたか?お許しください」
チュリ様は、ぽろぽろと涙を流しながら私の顔を見た。
「いいえ。違うのです。ただ、やはり私が醜いという噂で、主人に迷惑をかけているのだと思うと、情けなくて……」
は?
「チュリ様が醜い?誰が、そんなことを?」
確かに地味顔だけど、醜いとまではいえないし、そもそもそんな噂聞いたことない。
「皆が、噂しているのでしょう?きっと、キュベリアにまで聞こえるほどに……だから、わざわざリエスさんが派遣されたのでしょう?」
あちゃー。何てことだ!
私がチュリ様にメイクするってことで、そんな風に思われちゃったんだ。
「いいえ。チュリ様の容姿についての話は、一切噂として届いていませんよ?グランラに入国した後も、お優しい方だということ噂を聞いただけです」
チュリ様は小さく首を横に振った。
「皆に、気を使わせてしまっているんですね……」
「違いますよ!」
「主人も、ガンツ王も、私が醜いから公の場に連れて行かないのはわかっています。リエスさんにメイクを許したのも、少しは見られるようになるんじゃないかと思ってのことではないですか?」
あー、なんたる誤解。どうして、どうしてこうなった。
そもそも、チュリ様のこの被害妄想ともいえる、容姿コンプレックスは何?
確かに綺麗じゃないけど、でもガンツ王がチュリ様の容姿を醜いと思ってるなんて絶対ないよ!
「失礼ですが、チュリ様には美人のお母様やご姉妹がいらっしゃいますか?」
突然の質問に、チュリ様は面くらったようだ。
「え、ええ……」
やっぱりそうか。小さい頃から比較され続け、根深いコンプレックスになっちゃったんだろう。かわいそうに。
「ガンツ王様とは、政略結婚なのですか?恋愛結婚ですか?」
次の質問に、チュリ様はゆっくり息を吐き出して、語りだした。
「私には、2人の姉がいます。公爵家という立場上、娘の1人を次期王に嫁がせるということが生まれる前から決まっていました。そういう意味では、完全に政略結婚です。そして、姉2人と私と主人は、幼い頃から交流を深めていました。主人が、王が戴冠する前の年に婚約することだけが決まっていました。ただ、お嫁に行くのが誰になるのかは決まっていませんでした。私は、ずっと姉2人のうちのどちらかが選ばれるだろうと思って……」
「ガンツ様は、チュリ様をお選びになったのですね。そして、今の幸せなお二人がいる」
「私は、私はとても幸せです!ですが、主人は本当に幸せなのでしょうか?こんな醜い女を選んで、美しい姉のどちらかを選べばよかったと後悔しているんじゃないでしょうか?」
チュリ様の目からは、大粒の涙が次々とあふれ出ている。
結婚して何年も経つのに、愛されているのに、子供4人に恵まれているのに、でも、チュリ様は不安なんだね。
「チュリ様は、ガンツ様のことを、本当に愛していらっしゃるのですね?」
チュリ様は、照れることも無く大きく頷く。
「ガンツ様は、それは凛々しく、見目麗しい男性ですから、惚れるのも分かります」
「いいえ、主人の良さはそんな言葉では語りつくせません、小さなころからとても優しくて、奢り高ぶらず、王になるための努力も人一倍」




