49 お后さま、チュリ様との対面
いやいや、そんなことよりも、1000万なんてもらっても困るでしょ。
困らないけど、嬉しいけど、困るでしょ!
『入金確認しました。1000万円も必要ありません。お返しするので、振込先を教えてください』
メールをしたけれど、すぐに返信はない。
まだ仕事が忙しいのか、充電切れなのか。
っていうか、仕事って何?こっちの?日本の?
あれ?そもそも、銀貨の宛先の山本さんって誰?苗字が違うから家族じゃないよね?
山本さんとやらは、吾妻さんが異世界にいるって知ってるのかな?知っていて、オークションを代理落札とかしたのかな?
なんか、色々と聞きたいことはたくさんあるけれど、携帯のフル充電でもメール何回か分しかやりとりできない吾妻さんに、今聞かなくてもいい事だと、質問を控える。
次の日、朝一番でお后さまへの謁見の予定が告げられた。
朝食後一息ついてから向かうことになった。
とりあえず、ピッチェの時と同じように、何かあってはまずいのでこちらの化粧品をそろえて用意しておいて欲しいと伝える。
さーて。じゃぁ、まずご飯を炊いときますか。
部屋に戻り、昨日街で買った米を炊飯器に入れてスイッチオン。
ほんの少し使うだけだけど、1合だけ炊くのも光熱費の無駄だから、多めに炊く。もっちろん、後で食べるんだ!楽しみ!
炊き上がった米を数粒取り出し、蓋のついた小さな陶器に入れる。
「リエス様、ご案内いたします」
ちょうどのタイミングでお呼びがかかる。
迎賓館から王宮へと思ったら、離宮へ通される。お后さまは、ほとんどこの離宮で過ごされるということだ。
緑の王宮、花の離宮という言葉が浮かんだ。離宮は、色居とりどりの花があちらこちらに目に入る。本物の花だけではない、この世界には珍しく、壁はカラフルに彩られている。まるで花が咲き乱れているように。
かわいくて綺麗だ。これも、ガンツ王の趣味なんだろうか?それとも、お后さまの趣味?
「素敵なお城ですね」
とアジージョに声をかける。
さすがに、私1人でお后さまの所へ乗り込む(?)訳にもいかず、アジージョがついてきてくれた。心強い。
「本当ですね、グランラのお城も迎賓館も街も、上手に自然の美しさを取り入れていますね」
そうなんだよね。自然の美しいところを活かすように取り入れてる。キュベリアでみた、生垣の迷路なんて、植物を使って庭を造っているけれど自然とは程遠かった。
離宮の2階へある一室の前まで案内される。
案内してくれた人が、部屋のドアをノックすると、内側からドアが開いた。お后さま付きの侍女が扉を開けたのだ。
私とアジージョは、促されるまま室内へと足を踏み入れた。
「チュリ様、お初にお目にかかります。キュベリアから参りました、リエスと申します」
「堅苦しい挨拶はいいわ。チュリです。遠くから、良くお越しくださいました。どうぞ、おかけになって。まずはお茶でも」
チュリ様が侍女に目線で合図を送ると、侍女はお茶の用意を始めた。
私は、チュリ様の向かいの席を用意された。アジージョは壁際に下がって控える。
初めて見る、チュリ様の姿。
ガンツ王の愛妻は、一目見てすぐに分かった。まごうことなき、癒し系だ。
アラフォーなめんな!
この歳になれば、いろんな男女を見てきてるし、恋愛の形も見てる!友人の結婚式や二次会の出席回数だって、半端ないさ!……後輩の結婚式だって、呼ばれれば行くさ!凹。
合コンだってそれなりに行った。そこで、分かったことがある。
イケメンや美女とは別に、モテ人種というのがある。
それは、ずばり、癒し系だ!
時々、美女と野獣と揶揄されるカップルいるよね。なんで、あんな美人があんな男と!とか、あのイケメンの選んだ彼女がまさかの!とか。
あれって、まさに癒し系男子や癒し系女子!
具体的に言えば、「なんか、くまさんみたいで落ち着くのよねー」っていう太っちょブサメンとか。
いるでしょ、女でもさ。かわいくもないし、肉食系でガンガン行くわけでもないのに、男が絶えない子って。
まぁとにかく、チュリ様のかもし出す空気が、癒し系だった。しかも、とびっきりの!だって、一言声をかけられて、目の前に座っただけなのに、何か緊張していた私の気持ちがふんわりと癒されたんだもの。
こりゃぁ、惚れるわ!ガンツ王もめろめろに癒されてるでしょ。
離宮で聞いたお后さまの噂、優しい人っていうのも分かる!なんか、とげとげしたものを感じない。
時々いるよね。笑顔なんだけど、言葉も優しいんだけど、空気が痛い人って。
「私のために、化粧をしてくださると、お聞きしました」
チュリ様が、入れたてのお茶を優雅に口元に運ぶ。上品なしぐさが自然だ。
「はい。恐れながら、キュベリアからの贈り物の一つということで、化粧をさせていただくことになりました」
チュリ様は、少しだけ微笑んだけれど、表情は浮かない。
私の腕前をいぶかしんでいるのだろうか?
あまり、自慢をするというのは本意ではないけれど、やっぱり、メイクはわくわくした気持ちでして欲しい。
「ピッチェのレイナール様をご存知ですか?先日、レイナール様にもとても喜んでいただきました。ピッチェ様にもご満足いただけるかと」
「ええ、レイナール様の噂は聞いたことがあるわ。とても美容に関心が高く、美しい方だと」
そうそう、美容に関心が高いレイナール様すら満足させることができたのですよ。
チュリ様も少しは私の腕に期待してくれるかな?
「チュリ様は、どんなイメージのメイクをお望みでしょうか?」
チュリ様の表情は浮かないままだ。
「少しでも、美しくなれるのなら、リエスさんにお任せします」
一生懸命、微笑を見せてくれる。
だけど、ちっとも嬉しそうでも楽しそうでもない。
なんで?どうして?
化粧して綺麗になれるのって、わくわくしない?
なぜ、チュリ様はこんなに辛そうな表情をしているの?
「化粧品はこちらにご用意してあります」
侍女の1人が、別室からワゴン3台分の化粧品を運んできた。
種類の豊富さは、キュベリアにもピッチェにも引けを取らない。
私は、その化粧品のワゴンに、持参した米入りの陶器を取り出して置いた。
チュリ様のメイクには、この米が役に立つ。よかった。用意しておいて。




