47 ガンツ王の不興を買う
ガンツ王の表情は、無だった。無表情。
「実に見事だな。これほど驚いたことは実に久しい」
驚いたと言った?
一瞬、キュベリア側の空気が張り詰める。
「しかしだ、本来、化粧というのは女性の秘めたる部分ではないか。それを見世物にするというのには不快感を感じる」
げっ。
「し、失礼いたしました!」
サマルーが深く頭を垂れる。シャルトをはじめ他の面々は固まって身動きがとれない。
私も、とっさにどうしたらいいのか分からなくて、動けなかった。
怒らせた!
楽しませるどころか、怒らせてしまった!
ガンツ王は愛妻家だと言っていた。きっと女性を大切にするタイプなんだろう。
冷静に考えればガンツ王の言うとおりだ。女性の美醜を見世物にするなんて、何て失礼なことだろう。
ガンツ王は決して空け者ではない。
驚かす方法で、相手の力量を推し量っているんだ。だから、同盟という国を左右する決め事を、自分を驚かせたら考えてやるという言葉が出るのだろう。
「恐れながら、見世物のようになってしまったことはお詫びいたします。ただ、手っ取り早く私の腕を知っていただければと思ってのことです」
見世物じゃないといいつくろわなくちゃ。
ただ、それだけの思いで言葉をつなぐ。
「どうでしょう、私の化粧の腕前はご理解いただけたでしょうか?」
「ああ、充分な。それで、これは見世物ではない、余興ではないと申すのか?」
ガンツ王の問いに、大きくうなづく。
キュベリアの面々はハラハラとして、私を見ている。そりゃそうだ。キュベリアの面々は余興のつもりだったのだから。
「自分で言うのもおこがましいのですが、私の化粧は、女帝レイナール様にも大変喜んでいただきました。キュベリア国内でも、多くの女性に喜んでいただいております」
嘘ではない。真実を織り込むことで、話に重みを持たせる。単なる言い訳に聞こえないように。
ドレスの中では、足ががくがくと震えている。
ガンツ王の機嫌が直るのか、もっと悪くしてしまうのか……
「どうでしょうか、私の化粧の腕を、お后さまへのプレゼントとしてみては?きっと喜んでいただけると思います」
愛妻家という情報がどの程度信用できるのか、分からない。だけど、今はそれにかけるしかない。
「くっ。はっはっはっは~」
うわ、大笑いだ。
「キュベリアの使節よ!おぬしらが初めてじゃ!顔も見せぬ我が妻への余興を提案したのは!」
「あの、余興というつもりでは……」
どうしよう、愛妻を馬鹿にしたとか思われたら、もう取り返しつかないよ!
「分かっておる。妻へのプレゼントじゃな。いつも、ワシばかりが余興を楽しんでおるのは不公平と言えよう。提案をありがたく受けよう。妻を、愛するチュリを驚かせてくれ」
「はい、ありがとうございます!」
ガンツ王の機嫌が何とか持ち直したのにホッと胸をなでおろす。
その後は予定していた残りの余興はせずに、使節団は謁見の間を退室した。
「ありがとうございます。リエスさんに助けられました」
迎賓館に戻ると、シャルトからお礼を言われた。
小さく首を振る。
助けるつもりとか、そんなんじゃなかった。
私のせいでガンツ王を怒らせたというのを受け入れられなかっただけだ。
お后さまが、どういう人物か分からない。もし、お后さまを怒らせてしまったら、今度こそアウト、ゲームセットだろう。
一難去ってまた一難。っていうか、自ら嵐に飛び込んでしまった感がいなめない。コンバ○ラーVじゃないんだから飛び込みたくない。あ、ボルテス○だったっけ?
そして、沈痛な面持ちのキュベリアの面々は、反省会を行っていた。
今回の使節団は完全に失敗と、日程1日目にして結論が出たようだ。
ちょっと待ってよ、諦めちゃうの?
重たい空気にいたたまれなくなって部屋を出る。別室では、踊り子さんや芸人さんたちが暗い顔していた。しかし、その中の1人が「今度はもっとすばらしいものが見せられるように、練習しよう!」と言い出すと、「そうだ!まだ終わっちゃいない!」と別の誰かが続ける。
そう来なくっちゃ!
私も、頑張る!一度や2度の失敗なんて気にしてたら、正社員への道なんてないんだから!
何度履歴書が返されたか!何度面接で落とされたか!その中には、涙を流すくらい悔しい思いをしたことだってあった。いわゆるセクハラ面接や圧迫面接だってあった。そもそも、ある年齢から「結婚の予定は?結婚しないの?相手は?」とかそういった類の質問されるだけで……胃が。胃が痛いんだよ!アラフォーなめんな!
胃が痛くなる思いで落ち込んで前に進めないほど、やわじゃないんだ!
お后さまに、喜んでもらう。そして、起死回生の手段を考える!最後には笑ってキュベリアに帰る!
さて、そのためには、アレがあるといいんだけどな。
自分の部屋に戻ると、薔薇のリエスからリエスに戻る。アジージョさんに頼んで用意してもらったキュベリアの侍女服に着替え、偽団子頭を作る。そして、そっと部屋を出て迎賓館も後にして、街へ出た。
出るところで、つかまったよ。
「おおー!女神よ!やはり、あなたはいつもリエス殿の傍においでなのですね!」
トゥロンだ。どうして、そんなに目ざといのだろうか?もしかして、GPSとか付けられてる?
「どちらへお出かけですか?」
「街へ、買い物に」
「お供をさせていただけますか?」
ちょっと、考える。今回私が探すのは食料。
食料品店をとにかく数多く回って探したい。それには、商業地区へ早く行けたほうがよい。王城近くの迎賓館から、商業地区まで歩けば40分はかかるだろうか?馬なら15分くらいかな。
頼んじゃおうか?
「トゥロンさんさえよろしければ、お願いします」
いつ、お后さまのお呼びがかかるか分からない。早く見つかるといい。
退屈王の治める王都だ。世界中から珍しいものが集まってきていると信じたい。
どうか、売っていますように。




