43 オークションがすごいことに
「んー、会いたいっていうわけじゃないけど、自分の住んでいる国の王様も知らないままじゃ駄目かなと思って」
ラトは首をぶるぶるぶると激しく横に振った。
「いや、知らないほうがいいこともある!知らないままでも大丈夫だ!そうだ、ユータから教えてもらったぞ、知らぬが仏と言うんだ。分かったか?」
何、キュベリアの王様って、知らない方がいいような人なの?
まぁ、三十いくつで王様なのに独身っていうくらいだから、それなりにやっぱりどこか……
王弟さんは、まともそうだったんだけどなぁ。
ネットオークションでは、順調に銀貨が落札される。発送も、小包自宅集配のついでに持って行って貰う。普通郵便で大丈夫かな?とも思ったけれど、もし到着しないようなら別の銀貨を送れば問題ないのでよしとする。送料節約大事!
ユータさんからの返事は残念ながらまだない。
そうこうしてる間に、出発の日になる。ラトには言ってない。今回も置手紙をすることにした。
「ラトへ また旅に出ます。1ヶ月くらいで帰ると思います。遅くとも2ヶ月以内には帰れると思います。絶対に帰ってくるので、あまり心配しないように。うどんはたくさん作っておきました。オリーブオイルも置いておきます。料理のできる人に作り方を見せて作ってもらってください」
そして、レシピをいくつかしたためる。
前回の反省を踏まえ、しっかり内容を濃くして置手紙を書いた。
それでも、まだ何か書き足りない気もするけど、まぁいいや。
あ、そうだ。お城にはまたラトがいるかもしれないなぁ。薔薇のリエス3度目の遭遇で突っ走るようなこと言ってたけど、大丈夫だろうか?
例によって例のごとく、マーサさんの店の2階で薔薇のリエスに変身。そして、またまた、トゥロンが馬で迎えにきてくれた。
日焼け止めと、ラトに目撃されること対策で、ベール付きの帽子を着用することにした。
王都に付くと、すでに使節団は出発の準備万端で、行き着く暇もなく馬車に乗り換え、王弟に見送られ出発。
ラト、居なかったな。そっと馬車の窓からお城の方を見る。全力疾走で、王弟の方に走り寄る人物が一人。
ラトだ!
王弟の傍まで走りってくると、何人かの人物に引き止められる。
王弟が、ラトを振り返り何か言っているようだ。
うわー、大丈夫なの?ラト、何かやばくないのかな?ハラハラ。かなり距離が遠くなり、ラトたちの姿が小さくなる。
とっつかまって連衡のようには見えない。みんなで仲良くお城の方へ戻っていった。
もしかして、ラトって王弟とお友達だったりするのかな?歳も近そうだし。乳兄弟とかかもしれない。だったら、あれくらいで処罰されることはないよね?
しかし、王弟と仲が良いってことは、貴族の中でも相当上の位だよねぇ。きっとシャルトよりも上なんじゃない?シャルトが伯爵だからその上というと、侯爵とか公爵?
リムジン馬車には、サマルーやシャルトや他の官吏が乗り込んでいる。
私は、アジージョと他1名の侍女と普通の馬車に乗っている。
旅の1日は、大体同じ。午前中に休憩1回、昼ごはん休憩1回、午後に休憩1回、夕飯ごろに街へ到着し宿泊。しかし、今回は同行している旅芸人達の練習を兼ねた演技を見ることができて、退屈しない。とっても楽しい。得した!
旅行2日目の夜。いつものようにメールチェックと、オークションチェック。
銀貨を送った人たちから到着連絡が来ていた。その一つに『着いた。着くとは思わなかった。どうやって送ったんだ?』というメッセージが。その後に、メールアドレスが書かれていて、そちらに連絡してほしいと書いてある。
前に、質問してきた人だ。どうやって送ったって、郵便で送ったに決まってるじゃん。ちょっとこの人大丈夫?クレーマーじゃないよね?メールアドレスに連絡するのは怖いので、オークションのメッセージ機能を使って返信する。
『質問で答えたとおり、郵便でお送りいたしました。封筒の切手や消印をご確認いただければ分かるかと思います』
一応、相手が郵便以外の発送方法を希望していたかを確認するけれど、特に記載はない。だから、今更メール便だの宅急便だので送らなかったと腹を立てられても困るんだけどな。
オークションは、引き続き銀貨を出品している。売る品を買う暇もないし、何が売れるのかもさっぱり分からない。銀貨は今のところ出品すればしただけ落札されている。
出品作業が終わった頃に、クレーマー(仮)からまたメッセージが。
うわー、今度は何が書かれてるんだろう。見るのが気が重い。
『メールで連絡をください。どうやって、郵便を送ったのですか?キュベリアから日本へ?』
どうやってって、自宅集配頼んで
ん?
キュベリアから、日本へ?
あれ?何で、キュベリアって知ってるの?ちょ、ちょっと待って。
落ち着いて、私、落ち着こう。こういうときは深呼吸。
出品した品物にキュベリアという単語を使ったことは、無いよね?もしかして、「グアルマキート戦記」っていう小説に出てくる地名?
地名が偶然一致した?
それとも、まさか!
キュベリアを知っていて、キュベリアの銀貨を見たことがある人が落札した?
「ユータ、さん?」
もしかして、クレーマー(仮)さんは、ユータさん?そうなの?
急いで、メールをする。
メッセージ機能を使ったのでは、レスポンスがどうしても遅くなるし、回数に限りもある。
『ユータさんですか?』
銀貨の宛先は、木の板に書かれていたユータさんの名前とも住所とも別人だった。
返信を待つ間に、ネットで「キュベリア」を検索。何かのキャラクター?人物名にいくつか該当するものが出てきたけれど、地名としては検索結果に出ない。「グアルマキート戦記」に登場しているわけでもないようだ。
ということは、やっぱり……
ああ、早く、メールの返信来ないかな!
ほんの1分2分がすごく長く感じる。
学生時代に大好きな人に初めてメールをしたときのことを思い出した。携帯握り締めて正座して待ったっけ。懐かしい。
「来た!」
メールの返信が来た。




