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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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39 帰還の足音

 地図を見る限り、サパーシュ領は、王都から馬車で6日はかかりそうな場所にある。歩けば何日くらいかかるのだろう?

 セバウマ領へ行った時に思ったが、馬車で旅をするならば、馬車が1日に走る距離ごとに宿場町らしき町があった。歩いて1日の距離ごとに、街はあっただろうか?小さな集落はちらほらあったが、場所も距離も定かではない集落をあてにしながら旅をして大丈夫だろうか?

 せっかく情報を得ることができたけれど、やっぱり私は即行動というわけにはいかない。

 一人旅は怖い。それは変わらない。

 オーパーツを持ち込む気はないのだが……野宿の必要があるのなら、使ってもいいだろうか?

 護身グッズやキャンプグッズなど、少し研究しよう。必要なものを通販で用意して。まずは寝袋とか?あと何があるといいかな?

 道に寝るわけに行かないだろうから、少し道をそれる。火をたけば獣は寄ってこない?でも、1人で火の番とか無理だよね?テントは、大きさ的にカバンから出せないよね。そうすると、木の上で寝るとか?

 ハンモックとかはどうだろう?落っこちないかな?んー、虫も出そうだから、蚊取り線香とかほしいな。

 そういえば、蚊取り線香を手作りする講座を受けたなぁ。原材料のなんとか菊さえあれば、こっちでも作れるんだよね?すでにどこかで作られてるかもしれないなぁ。誰かに聞いてみよう。虫除けの草みたいなのないかって。

 思考が横道にそれてきたので、集中力の限界。一旦、野宿しながらの一人旅について考えることをやめる。

 いっぱいいっぱいになった頭で考えても、ろくなことないからね!

 メールチェックと、オークションチェック。銀貨に入札あり!というわけで、銀貨を追加で5こ出品してみた。

 一人旅に出れば、今度はどれくらい山小屋を空けることになるか分からない。今から、うどんの作りためをすることにした。小麦粉は王都で大量に買った。カバンに入れちゃえば、重さなんて関係ないしね!

 うどんの生地をふみふみしてたら、ラトが来た。

「手伝う」

 というラトを座らせ、お茶を二人分出して、囲炉裏端に座った。

「あのさぁ、ちょっと聞きにくい話を、聞いてもいいかな?」

 今まで、ユータさんの話は、ラトが話したいように話すことを聞くだけだった。だけど、やっと、ラト15歳と4ヶ月まで進んだ。まだ、ユータさんは旅に出たりしていない。これじゃぁ、いつ聞きたい部分になるか分かったもんじゃない。

「何が聞きたいのだ?少年になら、なんだって話してやるぞ!初恋の話か?それとも、もう少し大人の話か?」

 なんで、そっち方面の話なんだ。

「いや、ユータさんのことなんだけど……」

 今まで話を聞いて分かったことは、ラトが「マザコン」ならぬ相当な「ユータコン」っていうこと。

 そのユータさんがいなくなって5年。5年は長いような短いような微妙な年月だと思う。どれくらい、ラトの中でユータさんについて心の整理がついているのか分からない。

 自ら思い出して話すことと違い、こちらから尋ねて、心の傷に触れなければいいんだけど。

「ユータのこと?何が知りたいんだ?ユータの恋か?もう少し大人の話か?」

 いや、だからそっち方面から離れろって!

「ユータさんは、5年前、いなくなる前に、どこへ行くとか何か言ってなかった?」

 ラトは、少し寂しそうな顔をしたけれど、きちんと考えて答えてくれた。

「サパーシュ領と言っていた。まだ行った事がないから、行って来ると……」

「さ、サパーシュ!」

 何てこと!

 トゥロンから忽然と人が消えると教えられた、サパーシュ!そこへユータさんは行くと言って帰ってこなくなったの?

 じゃぁ、私の帰り道は……サパーシュのどこかにあるのね。

「やはり、少年も故郷に帰りたいのだな」

 ラトが、泣きそうな顔をしてる。

 私が、こんな顔をさせちゃったの?

「な、なんで、そう思う?」

「少年を見たとき、ユータのことしか思い浮かばなかった。ユータと同じ黒い髪、黒い瞳、それだけじゃない」

 ああ、やっぱりユータさんも日本人特有の黒目黒髪だったのか。

「似てると思った。持っている雰囲気というか、空気というか。もっと魂の底からというか、根っこが似てると思ったんだ。同郷だとすれば、うなずける点がたくさんある」

「あー、うん。多分同郷なんだと思う」

 ラトが、私を見る目の色が変わった。寂しいとか悲しい色から、何かを決心する色に。

「帰りたいんだろ?」

 ラトの問いに目をそらすことなくうなずく。

「協力する」

「協力?」

「資金面とか、金銭面とか、必要経費とか、お金のこととか、」

 つまり、金出すってことか?それ以外の協力できることがないのか!

 ラトは立ち上がって、押入れの襖を開けた。上のほうに手を伸ばして、壁際で手を左右に動かしている。

 手探りで何かを探しているようだ。目的の物を見つけると、ふっと埃を軽く口でふいて飛ばした。

「ユータから、言われていたんだ」

 ラトが、小さな木の板を差し出す。

「もし、同郷の人が現れたら渡してくれと……遅くなってすまない」

 『ユータコン』のラト。

 私に、ユータさんの影を見ていたのかもしれない。

 ユータさんはいないけれど、私という存在が、何かしらのラトの心の支えになっていたのかも。ユータさんに受けた恩を私に返すことで、ユータさんとの繋がりがあるような気がしたのかもれない。

 ラトの気持ちは分からない。

 だけど、ラトのユータさんを思う気持ちは分かる。そして、少なくとも私に対して、ユータさんを思うような純粋な気持ちで慕ってくれていたのは間違いないと思う。

 もっと、長く一緒にいてあげられたら良かったんだろうけど。でも、ごめんね。

 私はやっぱり日本に帰りたい。

 ラトの差し出した板を、私は受け取った。

「故郷へ帰るときは、教えて欲しい」

「うん。絶対に教える」

 ラトは珍しく何も食べずに帰って行った。

 私は、手元に残された木の板を見る。

「ユータさん……」

 木元裕太

 兵庫県西宮市○○○○

 名前と、住所の書かれた板。

 手紙を書いて、帰り方を聞けば

「帰れる……んだ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] >手紙を書いて、帰り方を聞けば そうか、そんな手があったんだな 日本に帰ったら友達になろうぜ、 的な意味で住所書いといたのかと思ったw
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