32 活路
キュベリアへ輸出できるだけの生産のめどが立てば、外交カードになる!
一方的な関係になんてさせやしない。
キュベリアに「欲しい」と言わせてみせるんだから!
次第にオリーブ畑が増えていき、馬を走らせて1時間が経過した頃集落が見える。
村というよりは街といった方がよさそうな規模だ。キリアの倍の大きさはありそうだ。
「馬を、お願い!」
「おおせのままに、我が女神よ!」
トゥロンに馬を引き渡すと、街へ足を踏み入れる。
誰に話をしたらいいのだろうか?キョロキョロとあたりを見回す。町外れに、大きな樽がたくさん重ねてある場所がある。
「すいません、この樽の中身はオリーブ油ですか?」
樽を転がしてきた人に尋ねる。
「ああ、そうだ」
「生産をまとめている人とかはいますか?」
「はぁ?お前のような小娘が、何の用だ?買い付けか?」
明らかに、なめられている。まぁ、いきなり元締め的な人に用があるといったら普通はそうなる?
「城からの使いでね、案内してもらえないか?」
「は、はい、少々お待ちください!」
男は、慌ててどこかへ走っていった。
振り返れば、私の後ろで馬を連れたトゥロンがにらみをきかせていた。
トゥロンはいつものチャラい雰囲気を感じさせない威圧感を出している。うわ、別人だ。
「城からの使いというのは本当だろうな?」
「へぇ、確かに。馬を連れておりましたし、そういえば娘の方も城のメイドのような服装をしておりまして」
先ほどの男が、小太りの男を連れてきた。
「何の御用でございますか?」
「率直にお尋ねいたします。オリーブ油の生産量を増やすことは可能ですか?」
小太りは、質問の真意を探るように答える。
「可能といえば、可能ですし、不可能といえば、不可能ですな」
今は、言葉遊びも駆け引きもしてる暇はないのに!
「どういうことですか?」
「少しの増産であれば可能です。但し、質は落ちますが。今の質を保ちながらということでしたら、不可能です」
質は落ちても構わない。食料にするわけではないのだから。
「どれくらい増産できるんですか?」
「多く見積もって、現状の1割増しというところでしょうか」
「たった、それだけですか?」
1割でも増えればいいのかもしれない。でも、それじゃぁやっぱり足りない。キュベリアに普及させるだけの量が足りない!
「今の倍の量に増やすことも可能ですが、それは数年先の話です」
小太りの男は、話し方こそ、遠まわしで嫌味なところもあったが、事実をきちんと教えてくれた。
オリーブを植樹し、数年越しで増やすことは可能だということ。菜種など他の油にしても、畑を開墾して生産量を増やすしかないので、数年単位でみなければならないということ。
どうしよう。
キュベリアに供給できるだけの量が確保できれば、外交カードになると思ったのに。
量が確保できなければ、単なる貢物程度で終わってしまう。もしくは、ピッチェ国内での消費を圧迫しちゃうかも。
だめだ。
せっかく見つけた品だけど……
足から力が抜けて、ふらつく。
トゥロンが腕を持って支えてくれた。そして、そのままオープンカフェになっているお店に座らせてくれた。
「我が女神よ、お口に合うかわかりませんが」
そういって、目の前に飲み物と、軽食が差し出された。
「それとも、女神にはこちらがお似合いか」
と、後ろに隠し持っていた花とオレンジを差し出す。
「ありがとう」
無理に口角を上げようとしたけれど、上手くいかない。
「女神はご存知だろうか?このピッチェでは、何でもかんでも油で揚げちまうってことを!そりゃぁ、驚愕ですぜ。魚も肉も、なんだって揚げちまうんだ」
普通だよね?魚のから揚げ、鶏のから揚げ、豚カツにヒレカツ、エビフライにイカリング、オニオンリングに大学いも。
「聞いて驚かないでくださいよ!」
それ、驚けって前ふりだよね?
「なんと、パンまで、パンまで揚げちまうんですよ!」
揚げパンとかカレーパンとか普通だよね。
揚げ物文化のないキュベリアでは、驚愕なんだ。パンを揚げるのは。
「ぷっ。くすくす」
落ち込んでいる私を、トゥロンが必死に慰めようとしてくれているのが嬉しい。
話は全然驚くものではないけれどね。
だって、日本ではアイスクリームだって、揚げちゃうんだから!
「女神、大げさではなく、本当なんですよ、どこへ行っても揚げ物ばかりなんですから!」
ガタン!
「ありがとう、トゥロン!」
今度は、きちんと口角の上がった笑顔をトゥロンに向けた。
本当、ありがとう、きっと落ち込んだままの私にはとても思いつかなかった。
立ち上がった私は、そのまま店内へ。そして厨房に向かった。
「すいません、聞きたいんですけど、揚げ物に使った油のことを!」
嬉しい返事を聞くと、すぐに西へ!チュルス村へ戻る。
「村長、油が手に入ります!だから、たくさん作ってください!」
村に入るなり、村長の元へ向かった。
まさか?という顔の村長に、話を続けた。
「すぐにではないのです。これから、キュベリアへの輸出が始まれば、お願いしたいのです。原材料に関しては、」
私の説明に、そんなことができるものか!と村長は驚いていたが、すぐに実証するために試作品作りをはじめる。
「そうだ、これも使ってみてください」
トゥロンに贈られたオレンジと花を差し出し、使い方を説明する。
ごめん、使わせてもらうよ、トゥロン。
試作品作りは、夜を徹して行われた。
「できましたな」
村長の言葉を合図に、試作品を手にする。トゥロンに声をかける。
朝日が、稜線から顔を出しかけている。紫色に染まった空が、朝の到来を告げていた。
「急がないと会議が始まってしまうわ!トゥロン急いで帰りましょう!」
試作品は麻袋に入れてトゥロンが持ってくれた。馬に乗り、城へと急ぐ。
城門をくぐり、兵舎近くへと戻ると、トゥロンが何もいわずに麻袋を渡してくれた。
間に合った。
「お急ぎなのでしょう、女神よ」
トゥロンは最後まで、何も聞かずに協力してくれた。トゥロンがいなければ、この麻袋は無かったと思う。
「ありがとう」
ただその言葉しか言えない自分が恥ずかしい。この感謝の気持ちの伝え方が分からない。だけど、今は、私にはまだ優先すべきことがある。
本当の正念場はここからだ。
上手く、キュベリアとピッチェの関係を対等に、ギブアンドテイクの関係に持っていかなくては!
急いで部屋に戻り、薔薇のリエスへと姿を変える。
幸い、私の不在は気がつかれなかったようだった。
ほどなくして、ドアが開かれる。
「リエス殿、話し合いに臨席願えますか?」
一拍置いてから、静かにうなずく。
さぁ、決戦です!




