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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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30/303

30 過去の亡霊

 昼食会が終わり、使節団主要人物が集まって今後の作戦会議が始まった。

 シャルト、サマルー、私と、国から派遣されてきている官吏2名とセバウマ領の官吏3名。レジージョが隅に控えている。

 シャルトが、明日話し合いの場が設けられることを伝えると、官吏たちから小さく歓声が上がる。

「実にリエス殿の働きはすばらしかった!政府にもこれだけの働きができる人物はそういないでしょう!」

 サマルー、それ政府側の人間に聞かれたらまずいんじゃない?と思ったら、政府側の官吏がうなずいてる。それでいいの?

「技術指導の件をリエスさんには改めてお願いします」

 全力で戦争回避するって誓ったし。

「あの、技術指導はキュベリア国内でいいですか?こちらの国から何名か派遣してもらって」

「もちろんです。リエスさんがピッチェにとどまる必要はありません」

 よかった。山小屋に帰るのが延びると、ラトが空腹でのびているかもしれない。(親父ギャグはアラフォー女子の嗜みと、会社の先輩が言っていた)

「リエス殿の技術提供は、女帝から要求されたとは、確かですか?」

 官吏の一人が口を開く。

「確かだ」

「そうですか。ピッチェからの要求をこちらが飲む形ですね」

「ピッチェでは昨年は不作で、食糧備蓄が減っているという話を耳にしました。」

「そうか、では、食料の支援を提案しよう」

 私、話にはいっても良いかな?

「あのぉ、」

「なんでしょうか?」

「ピッチェには何を要求するんですか?」

「ありません。ピッチェには何も望んでいません」

「何故ですか?」

 友好な関係って、ギブアンドテイクなんじゃないのかな?

 何か、話を聞いてると、キュベリアが一方的に与えるばかりっみたいなんだけど。

「ピッチェにあるものは、キュベリアにもあるからです。特に求めるものはありません。ピッチェの国力から考えると、自国で消費する以上のものを生産するのは難しいでしょう。無理な要求をして関係を悪化させるつもりはありません」

 そんなもの?

 なんだか、胸の奥がもやっとする。

 目をつぶると、嫌な思い出がフラッシュバックしてきた。

『お前が言うから、買ってやったんだろ!』

『誰が養ってやると思ってる!』

『ちゃんとした仕事をしてないお前に期待はしてない!』

『俺の言う通りにしてれば良いんだよ!』

 結婚を意識した男性との思い出。いつから狂ってしまったんだろう。

 ピッチェの姿が当時の私と重なる。

 結婚って対等な立場でするんだよね?

 なんで、上から目線なの?

 私だって仕事してるよ?派遣の仕事は認められないの?

 収入が少ないからって、なんで養ってもらうことになるの?

 養ってもらうと、言いなりにならなくちゃいけないの?

 違うよね。違う、違う!

 ピッチェに技術を提供してやった。

 ピッチェに食料をくれてやった。

 同盟を断れる立場だとでも思ってるのか?

 そんな風にしか私には聞こえない。

「まぁ、リエス様、顔色が……大丈夫ですか?」

 これ以上ここにいたらダメだ。

「少し気分が、部屋に戻ります」

 レジージョに支えられ、部屋に戻る。一人になって休みたいからと、レジージョには出て行ってもらう。

 アレ以上あの場にいたら、使節団の人たちのことが嫌いになりそうだ。

 変だよ。

 変!

 同盟と結婚は違うのかもしれないけど、だけど、恩を着せて従わせるのは違うよね?

 たとえ同盟が締結されたって、いざという時に約束は守られるの?

 キュベリアが窮地に立たされたとき

「今までありがとう、さよーなら~、楽しかったわよ」って、悪女みたいにピッチェは同盟無視して去ったりしない?

 ピッチェは、本当にキュベリアが助けてくれるって思うんだろうか?

「ピッチェがなくなっても痛くも痒くもない、切り捨てるぞ」と、同盟を破棄されると考えないだろうか?

 対等にギブアンドテイクが成立していない国同士、同盟を組んで上手くいくのだろうか?

 考えすぎなのかもしれない。

 所詮、私は一庶民だもの。国同士の駆け引きや思惑なんて分からない。

 でも、心が叫んでる。

 違うって。

 こんなんじゃダメなんだって!

「ピッチェには何も望んでいない」なんて、どうしてそんなことがいえるの?

 あのオリーブオイルは最高だったよ!キュベリアにはないでしょう?なんで、もっと良いとこ見つけようとしないの?

 もっと、もっとピッチェには良いとこあるよ!

 キュベリアのためになるものが、絶対にある!

 悔しい!

 悔しい!

 もう、自分の過去の思いに囚われてるのか何なのか、心の中がぐちゃぐちゃで訳が分からない。

 だけど、一つだけ確信してた。

 このままじゃ、ダメだ、と。

 

 ドレスを脱ぎ捨て、ベッドの上に置く。その上に布団をかぶせる。さらに、ウィッグをはずして、枕にかぶせる。

「よし、ダミー人形の完成!」

 ベッドにはまるで私がうつ伏せで寝ているよう見える。その上に、「体調不良、何があっても、朝まで起こさないで」と文字の表を見ながら置手紙を書く。もちろん板に。

 化粧を落とし、以前用意してもらった街へいける服を身に付ける。濃紺の飾り気のないワンピースだ。偶然にもこの城のメイド服によく似ている。エプロンをつけたらそっくりだろう。どこかにエプロン落ちてないかな?

 髪が短いのは目立つので、後ろでなんとか一つ結びをして、それにハンカチをかぶせ「おだんご頭風」にした。

 よし、準備完了。これで、誰もリエスとは思うまい。

 後は、部屋をどうやって抜け出すかだ。

 ちょっと考えて、お盆にカップを乗せて持った。

 それを持ったまま扉を開ける。

「失礼いたしました」

 と、お辞儀をしながら部屋を出る。

 さも、メイドが仕事を終えて部屋を出たかのように。案の定、部屋から出る私を不信に思い呼び止める者はいなかった。

 急いで離宮を出て、人がたくさんいるところを探して歩く。

 何かあるはず!

 ピッチェにはあって、キュベリアにはないものが。

 外交カードになりうる、何かが!

 離宮と王宮の中ほどにある小さな建物に、メイド達が出入りしているのが見えた。

「ちょっと聞いてもいいかしら?」

「あら?あなた新人?聞きたいことって?」

「ピッチェの特産品を知りたいんだど、知らない?」

「知らないわ」

 何人かに同じ質問をしてみたけれど、収穫なし。

 よく考えたら、中の人間は、それを当たり前にしか思ってないから、特産品だなんて思いも寄らないよね。

「あなた、暇なら手伝って!」

 げ、しっかりメイドと間違えられた!

 建物の中には、布が山と積まれている。その横では、タライに布を入れて足踏みしている人の姿が。洗濯用の建物だ!

「いえ、あの、私、暇じゃなくて」

 こんなところで時間をとられている暇はない。朝までに何か見つけないといけないんだから!明日には話し合いが行われる!

「これで洗って」


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