30 過去の亡霊
昼食会が終わり、使節団主要人物が集まって今後の作戦会議が始まった。
シャルト、サマルー、私と、国から派遣されてきている官吏2名とセバウマ領の官吏3名。レジージョが隅に控えている。
シャルトが、明日話し合いの場が設けられることを伝えると、官吏たちから小さく歓声が上がる。
「実にリエス殿の働きはすばらしかった!政府にもこれだけの働きができる人物はそういないでしょう!」
サマルー、それ政府側の人間に聞かれたらまずいんじゃない?と思ったら、政府側の官吏がうなずいてる。それでいいの?
「技術指導の件をリエスさんには改めてお願いします」
全力で戦争回避するって誓ったし。
「あの、技術指導はキュベリア国内でいいですか?こちらの国から何名か派遣してもらって」
「もちろんです。リエスさんがピッチェにとどまる必要はありません」
よかった。山小屋に帰るのが延びると、ラトが空腹でのびているかもしれない。(親父ギャグはアラフォー女子の嗜みと、会社の先輩が言っていた)
「リエス殿の技術提供は、女帝から要求されたとは、確かですか?」
官吏の一人が口を開く。
「確かだ」
「そうですか。ピッチェからの要求をこちらが飲む形ですね」
「ピッチェでは昨年は不作で、食糧備蓄が減っているという話を耳にしました。」
「そうか、では、食料の支援を提案しよう」
私、話にはいっても良いかな?
「あのぉ、」
「なんでしょうか?」
「ピッチェには何を要求するんですか?」
「ありません。ピッチェには何も望んでいません」
「何故ですか?」
友好な関係って、ギブアンドテイクなんじゃないのかな?
何か、話を聞いてると、キュベリアが一方的に与えるばかりっみたいなんだけど。
「ピッチェにあるものは、キュベリアにもあるからです。特に求めるものはありません。ピッチェの国力から考えると、自国で消費する以上のものを生産するのは難しいでしょう。無理な要求をして関係を悪化させるつもりはありません」
そんなもの?
なんだか、胸の奥がもやっとする。
目をつぶると、嫌な思い出がフラッシュバックしてきた。
『お前が言うから、買ってやったんだろ!』
『誰が養ってやると思ってる!』
『ちゃんとした仕事をしてないお前に期待はしてない!』
『俺の言う通りにしてれば良いんだよ!』
結婚を意識した男性との思い出。いつから狂ってしまったんだろう。
ピッチェの姿が当時の私と重なる。
結婚って対等な立場でするんだよね?
なんで、上から目線なの?
私だって仕事してるよ?派遣の仕事は認められないの?
収入が少ないからって、なんで養ってもらうことになるの?
養ってもらうと、言いなりにならなくちゃいけないの?
違うよね。違う、違う!
ピッチェに技術を提供してやった。
ピッチェに食料をくれてやった。
同盟を断れる立場だとでも思ってるのか?
そんな風にしか私には聞こえない。
「まぁ、リエス様、顔色が……大丈夫ですか?」
これ以上ここにいたらダメだ。
「少し気分が、部屋に戻ります」
レジージョに支えられ、部屋に戻る。一人になって休みたいからと、レジージョには出て行ってもらう。
アレ以上あの場にいたら、使節団の人たちのことが嫌いになりそうだ。
変だよ。
変!
同盟と結婚は違うのかもしれないけど、だけど、恩を着せて従わせるのは違うよね?
たとえ同盟が締結されたって、いざという時に約束は守られるの?
キュベリアが窮地に立たされたとき
「今までありがとう、さよーなら~、楽しかったわよ」って、悪女みたいにピッチェは同盟無視して去ったりしない?
ピッチェは、本当にキュベリアが助けてくれるって思うんだろうか?
「ピッチェがなくなっても痛くも痒くもない、切り捨てるぞ」と、同盟を破棄されると考えないだろうか?
対等にギブアンドテイクが成立していない国同士、同盟を組んで上手くいくのだろうか?
考えすぎなのかもしれない。
所詮、私は一庶民だもの。国同士の駆け引きや思惑なんて分からない。
でも、心が叫んでる。
違うって。
こんなんじゃダメなんだって!
「ピッチェには何も望んでいない」なんて、どうしてそんなことがいえるの?
あのオリーブオイルは最高だったよ!キュベリアにはないでしょう?なんで、もっと良いとこ見つけようとしないの?
もっと、もっとピッチェには良いとこあるよ!
キュベリアのためになるものが、絶対にある!
悔しい!
悔しい!
もう、自分の過去の思いに囚われてるのか何なのか、心の中がぐちゃぐちゃで訳が分からない。
だけど、一つだけ確信してた。
このままじゃ、ダメだ、と。
ドレスを脱ぎ捨て、ベッドの上に置く。その上に布団をかぶせる。さらに、ウィッグをはずして、枕にかぶせる。
「よし、ダミー人形の完成!」
ベッドにはまるで私がうつ伏せで寝ているよう見える。その上に、「体調不良、何があっても、朝まで起こさないで」と文字の表を見ながら置手紙を書く。もちろん板に。
化粧を落とし、以前用意してもらった街へいける服を身に付ける。濃紺の飾り気のないワンピースだ。偶然にもこの城のメイド服によく似ている。エプロンをつけたらそっくりだろう。どこかにエプロン落ちてないかな?
髪が短いのは目立つので、後ろでなんとか一つ結びをして、それにハンカチをかぶせ「おだんご頭風」にした。
よし、準備完了。これで、誰もリエスとは思うまい。
後は、部屋をどうやって抜け出すかだ。
ちょっと考えて、お盆にカップを乗せて持った。
それを持ったまま扉を開ける。
「失礼いたしました」
と、お辞儀をしながら部屋を出る。
さも、メイドが仕事を終えて部屋を出たかのように。案の定、部屋から出る私を不信に思い呼び止める者はいなかった。
急いで離宮を出て、人がたくさんいるところを探して歩く。
何かあるはず!
ピッチェにはあって、キュベリアにはないものが。
外交カードになりうる、何かが!
離宮と王宮の中ほどにある小さな建物に、メイド達が出入りしているのが見えた。
「ちょっと聞いてもいいかしら?」
「あら?あなた新人?聞きたいことって?」
「ピッチェの特産品を知りたいんだど、知らない?」
「知らないわ」
何人かに同じ質問をしてみたけれど、収穫なし。
よく考えたら、中の人間は、それを当たり前にしか思ってないから、特産品だなんて思いも寄らないよね。
「あなた、暇なら手伝って!」
げ、しっかりメイドと間違えられた!
建物の中には、布が山と積まれている。その横では、タライに布を入れて足踏みしている人の姿が。洗濯用の建物だ!
「いえ、あの、私、暇じゃなくて」
こんなところで時間をとられている暇はない。朝までに何か見つけないといけないんだから!明日には話し合いが行われる!
「これで洗って」




